オフィスの感染対策どうする 専門家が指摘するポイントは

感染対策の専門家と大手建設会社がオフィスでの感染対策の内容を採点して数値化し、改善につながる設備や設計を提案する新たな事業に乗り出すことになりました。応接室やワークスペース、それにエレベーターや食堂など、オフィス内でどのような対策を行ったら感染リスクを低くできるのか、実際のオフィスビルで専門家にそのポイントを解説してもらいました。

感染制御の専門家と実際のオフィスビルを点検

解説してくれたのは、順天堂大学で感染制御を専門とする堀賢教授で、この取り組みの発案者です。

堀教授のもとには新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、オフィスでの対策をどう進めるか企業からの問い合わせが相次ぎ、大手ゼネコンの清水建設とともに事業として始めました。

(1)来訪者への対策「事前登録と非接触手続きを」

取材場所の清水建設の技術研究所のオフィスビルで待ち合わせをし、中に入ろうとすると、まず堀教授がチェックしたのは受付でした。
この建物の受付では、外部からの来訪者は手指のアルコール消毒と検温を行うだけでなく、体調に異常がないかなどを尋ねるアンケートを記入して、使い捨ての入館カードを受け取ることになっています。

堀教授は、アンケートを記入するためのボールペン、入館カードの受け渡しに注目して、さっそくポイントを指摘しました。
(堀教授)
「いずれも接触感染のリスクがある。アンケートも入館手続きも来訪者がアプリなどを通じて事前に登録しておき、受付でQRコードをかざすなどして、非接触で手続きできるのがベストだ」
ただ、QRコードなど非接触のシステムの導入はすぐにできないところも多いので、その点について堀教授に聞くと前後の手指消毒を徹底できるように工夫することが大切だと説明しました。

また、使い捨てではない入館カードを使っている場合に、どうしたらよいか聞くと、例えばシールにして、建物から出るときにゴミ箱に入れてもらうなどして受け渡しを減らす工夫をするとよいと話していました。

(2)応接室 アクリル板だけでなく「換気」を

建物に入ったあと次に堀教授がチェックしたのは応接室でした。

4人が向かい合って座る打ち合わせ用のデスクの真ん中には、アクリル板が設置されていました。
(堀教授)
「アクリル板で一定の飛沫感染は防ぐことはできるが、より粒子が小さい『マイクロ飛沫』については、デスクの周辺を漂い続けるおそれがあり、アクリル板を置けば十分というわけではない。換気にも気を配る必要がある」
堀教授は応接室のような狭い部屋では、アクリル板に加え、換気を十分にすることで効果が上がると指摘しました。

換気についてはビルの空調システムが上から空気が噴き出すタイプと下から吹き出すタイプがあり、感染症対策の視点からは下から天井に向かって新鮮な空気が吹き出す方が空気がよどむことが少なくより効果的だということです。

(3)消毒液の設置場所は「人の動線を意識して」

社員が常駐する部屋に移動する途中、堀教授は廊下のアルコール消毒液を前に立ち止まりました。
消毒液がエレベーターの前から少し離れた反対側の廊下の壁際に設置されていたのです。
堀教授は、担当者にその理由を尋ねました。

(堀教授)
「このアルコール消毒液はどうしてここに設置したんですか?」

(担当者)
「近くにトイレがあり、トイレから出てきても使えてエレベーターに乗る前後にも使えるちょうどいい場所と考えました」

(堀教授)
「こんな中途半端なところに置いたら、逆に誰も使用しなくなる。アルコール消毒を行う目的を明確にし、その動線上に置かないと使用しない傾向にある、これは病院でも同じ考え方で感染対策の原点だ」

堀教授はエレベーターに乗り降りする人、トイレに出入りする人、いずれも人が移動する線、動線を意識して対策をすることの重要性を指摘しました。

(4)部屋ごとの「換気量」から出社人数の計算を

続いて訪れたのは社員のワークスペースです。

会社の担当者が出社率をどのくらいにすれば感染リスクを低くできるのか尋ねました。

堀教授は、設置された空調システムが1時間にどのくらいの換気量なのかを調べることが一つの目安となるといいます。

感染リスクを抑えるためには、1時間の換気量が、1人あたり30立方メートル確保されていることが重要だということで、たとえば、300立方メートルの換気量がある部屋では10人程度の出社が望ましいということです。

1時間の換気量がどのくらいの性能のなのかは、ビルの設計段階で計算されているということで、調べればわかるといいます。

堀教授は社員に在宅勤務を勧める際、こうした根拠を明確にして知らせることも、感染対策の意識を高めるために重要なことだと指摘しました。

(5)食堂 複数が触れるものはすべて注意必要

堀教授は、社員食堂もチェックしました。

様々な部署から人が集まるためひとたび感染が起こると建物全体に広がるリスクがあり、感染対策で特に気をつけなければならない場所だといいます。
たとえば券売機、ここでは支払いはICカードを使って非接触の仕組みが導入されていましたが…
メニューの選択はタッチパネルを押すタイプでした。
このほか氷を入れるトングなど複数の人が触れるものはすべて注意する必要があると指摘していました。

チェックシートで採点して改善策を提案

堀教授は、清水建設と共同で、オフィスの感染対策の内容を採点して数値化する独自のチェックシートを作りました。

ハードとソフトの対策について、「接触感染」、「飛沫感染」、「マイクロ飛沫感染」などの観点から、チェック項目は100近くにのぼり、感染防止対策を企業の実情に合わせて判断し、設備などを提案をするということです。

将来的には感染対策を考慮したビル設計も

堀教授らは、企業が感染症対策を見直すきっかけにしてもらうとともに、食堂やエレベーターホールなど、人が滞留しがちな場所では、人の動きを一方向に限定した設計にするなど、今後は、感染対策を考慮した建物を作ることにつなげていくとしています。