広電「今は痩せ我慢」不屈の魂でコロナに立ち向かう

広電「今は痩せ我慢」不屈の魂でコロナに立ち向かう
広島市の町並みで象徴的な存在ともいえる路面電車。この路面電車やバスを運行しているのが、100年以上の歴史を持ち、原爆投下直後わずか3日で運転を再開したという広島電鉄、“広電”です。新型コロナで利用客が減少し、終電の繰り上げや減便など異例の対応を迫られました。これから、地域の足としてどのように役割を果たしていくのか。コロナ禍で「ダウンしそうなボディブローを食らった」と話す広電の椋田昌夫社長が語った“変革”と“地元への思い”とは。(広島放送局記者 渡邊貴大)

“まだダウンはしていない”

椋田社長
「私が入社して以来初めての惨憺たる成績だ。ノックアウトに近い打撃を受けた。けれど、まだダウンはしていない。今は痩せ我慢をして経営を続ける時期だ」
去年11月の中間決算の記者会見の中で、椋田昌夫社長(74)は、新型コロナウイルスによる経営への影響をこう表現しました。

入社して52年。この間に、路面電車やバスの運行管理だけでなく、グループ会社のスーパー事業で店舗の統廃合を進めるなど経営再建に取り組んだ経験も持つ社長は、独特の表現で、強い危機感を示しました。

外出の自粛やリモートワークの推進で通勤・通学客の減少、それに外国人旅行客の激減によって、グループ全体の中間決算で、本業のもうけを示す営業損益は32億円の赤字。平成12年度にグループ全体の中間決算を公表して以来、初めての営業赤字です。

広島電鉄は、路面電車として国内で最も利用客が多く、昨年度は1日平均およそ15万人が利用しました。
緊急事態宣言が出ていた去年5月の利用客は前の年の半分以下にまで減少。宣言が解除されたあとも感染が広がる前の8割までしか回復しませんでした。

会社は去年11月、運行する8路線すべての終電を30分ほど前倒し。さらに、通勤や通学の時間帯を除いて日中のダイヤも1割近く削減する異例の対応に踏み切りました。
椋田社長
「公共交通というのは人口減少や少子高齢化で非常に厳しい事業だという認識はもっていた。それがコロナによって、予測以上に激しい変化と速いスピードで変わってきた。これまでは、業界では地方公共交通のトップランナーだと思っていたが、一気に世の中に追い越され、非常に厳しい環境になったというのがこの1年だ」

路面電車が使われない?

広島県では新型コロナウイルスの感染が急拡大したことから、12月17日以降、県が集中対策期間と位置づけ、市内の繁華街にある飲食店に対して営業時間の短縮を要請。

再び利用者が減少する事態となり、改めて年末に椋田社長に話を聞きました。そこで椋田社長が強調していたのが公共交通機関の在り方が大きく変わったということでした。
需要喚起策の「Go Toトラベル」で県内有数の観光地・宮島でホテルや旅館は一時、満室になりました。しかし、消毒の徹底や走行中に車内の窓を開けるといった対策を徹底していたにもかかわらず、路面電車の利用客は戻らなかったといいます。
椋田社長
「なぜなのかと必死で考えた。そうすると、コロナ禍で移動についての人々の考えが変わったのだという結論に行き着いた。路面電車やバスは、密な空間になると思われ、リスクを避けて、マイカーといった単独での移動が安全であるという気持ちが強まった結果だと。絶対に前のように公共交通機関が使われるようにはならないと思った」

原点回帰!まずは安全を

かつてのように利用客が戻ってこないのではないか。椋田社長がはじめに取り組んだことは、利用客に安心して乗ってもらうために、原点回帰とも言える安全の徹底です。
路面電車やバスで、「乗客が着席するまで出発しない」「停車するまで立ち上がらないようアナウンスする」といった基本に立ち返りました。

こうした背景には10年前、呉市交通局のバス事業を継承したときの経験がもとになっています。
椋田社長
「当時、車内事故が多かったので徹底的に安全な乗り物にしようじゃないかということで取り組んでみた。そうすると、1年後、2年後を見たらお客が少しずつ増えてきた。お年寄りに話を聞いたら、安全なバスだから乗れると話されていた。バスへの評価が変わったと実感した」
利用者の急速な減少に苦しんでいた呉市のバスの利用客は、2年後には増加に転じました。公共交通に安全安心が求められる今だからこそ、この成功体験をもとに、路面電車やほかのバスでも取り組もうというのです。

垣根を越えた協力へ

もう1つが、利用しやすい公共交通機関への変革です。

広島電鉄だけでなく、地元のバス会社やJR西日本の乗り物を1つのチケットで利用してもらおうというものです。会社の垣根を越えて、去年3月から世界遺産がある宮島をはじめ、海上自衛隊の町・呉、瀬戸内海の島々を楽しめる江田島エリアといった観光地で始めました。
スマートフォンをチケット代わりに使えるデジタルチケット「モビリー」を導入。路面電車やバスだけでなく、フェリー、ロープウエーを、時間単位(8時間から72時間)で利用でき、アプリをダウンロードする必要もありません。

英語に対応し、外国人旅行客にも利用が広がっています。観光地で始めたこのサービスを、地域住民の日常生活でも使ってもらおうと検討を進めています。
例えば、時間内なら何度でも路面電車やバスを乗り降りできたり、一定の範囲であれば、路面電車とバスを乗り継いでも追加の料金がかからないようにしたりすることを考えています。複数の交通機関を組み合わせてスムーズに移動する次世代の交通サービス、「MaaS(マース)」の広島版を実現しようとしているのです。

さらに、アフターコロナを見据えて、平日に比べて利用客が少ない土日の割り引き運賃や、ラッシュ時を避けて乗車する人には料金を割り引く「オフ定期」など、新しい運賃体系の検討も進めています。
椋田社長
「もともと10年、20年先の事業として準備を進めていたが、それがコロナになって大きく前倒しをしなければならなくなった。地元の人が動きやすい切符にすることによって、公共交通機関に乗ってもらう回数を増やせば、人口の減少や利用者の落ち込みをカバーできるという方向で生き残ろうとしている」

地域の足として

ノックアウト寸前と語った椋田社長に、最後に地元・広島の地域の足としてこれからどのような役割を果たしていくのか、聞きました。
椋田社長
「広島がもっともっと元気な街になることにどれだけわれわれが貢献できるか、ということを考えながら、会社を引き継ぐことが僕の夢なんです。確かにダウンしそうなボディブローを食らったんですが、まだ負けはせんという気持ちで今は頑張っています」
100年以上の歴史の中で、原爆の投下直後わずか3日で路面電車の運転を再開して、復興を支えてきた広島電鉄。

新型コロナウイルスというこれまでにない危機に直面し、再び立ち上がろうとしています。
広島放送局記者
渡邊 貴大
平成25年入局
福島放送局、鳥取放送局を経て、
広島局では経済を担当