「トランプ アウト!」ツイッター “退場宣告”の波紋

「トランプ アウト!」ツイッター “退場宣告”の波紋
人気のソーシャルメディアとして、日本でも定着しているツイッター。ある日突然、そのアカウントが停止され、利用できなくなったら?アメリカでは首都ワシントンでの事件をきっかけに、大統領のアカウントが永久に停止される異例の事態になりました。サービスを運営するツイッターが下した決定は、アメリカのみならず世界を巻き込んで大きな議論を呼び起こしています。(ロサンゼルス支局記者 菅谷史緒 国際部記者 梶原佐里)

民主主義を揺るがす議会乱入

アメリカの首都ワシントンの連邦議会で1月6日に起きた乱入事件。去年11月の大統領選挙の結果に反発して暴徒化したトランプ前大統領の支持者らが議事堂に乱入し、混乱の中で5人の命が失われました。

事件の前に開かれていた集会にはトランプ氏自身も参加し「われわれは負けを認めない。議事堂に向かおう」と呼びかけていました。

民主主義の象徴ともいえる議会で起きた騒乱にアメリカ社会では衝撃が広がり、暴力をあおったとしてトランプ氏への批判が強まりました。

トランプ氏のアカウント“永久停止”に

事態が緊迫するなか、ツイッターは、トランプ氏のアカウントを一時停止。

「選挙は盗まれた。われわれが勝ったのは相手側がよくわかっている」などと主張したトランプ氏の投稿に重大な規定違反があったとしたうえで、今後も違反が続けば、永久にアカウントを止めると警告しました。

その後、いったん停止は解かれたものの、ツイッターは8日、新たな投稿を受けて、トランプ氏のアカウントを永久に停止しました。
トランプ氏はこの日、2件のツイートを投稿。
ツイッターより
「私に投票してくれた7500万人の偉大な愛国者たちよ。あなたたちの主張は、どんな形であったとしても、侮辱されたり、不当に扱われたりすることはないだろう」
「質問した皆さんにお答えするが、私は1月20日の就任式には出席しない」
ツイッターは投稿内容を詳しく検討したとしたうえで「愛国者よ」という呼びかけは議事堂の占拠への支持を表明しているとも解釈されると指摘。また、就任式の欠席を表明した投稿も「就任式で暴力行為を企てている者を後押ししかねない」と結論づけました。
さらに連邦議会の襲撃を含む新たな武装デモの計画が拡散していることにも触れ、トランプ氏の投稿は犯罪行為を助長するおそれがあり、暴力の美化を防ぐための会社の規定に違反するとして、アカウントの永久停止に踏み切ったのです。

“暴力抑止の手段?”それとも“言論の封殺?”

もともと、既存のメディアへの不信感を募らせていたトランプ氏はツイッターを多用。世界の注目を集める大統領のアカウントにはフォロワーが増え続け、両者は“ウィンウィン”とも言える関係でした。

しかし、今回の決定はいわばツイッターによる“退場宣告”で、トランプ氏は8800万人以上のフォロワーに直接メッセージを発信する手立てを失いました。
ツイッターの決定を受けて、アメリカのみならず世界を巻き込んだ議論が起きています。

「さらなる暴力行為を防ぐためにはやむをえない」という意見の一方、「言論の自由の封じ込め」にあたるという批判や「法的な根拠が不明確」という指摘も。
ドイツのメルケル首相は「アカウントの停止には問題がある」として、議論に一石を投じました。

ドイツでは第2次世界大戦の反省からナチスを礼賛する行為は禁止されていますが、その根拠となるのは法律による規制です。メルケル首相は、言論への規制は一企業の判断ではなく、法律に基づいて行われるべきだと指摘したのです。
また、アメリカの有力紙ワシントン・ポストは社説で「正当だったかもしれないが、恣意的(しいてき)でもあった」と論評。

ソーシャルメディア各社は投稿を規制する際の基準をきちんと説明すべきだとしたうえで、トランプ氏がもたらすリスクが低いと判断されるような時が来れば、投稿の再開を認めるべきだとも指摘しました。
こうした事態を識者はどう見ているのでしょうか?アメリカの憲法に詳しいユタ大学のロンネル・アンダーセン・ジョーンズ教授は今回のアカウント停止に法的な問題はないとしつつ、懸念も示しています。
ジョーンズ教授
「大統領のアカウント停止に問題はないと思います。大統領は他にもホワイトハウスの報道官など複数の代替手段を持ち、世界中のメディアから注目される人だからです。しかしツイッターやフェイスブックがこうした大きな力を保持し、次に投稿が削除される人がトランプ氏のような力を持たず、他に表現する手段も持たない人だったとしたら問題ではないかと思います」

ソーシャルメディアにおける言論の在り方とは

ツイッターやフェイスブックといったソーシャルメディアの利用者は今や世界に広がる一方、フェイクニュースなどの問題が深刻化する中、各国で規制の在り方が議論されています。

日本では総務省の研究会が去年、報告書をまとめ、“まずは各社の自主的な対策を基本とし、政府はそれをモニターする”という対応方針が示されています。

研究会の委員でもある東洋大学の生貝直人准教授は、「トランプ氏の退場」をきっかけに、巨大化したソーシャルメディアへの規制の在り方の議論が、世界でより活発になっていくと指摘しています。
生貝 准教授
「アメリカのIT企業は、まずはイノーベションを起こし、後から問題に対応をするという姿勢ですが、そのリスクがこの数年間さまざまな形で明らかになりました。これからのサービスは、社会秩序への影響をこれまでに以上に考えてつくらなければいけません」
「サイバー空間のルールは、法律だけではなく少数の事業者が決定・運用しているという事実を常に心に留めておくべきです。こうした企業に対する民主的なコントロールの在り方やどう透明性を求めていくのかについて改めて考える必要があります」

どう向き合う?ソーシャルメディアの“負の側面”

一般の人々からアメリカの大統領という“世界最強の権力者”まで、広く利用されることでビジネス的にも成功を収めてきたソーシャルメディア。

一方で、影響力の大きさゆえにフェイクニュースの拡散や社会の分断をあおりかねない投稿といった負の側面も浮き彫りになってきました。

今回の“大統領のアカウント永久停止”は、こうした負の側面に社会が十分向き合ってこなかったことの、1つの帰結と言えるかも知れません。

ソーシャルメディア上での言論のあるべき姿とは?「言論や表現の自由」という私たちの重要な権利に関わる問題だけに、広く深い議論が必要です。
ロサンゼルス支局記者
菅谷史緒
平成14年入局
国際部記者
梶原 佐里
平成22年入局
大阪局・経済部などを経て2020年から現所属