パックン、“悪夢”は覚めたのか?

パックン、“悪夢”は覚めたのか?
アメリカ出身のタレント、パトリック・ハーランさん。
NHKの番組でもおなじみ『パックン』です。
アメリカで、いま深刻な問題となっている社会の分断、パックンもその当事者だといいます。
ひとりのアメリカ人としてバイデン政権の船出をどう見ているのか、井上二郎アナウンサーが聞きました。

(週刊まるわかりニュース 井上二郎 廣田正義 内田龍太)

分断は深い 家族の間でも…

パックンは、アメリカの二大政党のうち民主党の支持者。

そのパックンが感じるアメリカ社会の分断は、「みずからの家族内の分断」にも表れていると語り始めました。
パックン
「弟は西部ワイオミング州という田舎の州で警察官、絶対共和党員です。兄弟げんかの原因になっているのがこの右左の対立なんですね。大好きな弟なんだけど、トランプ支持者であって話が通じないんです。政治ネタになるとすぐけんかになるんです。もったいないですよ、クリスマスディナーが毎回、すぐ戦場と化す!それぐらいの勢いになりますね」
「弟に『見ているチャンネルは嘘ばかりだ』と言っても、弟がそのチャンネルを見ているんですよね。弟からすると『兄貴が見ているチャンネルが嘘ばかりだ』となるんですよ。お互いの情報源が違っているんです」
「僕の世界と弟の世界がもう平行しているんです。ほとんど交差しないんです」
実は5年前、NHKの番組「これでわかった!世界のいま」に出演したパックン。

トランプ氏とクリントン氏が争った前回の大統領選挙について、7対3でクリントン氏が勝利すると明言。

しかし、結果は皆さんご存じのとおり。

トランプ氏が勝利しました。
翌週の放送にパックンは、「悪夢を見ているようで、自分のほおをつねった」というメッセージを寄せていました。
では逆に、「バイデン政権の船出で悪夢は覚めたか」と聞いてみると、言葉を慎重に選びながら次のように答えてくれました。
パックン
「…悪夢は覚めてはいないんですけれど、覚めつつある?悪夢感が薄れてきた、と言っていいかな。でもバイデン政権は夢の政権、夢の政治状態ではない、その間くらいですね」

就任式をどう見た

パックンにインタビューしたのは1月22日。

日本時間で言うと、バイデン氏の就任式の翌日です。
パックン
「たった2週間前に乱入、占拠事件があった連邦議会議事堂の前で、バイデン大統領が立って、就任演説を行い、何もなかった。この何もないというのが当たり前だったんですけれど、それが今回は『よかった~』って、みんなホッとして見ているんですよ。前日までは、何をやるのか?まだトランプ大統領の出方も分からなかったですね。
そのトランプ支持者、トランプご本人、国自体がスムーズに政権交代できるか、こんなに不安な気持ちで見届けることはなかったです」

演説から感じた分断への危機感

井上
「バイデン氏の就任演説では、結束・団結という言葉がすごく耳に残ったんですね。
もう一つ印象的だったのが支持しなかった人々のためにも、懸命に戦うと話しました。これはどういうふうに受けとめましたか?」
パックン
「今回のテーマは、メインテーマがUnity(ユニティ)=団結これも珍しいです。もちろん団結を呼びかける、『みんなの大統領です』と。それぞれの就任演説で大統領が毎回言うんです。もう定番です。でもそれがメインテーマになるのはめったにない」
「結構異例なんですけれど、実は就任演説の中で、自分の支持者よりもトランプ支持者への呼びかけが多かったです。回数でいうと。こんなに分裂が深まっているアメリカはめったにないんですけれど、すごく強い危機感を持っていると思うんですね。
みんなの大統領です、みんなの権利を認めて、みんなのために努めるって繰り返して主張しているのは、それだけ敵視されているというのを認めているんですね。
トランプ支持者は、単純に思想が違うと思っているんじゃなくて、(バイデン大統領を指しながら)いてはいけない大統領と思っているんです。選挙不正で大統領になった、つまり政権を奪った、政権泥棒だと思っている方が多いんですよ。
その方々に対しても、いやいやいや、あなたの代表でもいるよというこういう呼びかけを繰り返したのは結構異例なんですね」

弟以外の人たちとも分断が

バイデン大統領が呼びかけた「団結」。

ただ、パックンは、冒頭で触れた弟との関係だけではなく、周囲の人たちとの間でも、政治を話題にできないほど分断が進んでいるといいます。
井上
「4年間での分断の深まりをパックンも肌で感じると?」
パックン
「ありますね。以前、普通に議論できた人が議論できなくなっているんですね」
井上
「友人、知人?」
パックン
「友人、知人でも、はい。あのまあ前は、飲みながら何党?何党?何党?って聞いてあの政治思想、理念を聞き出して議論はできたんだけど、今は同じ党じゃないと楽しく飲めないんです。けんかになっちゃうから」

多様性への期待

今回、バイデン政権には黒人やネイティブアメリカン、同性愛者の人など、いわゆるマイノリティーの人たちが登用されています。

パックンは分断の解消にこうした「多様性」が大きな役割を果たすと考えています。
パックン
「いわゆるマイノリティーの方が15人のなか10人もいるんですよ、3分の2がマイノリティーなんです。これ、アメリカ、ダイバーシティーに富んだ国民であってその縮図となってこれもみんな受け入れる」
「日本でもダイバーシティーって最近重視されていますけれど、アメリカという国がものすごく多様性に富んでいます。どんどんどんどん多様化が進んでいるアメリカ。政府だけが50年前の顔ぶれになっているとやっぱり進化していないことになりますね。置かれている状況が違うと、経験も違う、考え方も違う、思いつく解決策も違うんです。それぞれの声を取り入れた方が、結局、正しい政策、みんなのための政策が思いつくんです。見つかるんです」

パックンも分断の当事者

「多様性こそが強い国を作る」。

白人でハーバード大学卒、「エリート」とも言える側にいるパックンが、なぜ多様性を強調するのか、あえて聞きました。

すると、その考えの背景にあるのは、みずからの貧しい生い立ちと、非白人の子どもの存在だとパックンは言いました。

未来のために、「分断をなんとか解消したい」と強く訴えるパックン。

しかし一方で、インタビュー中、口をついて出るのは、トランプ前大統領やその支持者への批判でした。
パックン
「(共和党支持者は)自分の家族・身内を重要ポストにつけている大統領を応援するんです。
温暖化対策をしない大統領というか温暖化という文言を政府のホームページから消した大統領を応援しているんです。
G7サミットを自分のリゾートに誘導しようと、明らかに利益誘導している大統領を応援し続けるんです。
選挙に外国の介入を呼びかける大統領を応援しているんです。捜査を開始したら自分が対象になっていても捜査官をクビにする大統領、FBI長官をクビにする大統領を応援するんです。
なんでこうなるんですか?大統領としていてはいけない人がいた、それを目で見て分からなかったのかと、これくらいガッカリというか衝撃が大きかったです」
井上
「熱く語っているの聞いて、分断は埋まらないのじゃないかと正直思っちゃいました」
パックン
「埋まりませんね。溝は埋まらない、分断は深まる一方。でも深まる度合い、溝の深さは前ほどのペースで進まないはずです。もしかしたら、少しは浅くなる、分断が少しは癒やされていくかなと」
「アメリカはいま、軌道修正しようとしているようにも感じます。分裂は深い、溝は深い、でも、少なくとも過半数はそれを癒やしていきたいと思っているんです」

「政治理念・思想が、政策の方針とか違ってもいい、構いません、議論しましょう。もしかしたら僕の政策も間違っている可能性もあるから。いま逆に同じ党でしか議論できないのは、もったいないんです。切磋琢磨(せっさたくま)していない、間違っているところを指摘されていないんです。間違ったままになっている、僕もなまけているんですよ。
だから違った理念を持った、違った思想を持った、違った方針・政策を進める人と議論できるようになってほしい」
週刊まるわかりニュース キャスター
井上二郎
平成10年入局
多くの事件事故災害などのニュースを伝え続ける
ニュース制作部 記者
廣田正義
平成16年入局
ニュース番組の制作を担当
週刊まるわかりニュース ディレクター
内田龍太
「4Kイチオシ」のコーナーなどを担当