クルーズ船集団感染 乗客搬送の保安官「基本の徹底しかない」

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で新型コロナウイルスの集団感染が起きてから1年となるのを前に、感染した乗客の海上での搬送にあたった横浜海上保安部の保安官がNHKの取材に応じました。
新型コロナについての情報がほとんどない中で対応を迫られた状況を振り返り、「ウイルスに対応するには基本的な感染対策を徹底するしかないと思う」と述べました。

横浜海上保安部の巡視艇「はまかぜ」の小澤大船長は去年2月、横浜港の沖合に停泊中の「ダイヤモンド・プリンセス」で行われた検疫で感染が確認された乗客ら10人を船から降ろして医療機関に運ぶ際、このうち3人の海上での搬送をみずからの巡視艇で担当しました。

集団感染が起きてから1年となるのを前にNHKの単独インタビューに応じ、小澤船長は「まさか自分の船で搬送するとは思っていなかった。どう搬送し、どう防護するのかなどいろいろ考えた」と述べ、当時、新型コロナについての情報がほとんどない中で対応を迫られた状況を振り返りました。

新型インフルエンザや原発事故への対応を参考にできるかぎりの装備で臨み、巡視艇の中は同僚の提案で患者が乗るスペースを隔離しました。

また、同僚とのやり取りはノートを使った筆談で行ったということです。

搬送には合わせて8人の海上保安官が携わりましたが感染した人は1人もおらず、「当時の患者への対応は間違っていなかったのかなと思い、安心した」と話していました。

一方、新型コロナの感染拡大に歯止めがかからない中、医療従事者などいわゆる「エッセンシャルワーカー」を取り巻く状況については、「自分の危険を顧みず仕事をしている人に対するいわれのない誹謗中傷が依然としてあるのは気持ちのいいものではない」と述べました。

そして今後については、「当時はここまで新型コロナの感染拡大が続くとは思っていませんでした。変異したウイルスの出現など状況は変化しているが、基本的な防護措置をしてそのときできるかぎりのことをもって強い意志で対応していきたい。活動の場がどこであれ、密集しない、マスクをしっかり着ける、消毒をするなど基本的な感染対策を徹底するしかないと思う」と述べました。

集団感染の経緯

【20/01/20】
日本発着のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が横浜港を出発したのは去年1月20日でした。

【20/02/03】
そして、香港や台湾などをめぐったあと去年2月3日に横浜港に入りました。香港に住む乗客の男性が新型コロナウイルスに感染したことが確認されていたため、厚生労働省は3700人余りの乗客・乗員に対し船内で検疫を行うことを決め、船は沖合でいかりを下ろして海上にとどまりました。

【20/02/05】
そして2月5日の朝、検査で感染が確認された10人を医療機関に初めて搬送することが決まり、海上の移動は横浜海上保安部の巡視艇2隻が担いました。

【20/02/06】
その後、乗客や乗員は原則として14日間客室などに待機することになり、船は翌・2月6日に大黒ふ頭に接岸し停泊を始めました。しかし停泊は当初の見通しを大幅に超えます。船内で感染が拡大し、そのたびに患者を船から降ろして医療機関に搬送するようになり、最終的に乗客、乗員合わせて712人の感染が確認されました。

【20/03/01】
最後まで残っていた乗員が下船したのはおよそ1か月後の3月1日で「ダイヤモンド・プリンセス」が大黒ふ頭を離れたのはさらに3週間余りたった3月25日でした。

【20/05/16】
そしてメンテナンスや消毒を終えて5月16日に横浜港を出てマレーシアに向かいました。

7月の運航再開を目指す

「ダイヤモンド・プリンセス」は日本発着のクルーズ船ですが、去年集団感染が起きたあと運航は再開できていません。

運航会社によりますと、現在、ことし7月の再開を目指して船内の感染防止策など準備を進めているということです。

具体的には、乗船手続きの際の混雑や密集を避けるため、健康状態やパスポート情報などを入力するアプリを用意して客に事前の入力を呼びかけるほか、感染症対策に詳しい医師を船に常駐させ、船内でも新型コロナの検査を受けることができる態勢を整えたいとしています。

運航会社の「プリンセス・クルーズ」は、「お客様に安心してもらえるよう3密回避の対応や非接触型のサービスを拡充するなど、安全対策を徹底した船内の環境づくりに努めます」とコメントしています。