東京 下町の老舗レコード店 新型コロナ影響で約70年の歴史に幕

緊急事態宣言が続く東京。その影響は、長年愛されてきた下町の名店にも及んでいます。駆け出しの演歌歌手によるミニコンサートが名物となっていた江東区の老舗レコード店が先月末、売り上げの減少などを理由に閉店し、およそ70年の歴史に幕を下ろしました。

閉店したのは、江東区亀戸にある老舗レコード店、「天盛堂」です。

昭和25年創業のこの店は、駆け出しの演歌歌手によるミニコンサートとレコードやCDの手売りが名物で、坂本冬美さんや山本譲二さん、それに氷川きよしさんもデビュー当時にコンサートを開くなど、「演歌歌手の登竜門」としても知られていました。

木箱のステージに立つ歌手とパイプ椅子に座って声援を送る常連客の姿が地元ではおなじみの光景となり、20年ほど前までは店の外に客があふれるほどの活気があったといいます。

時がたつにつれ、街の風景は変わっていきましたが、「天盛堂」は昔ながらのたたずまいや営業スタイルを貫き、毎年100人を超える演歌歌手と常連客との交流の場を提供し続けてきました。

しかし、新型コロナウイルスの影響で去年2月以降、ミニコンサートが開けなくなり、売り上げが大幅に落ち込んだということです。
2代目店主の三本木康祐さん(81)と妻の勝子さん(78)は、体力が続くかぎり店を守りたいと考えていましたが、感染拡大で先行きが見通せない中、閉店することを決めました。

最後の営業日となった先月31日には、かつてここでコンサートを開いた演歌歌手や常連客などが次々に訪れ、下町の名店との別れを惜しんでいました。

そして、閉店時間の午後6時に三本木さん夫妻が店の外に出ると、常連客から「ありがとう」という声や拍手が湧き起こり、「天盛堂」は地元の人たちに見守られながらおよそ70年の歴史に幕を下ろしました。

三本木さん夫妻は「いい時も悪い時もありましたが、70年間、2代にわたってよくやってきました。演歌歌手がここから一流の舞台に羽ばたいていくことが励みになっていたし、演歌だからこそお客さんとの結び付きも深まったのだと思います。皆様への感謝の気持ちでいっぱいです」と話していました。

別れ惜しむ演歌歌手と常連客も

閉店を前に、「天盛堂」にはゆかりのある演歌歌手や長年通い詰めた多くの常連客が集まり、思い思いのひとときを過ごしました。

店内には、これまでミニコンサートを開いてきた100人を超える演歌歌手のサイン色紙やポスターが壁一面に貼られています。

閉店を聞いて駆けつけた演歌歌手の1人で、三本木さん夫妻とは40年来のつきあいだという秋山涼子さんは、20年ほど前に書いたみずからのサイン色紙を見つけると、懐かしそうに眺めていました。

秋山さんは「高校生の頃から応援してもらっていました。訪れるたびに常連客の皆さんが『おかえり』と温かく迎えて下さり、ここがあるから頑張れる、そんなお店でした。三本木さん夫妻には演歌を本当に大事にしていただき、ありがとうございましたと声をかけたいです。下町の人情味あふれる、大切な心のふるさとでした」と話していました。
また、店内では常連客が演歌歌手と気軽に声を掛け合ったり、三本木さん夫妻と思い出話に花を咲かせて涙ぐんだりする姿も見られ、それぞれが「天盛堂」ならではのひとときを過ごしていました。

常連客の80歳の女性は「夫妻には優しくしてもらっていたので、最後を見届けなければと思いやってきました。氷川きよしさんのデビュー当時のコンサートをここで孫と一緒に見たのがいちばんの思い出で、私にとってはないと困る場所でした。閉店してしまうのは寂しいです」と話していました。

また、20歳の頃から通っていたという78歳の男性は「カセットテープも扱っているのが私たちの世代にとってはありがたく、月に1度は必ず来ていました。青春時代の思い出の場所でもあり、人生の楽しみがなくなってしまうという気持ちです」と話していました。

コロナ影響で下町の老舗も閉店相次ぐ

新型コロナウイルスの影響で、東京の下町にある老舗も閉店が相次いでいます。

葛飾区の「柴又帝釈天」の近くにある料亭「川甚」は、映画「男はつらいよ」にも登場したことで知られる江戸時代創業の老舗ですが、先月末に閉店し、およそ230年の歴史に幕を下ろしました。

かつては名物のうなぎやこいを使った料理を味わうため多くの団体客や観光客が訪れていましたが、感染拡大の影響で客が激減し、去年4月以降の売り上げが前の年の半分以下に落ち込んでいたということです。

また、同じく江戸時代の創業で、足立区の「西新井大師」の近くにある「割烹 武蔵屋」も去年9月末に閉店しました。

200人が入る宴会用の大広間があり、参拝客だけでなく地元の住民にも長年親しまれてきましたが、感染拡大の影響で売り上げが落ち込み、先行きが見通せなくなったとしています。
一方、大正6年に創業した荒川区の「割烹 熱海」はいったんは今月いっぱいで閉店することを決めましたが、地元の住民から存続を求める声が相次ぎ、現在は規模を縮小するなどして営業を続けられないか、模索している状況だということです。