WHO調査 発生源めぐる十分な調査できるか 中国の対応が焦点

新型コロナウイルスの発生源などの解明に向けて、中国・武漢を訪れているWHO=世界保健機関の国際的な調査チームは、31日、感染拡大の初期に多くの患者が確認された海鮮市場を視察しました。一方で、中国政府が感染対策の成果を宣伝する展覧会などの視察にも多くの時間があてられていて、発生源をめぐる十分な調査ができるのか、中国側の対応が焦点です。

日本を含む各国の専門家で作るWHOの調査チームは、先月29日から武漢での本格的な現地調査を始め、患者の対応にあたった病院を訪れて医療関係者からの聞き取りを行ったほか、31日は、感染拡大の初期に多くの患者が確認された海鮮市場をおよそ1時間かけて視察しました。

一方で、30日には、中国共産党の指導のもとで感染の封じ込めに成功したと宣伝する展覧会の会場におよそ2時間半にわたって滞在したほか、31日の海鮮市場の視察前には、感染対策に成功し、都市の封鎖が行われていた間、住民への食料の供給を支えたと中国政府が宣伝する別の市場を、およそ1時間半視察しました。

中国側としては、国際社会から初期対応の遅れを指摘される中、一連の対応の正当性をアピールし、批判をかわすねらいがあるものとみられます。

調査チームは今月11日まで現地に滞在する予定ですが、ウイルスの発生源をめぐる十分な調査ができるのか、中国側の対応が焦点です。

中国の姿勢 専門家の見方

中国政府は、WHOの調査チームに協力する姿勢を示す一方で、発生源については中国以外の可能性もあるという主張を繰り返しています。

さらに、中国外務省の趙立堅報道官は、先月29日の記者会見で「発生源をめぐる問題について交流と協力を進めることは、地球規模の研究の一部であり調査ではない」と強調し、国際社会から初期対応の遅れを指摘される中、今回の調査が責任追及の動きにつながらないよう警戒しているものとみられます。

中国の情勢に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は「中国側は、発生源は中国ではないというシナリオをすでに描いている。WHOの調査チームが求めるものをすべて提供すればそのシナリオが崩れてしまうため、提供するとは考えにくい」と話しています。

また、調査チームが中国政府の宣伝色の強い展覧会などを視察したことについては「どこに連れて行くかは中国側がすべて主導権を握っているのではないか。発生源の解明とは関係のない場所を見せるなど、核心にあたる部分には触れてほしくないように見える。中国としては、パンデミックになった責任をいかにして回避するかが重要で、調査を受け入れて何も出なかったとなれば、自分たちに有利に働くと考えているはずだ」と話していました。

父親亡くした遺族「私たちの話しを真っ先に聞くべき」

WHOの国際的な調査チームによる現地調査について、武漢の病院で新型コロナウイルスに感染した父親を亡くした張海さんは、NHKの取材に対し「調査チームは私たち遺族の話を真っ先に聞くべきだ」と訴えています。

張さんによりますと、WHOの現地調査が始まるのを前に、遺族などが参加するSNSのグループチャットが突然、使用できなくなったということで、中国当局は、初期対応の遅れや情報の隠蔽があったとして政府の責任を問い続ける遺族の声に神経をとがらせているものとみられます。