北朝鮮の「永久欠番」復活~党大会に隠されたメッセージとは?

北朝鮮の「永久欠番」復活~党大会に隠されたメッセージとは?
「キム・ジョンウン(金正恩)同志を『総書記』として高く推戴(すいたい)する」。

北朝鮮で1月12日まで開かれた、朝鮮労働党の党大会。キム・ジョンウン氏の「総書記」就任の発表は、多くの関係者を驚かせました。「永久欠番」と見られてきた肩書の、復活のねらいは。そして5年ぶりの党大会には、果たしてどのようなメッセージが隠されていたのでしょうか。
(中国総局 記者・長野祥光、国際部 記者・長砂貴英)

「総書記」とは

キム・ジョンウン氏が就任した「総書記」。北朝鮮の「朝鮮語大辞典」では「朝鮮労働党の全責任を負う指導者、またはその職位」とあります。

つまり「党のトップ」です。

北朝鮮では1966年、ジョンウン氏の祖父キム・イルソン(金日成)氏の時代に「総書記」のポストが設けられ、イルソン氏がその地位に就きました。そして、続くキム・ジョンイル(金正日)氏も「総書記」になりました。

北朝鮮の憲法では「国家は党の指導のもとにすべての活動を行う」と定めています。つまり、党のトップである「総書記」が、国の最高権力者なのです。

「永久欠番」復活のねらいは

キム・ジョンウン氏は2011年に死去した父ジョンイル氏を「永遠の総書記」と位置づけ、みずからは「第1書記」や「委員長」という肩書を使ってきました。

10年ぶりとなる「総書記」の復活について、朝鮮労働党の関係者からも「正直に言うと意外だった。キム・ジョンイル総書記が『永遠の総書記』ということだったので」と、驚きの声が聞かれました。

北朝鮮政治に詳しい、慶應義塾大学の礒崎敦仁准教授は、次のように分析します。
「キム・ジョンウン氏のこれまでの『第1書記』『党委員長』は過渡的なポストで、あくまでも社会主義体制としては『総書記』がトップであると示したことになる。事実上の『永久欠番』を覆した形だ。お父さん、おじいさんと肩を並べる存在になるということを国内に誇示した」

「ただ、キム・ジョンウン氏が『総書記』に選出されたことをもって、何か大きな変化があるとは考えにくい。今回の党大会は、党の国家に対する指導性の強化に重点が置かれ、その象徴的な動きとして、先代が担っていた『総書記』というポストについたということになる」

初めて公開した「元帥服」

「建国の父」として崇拝される祖父らと、同列に並んだ形のキム・ジョンウン氏。その権威を高めようというねらいは、今回公開された姿からも見て取れます。
北朝鮮の国営テレビで放送された、軍服姿のジョンウン氏です。肩章には1つ星。「元帥」を示す階級章です。2012年に軍のトップである「共和国元帥」について以降、元帥としての軍服姿が公開されたのは初めてです。

実は真っ白な軍服は、朝鮮戦争の休戦まもない頃の、祖父イルソン氏の姿として知られています。
アメリカを中心とする国連軍との戦いを率いた祖父と同じ、「強い指導者」のイメージを強調しているものと見られます。

北朝鮮にはいま、国連安全保障理事会による制裁、新型コロナウイルス、それに自然災害の「三重苦」が重くのしかかっています。

特に新型コロナの感染対策として、最大の貿易相手国である中国との国境を封鎖したことから、中国との去年の貿易額は前年比80.7%減と、過去20年間で最少でした。ジョンウン氏も党大会で、去年までの経済計画について「掲げていた目標は、ほとんどすべての部門で甚だしく未達成だった」と総括。経済不振をはっきりと認めています。

そのうえで「自力更生と自給自足」を掲げ、新たな経済計画を打ち出しました。

こうした中で発表された「総書記」への就任や「元帥」の軍服姿。苦境にあえぐ国民に対し、ジョンウン氏のもとでの「一心団結」を呼びかけるねらいがあると見られています。

妹ヨジョン氏は「降格」なのか

今回、キム・ジョンウン氏の妹ヨジョン(与正)氏の役職にも変化が見られました。

ジョンウン氏とは対照的に、それまでついていた「政治局員候補」というポストから外れたのです。ヨジョン氏は、アメリカや韓国に対して北朝鮮の立場を代弁する役割を担ってきましたが、目立った成果がないため「降格」したのではないかという臆測も出ています。

その一方でヨジョン氏は、ほかの指導部メンバーと同様、ジョンウン氏と一緒に党大会の会場に現れたり、すぐ後ろの席に座ったりしています。礒崎准教授は、「降格」とまでは言えないのではないかと指摘します。
慶應義塾大学 礒崎敦仁准教授
「実はヨジョン氏は以前にも政治局員候補のポストから外れたことがあり、出たり入ったりを繰り返している。だから肩書というものは、そこまで重要ではない。ヨジョン氏が降格したと明確には言い難く、キム・ジョンウン氏と一緒に会場に入っていることなどから、特殊な役割を担っていることは間違いない。これからも兄を補佐し、サポートする役割を担っていくと予想される」

「最大の敵」へのメッセージ

「最大の敵であるアメリカを制圧し、屈服させることに焦点を合わせる」

党大会でもう1つ注目されたのは、アメリカ大統領選挙後、キム・ジョンウン氏が初めて対米方針に言及したことでした。

名指しこそしなかったものの、バイデン新政権への対決姿勢を打ち出しました。

そして、核・ミサイル開発の強化に向けて、
▽核兵器の小型化、軽量化
▽戦術核兵器の開発
▽超大型核弾頭の生産
を推し進める方針を強調しました。
一方で、「対決」一辺倒ではないと分析するのは、南山大学の平岩俊司教授です。

平岩教授が着目したのは、党大会のあとの軍事パレードでした。北朝鮮は去年10月にも軍事パレードを行ったばかりで、これほど短期間に続けるのは異例です。
この中では「北極星5」と書かれた、新型と見られるSLBM=潜水艦発射弾道ミサイルが登場。

ただ、北朝鮮がアメリカ本土全域を攻撃できると主張する、ICBM=大陸間弾道ミサイルは見られませんでした。ここから平岩教授は、アメリカへの「対決」と「対話」の両構えの姿勢が読み取れると指摘します。
南山大学 平岩俊司教授
「ICBMは去年10月に登場させているので、あえて登場させる必要はないという判断もあったかとは思うが、北朝鮮はアメリカとの対話を含めた可能性について、まだ最終判断をしたわけではないという風にも受け止められる。今回の党大会で、アメリカに対する警戒感は示しつつも、バイデン政権の対応次第では対話に応じる可能性も十分あることを伝える。そうしたメッセージだとも言えると思う」

「新たな不安定の種」も

「対話」の可能性に含みを持たせた北朝鮮。しかし「対決」の面では、これまでにない姿勢を示していました。
軍事アナリストで、東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠特任助教は、軍事パレードで登場した短距離弾道ミサイルやロケット砲に注目。キム・ジョンウン氏が党大会で「戦術核兵器」に言及したことと合わせ、次のように分析します。
「『戦術核』は、戦場での使用を想定している、小型で射程が短い核兵器のことだ。軍事パレードで出てきた短距離弾道ミサイルやロケット砲は、弾頭に核も通常弾頭も搭載でき、党大会での演説を踏まえると、これらが『戦術核』としても使えると言いたかったのだろう」
北朝鮮はこれまで、アメリカに対する「抑止力」だとして、核兵器の開発を正当化してきました。しかし今回、射程が短い「戦術核」を持ち出したのは、韓国や日本も念頭に置いた新たな核戦略の表れではないかと、小泉特任助教は指摘します。
東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠特任助教
「本当にこういったロケット砲やミサイルに核弾頭の搭載を始めるのであれば、朝鮮半島情勢の新たな不安定の種でもある。党大会の方針を反映する形で、北朝鮮として、どうも新しい核ドクトリン(核戦略)を考えているようで、それに見合ったいろんな兵器が出てきたという印象を受けた」

国際社会はどう対応

党大会で核・ミサイル開発の方針を詳細に語り、異例の短期間で軍事パレードまで行った北朝鮮。

その国際社会に向けたメッセージを、南山大学の平岩教授は次のように読み解きます。
南山大学 平岩俊司教授
「アメリカあるいは国際社会に、北朝鮮への対応次第では、自分たちはこういう形で国防力を増強していくんだということをイメージさせる。それによって、アメリカに対して姿勢の変化を求めていく、そういう目的があるのだと思う」

「本来であれば、こういう軍事技術は秘密裏に開発し、使えるようにしていくものだと思う。しかし北朝鮮の場合、あえて自分たちの目指すところを国際社会に見せて『阻止したいのであれば、北朝鮮が望むような対話に応じろ』というメッセージが込められているのだろう」
祖父、父と同じ「総書記」に就き、体制の強化を図るキム・ジョンウン氏は、核・ミサイル開発をどこまで推し進めるのか。

北朝鮮の大量破壊兵器の「完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄」を目指す日本にとっては、アメリカのバイデン新政権や韓国など関係国との、一層緊密な連携が求められることになります。
長野祥光

中国総局記者
2006年入局
ソウル支局を経て
現在は北京で北朝鮮情勢や
中朝関係などを取材
長砂貴英

国際部記者
2007年入局
2014年から18年まで
北京で北朝鮮取材を担当
現在は国際部で
朝鮮半島取材の担当