学習ノート今昔 そして未来

学習ノート今昔 そして未来
小さいころ、誰もが使っていた学習ノート。子どものころ、私は、色鮮やかな植物や昆虫の学習ノートを使っていました。このノートをきっかけに昆虫が好きになり、虫取り網を手に近所の公園でセミやカマキリを捕まえていました。しかし、最近この学習ノートにもある変化が起きています。
(ラジオセンター 瀬古久美子)

シリーズを始めた意図は

植物や昆虫の表紙で知られる「ジャポニカ学習帳」。
1970年に誕生し、これまでに14億冊が販売されています。

製造しているショウワノートの開発担当者によると、野球や女の子などのイラストが表紙の主流だった当時、生き物の“写真”は斬新で、爆発的にヒットしたと言います。
ショウワノート開発担当 吉橋昌宏さん
「当時、公害が社会問題になる中で、子どもたちには自然に関心を持ち、環境を大事にしてほしいと考えました。そこで、世界に1枚しかない珍しい植物や昆虫の写真を表紙にすることにしたんです」

表紙の撮影を担当するカメラマンは

その表紙の写真を撮影してきたのが、写真家の山口進さん(72)です。

1978年から40年以上にわたって1人で撮影を担当。撮影で訪れた国はこれまでにおよそ30か国、手がけた表紙は700種類に及びます。

山口さんはどのような思いで撮影を続けてきたのでしょうか。
山口進さん
「子どもの好奇心を刺激したいと思っています。花や昆虫の写真を見て、名前やその生態を知りたくなる。好奇心が人間の生きる力を育みます。だから、これはなんだろうとあえて疑問を抱かせるような写真を撮るように心がけているんですよ」

学習ノートの歴史

こうした学習ノート、どのような歴史があるのでしょうか。

まず、昔の文房具にくわしい古文房具コレクターのたいみちさんに話をうかがいました。
たいみちさん
「明治時代に近代の学校制度が整備されますが、明治35年に大阪の出版社が罫線入りの洋紙の雑記帳を販売したという記録があり、これが学習ノートの始まりではないかと思われます」
最初に学習ノートを作ったとされるこの大阪の出版社、実は現在、学習ノート製造トップシェアの日本ノートにつながっています。

早速、確認してみると。
日本ノート販売促進室 山野健太郎さん
「社内の記録ですと、明治37年に『練習帳』と呼ばれる製品が、明治40年からはヨーロッパの罫線入りのノートにヒントを得た小学生向け罫線入り学習ノートの本格的製造が、それぞれ始まっています。おそらくですが、私たちの会社が日本で初めて学習ノートの製造を始めたのではないでしょうか」
たいみちさんが所有する大正から昭和にかけての学習ノートを見せてもらいました。

教科ごとに仕様が分かれていたり、裏表紙に時間割を書き込めるようになっていたりと、今とほとんど変わらないように感じました。

ただ、学習ノートが普及したのは第一次世界大戦後の大正時代。
意外にも鉛筆がきっかけだったと、教科書などを所蔵している京都市学校歴史博物館の学芸員、林潤平さんは指摘しています。
京都市学校歴史博物館 林潤平さん
「第一次世界大戦で、鉛筆が国際的に供給不足となり、日本の企業が国際市場に進出しました。しかし当時の日本製品は品質が悪いため、戦後、海外では売れなくなります。そこで、企業が日本の学校へ鉛筆の売り込みをしたため、鉛筆に合わせて学習ノートも普及したと言われています」

昆虫の表紙が消えた!?真相は

さて、ジャポニカ学習帳に話は戻ります。

子どもの好奇心を刺激しようと苦労して撮影した数々の写真。しかし、現在、販売されている学習ノートをみると、花の表紙しかありません。

9年前に、表紙から昆虫が消えて、子どもたちの昆虫嫌いが増えたためだと話題になったので、記憶にある人もいるのではないでしょうか。

もっとも担当者によりますと、昆虫が消えた直接的理由は、昆虫嫌いの増加ではなかったといいます。
吉橋昌宏さん
「昆虫が消えた一番の理由ですが、当時、撮影を行ったアフリカで、表紙にふさわしい色鮮やかな昆虫が撮影できなかったからです。ただ、『虫の写真が怖い』といった声が出てきたことから、人気の商品からは昆虫を外していたのは事実です」
昆虫嫌いの子どもについて、カメラマンの山口さんは次のように話します。
山口進さん
「私が開催している自然教室には、虫の嫌いな子も参加しますが、結果として子どもはみんな昆虫が好きだと感じます。嫌いな子も昆虫を触っている子どもを見て、好きになっていくんですよ」
「子どもは昆虫が好き」

実際に、山口さんのことばを裏づけるような事実もあります。
昆虫が表紙から消えて3年が経った2015年、表紙の人気投票を行ったところ、カブトムシやクワガタなどの昆虫に人気が集まりました。

そこで当時、昆虫を表紙にした復刻版が発売されました。

そして、去年9月には、発売から50年を記念して、クワガタやカマキリなど昆虫だけを表紙にしたシリーズを再び限定で販売しています。

昆虫嫌いな子どもがいる中で、なぜあえて昆虫だけの限定商品を販売したのでしょうか。
吉橋昌宏さん
「昆虫に少しでも触れてもらえれば、昆虫嫌いもなくなると考えました。昆虫に関心を持つことで改めて自然を知ってほしいですね」

学習ノートの未来は

一方、タブレット端末を使った教科書のデジタル化や、少子化が進むなか、ノートの側も対応しようとしています。
日本ノートは、タブレット端末の横に置いても邪魔にならない通常の半分の大きさのものや、新たに教科化された道徳専用の学習ノートを販売しています。

さらに進んだ動きもあります。

学生時代に、学習ノートを友達と貸し借りした人もいると思いますが、最近では、その貸し借りをデジタル化するアプリが登場しているのです。
「Clear」と呼ばれるこのアプリ、自分で書いたノートを撮影し、それをアプリ上に公開すると、周りの友達だけでなく、全国の子どもと共有することができます。

現在、国内で230万人、中高生の3人に1人が使い、インドネシアなど海外でも利用が広がっています。

アプリを運営する会社の社長は次のように話します。
CLEAR 新井豪一郎社長
「子どもたちのノートはわかりやすく、貴重な教育資産ですが、これまでいかされてきませんでした。デジタルの力によって共有できるようにすれば、子ども同士で勉強を教え合うこともできると考えました」
国語や算数などの教科ごとにノートを閲覧できるようになっていて、わかりやすいノートには「いいね」を付けたり、コメントをやりとりしたりできます。

ポイントになるところには、色のついたペンを使ったり、イラストを描いたりと、子どもたちが工夫をこらしてわかりやすく学ぼうとしている様子がわかります。

アプリに載せようと、わかりやすいノートを作ろうとすることで、勉強のモチベーションがあがったり、プレゼン力をあげたりすることができるといいます。

さらに、ほかの子どものノートを見る側も、わかりやすいノートの作り方を知ることで、勉強方法を学べるという利点があるということです。

アプリの利用者は、新型コロナウイルスの影響でおよそ1.5倍に増えています。
子どもたちからは「孤独な気持ちがなくなり、癒やされた」といった声もあがっているということで、今後もノートによる子どもたちのつながりはさらに増えていくと予想されます。

こうした学習ノートのデジタル化を受けて、開くと180度水平に開いて、撮影するときに影ができない学習ノートが開発されたり、ノート自体がデジタル化されたりもしています。

今後、学習ノートはさらに変わっていくのかもしれません。

今回の取材を通じて、学習ノートから子どもたちはさまざまなメッセージを受け取っているように感じました。

また、子どもたちは、学習ノートを通じて、友達とつながり、さらに自分自身で学ぶ力を育もうとしています。

私も1人の親として、これからも学習ノートによって子どもの世界がさらに広がり、大きな夢を描けるきっかけになってくれればいいなと感じました。
ラジオセンター
瀬古久美子
2005年入局
奈良局・大阪局・社会部を経て現所属
主にラジオニュースの制作と取材を担当
1児の母