激流の時代を超えていけ アニソンクリエイターの魂

激流の時代を超えていけ アニソンクリエイターの魂
世界にも認められている日本の文化“アニソン”が、かつてないほど大量に作られ、消費されていることを知っていますか?

世界中で愛されているアニソン。
各地で大型のフェスやイベントが開催されているほか、インターネットの動画サイトには、アニソンを外国の方が日本語のまま歌っているものが多くあり、中には2900万回以上も観られているものもあります。

世界中の人に親しまれているアニソン。現在、アニメ作品の増加とともに大量に生み出されている、いや、生み出されてしまっています。
2018年に作られた新作TVアニメの数は、20年前の1998年の約2.5倍にあたる235本。
3か月(1クール)に、およそ60本ものアニメが新たに作られているのです。

3か月という短いサイクルで、アニソンが大量に作られ、消費されているのです。

「激流」の時代のアニソンシーンを支える、3人の名クリエイターが、ラジオ番組で語り合いました。クリエイターたちが楽曲にちりばめた「仕掛け」と「魂」とは?

(ラジオセンター ディレクター 坂本和輝)
・畑亜貴(作詞家・音楽家)
これまでの提供曲は1840曲以上。『ラブライブ!』で数多くの楽曲の作詞を担当。

・田淵智也(作詞・作曲家、ベーシスト)
2020年のレコード大賞受賞のLiSAなど、数々のアーティストにアニソンを提供。UNISON SQUARE GARDENのベーシストとして活動。

・田中秀和(作曲・編曲家)『アイドルマスター シンデレラガールズ』シリーズなど、さまざまなアニメ作品にて主題歌・劇伴を担当。

戦いの舞台は「89秒」

田中:アニメの主題歌っていうのは89秒っていうフォーマットが決まっておりまして。
リスナー・視聴者の方々に、89秒の中でいかにインパクト・印象を残していくかという部分で、たくさんの試みやいろんな仕掛けが含まれているんじゃないかなって思いますね。
現在、アニメのオープニングやエンディングのアニソンは、90秒であることが多いです。
その90秒には、冒頭と最後に0.5秒の無音が入ります。
それらを除いた「89秒」にぴったり収まるように、クリエイターは曲を作っています。

■耳に残るフレーズや変わった音色を、イントロやイントロのさらに前に用いる。
■サビを冒頭に置いて、まず「この曲はこんな曲ですよ!」とリスナーに提示する。
■曲の展開を早くして、いろいろな音楽の要素を89秒の中に収める。

「89秒」という舞台で視聴者を振り向かせるべく、クリエイターはさまざまな技術をつぎ込んでいます。
その技術の結晶ともいえる1曲を、田中さんが紹介してくれました。

2017年に放送された『けものフレンズ』というTVアニメ、動物が「フレンズ」と呼ばれる少女たちの姿をして暮らす「ジャパリパーク」という動物園を舞台にした作品の主題歌です。
田中:「ようこそジャパリパークへ」という楽曲ですね。大石昌良さんが作詞作曲された楽曲で、2017年の楽曲なんですけれども。
構成に隙がないというか、むだが全くないといいますか。4小節ずつどんどんどんどん、展開されていって。最初聴いたときに、本当に89秒って信じられなかったくらい、ものすごくたくさんの展開がある。

田淵:すごいね!最後の大合唱まで入るんだ、89秒に。

田中:「ララララ~」(8小節)が、2回ちゃんと入る。

田淵:そう、2回入るのすごいよね!

田中:ちゃんと繰り返し部分があって、最後の畳みかけまでしっかりあるところがすごいなっていう感じですね。
ホルンの印象的なフレーズで曲が始まって、そのあとすぐにサビが来る。そして、息もつかせぬまま次の展開へ。ブラジルの楽器「クイーカ」の「ウホウホ~」という音が聴こえて…本当に、次から次へと展開して、視聴者の興味を引きつけていきます。
「ようこそジャパリパークへ」は、89秒の中にさまざまな工夫・技術が込められていて、楽しさがぎっしり詰まったおもちゃ箱のようです。

限られた時間の中で、どこまで視聴者を楽しませるか。多くのクリエイターが工夫を凝らしている、アニソンならでは腕の見せ所です。

多様なジャンルが参入

現在のアニソンシーンでは、多様な音楽ジャンルのクリエイターが参入しています。
「ようこそジャパリパークへ」を作った大石昌良さんもその一人。
Sound Scheduleというバンドのギターボーカル、また、シンガーソングライターとしても活躍中です。
他にも、番組に出演したUNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんや、クラムボンのミトさんなど、ロックバンドでも活躍しながらアニソンにクリエイターとして参入している人は数多くいます。

また、ジャズやファンクのジャンルからの参入もあり、TVアニメ『BEASTARS』(2019年)や『呪術廻戦』(2020年)の主題歌をつとめたALIというバンドも注目されています。

他にも、クラブシーンで流れるEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)というジャンルの音楽制作を得意とする「トラックメイカー」と呼ばれるクリエイターたちも参入しており、特に最近の勢いには目を見張るものがあります。
田淵:「電音部」って、いわゆるトラックメイカーの人たち大集合みたいな、アベンジャーズみたいな感じ。

一同:(笑)

田淵:本当にその、「音楽でおもしろいことしたりましょ」の極致みたいなコンテンツで。もうとにかく出る曲出る曲、トラックメイカーの人たちが楽しそう。
Yunomiさんという方だったり、水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミさんだったり、とにかく曲が全体的に強い。だから、2020年でよかった曲を挙げてくださいと言われたら、たぶん10曲中、2、3曲挙がっちゃうくらい。

田中:電音部の音楽部分のプロデュースをされてる方が、もともとアニソンを流してクラブで盛り上がるみたいなイベント、アニクラとかに行かれてたりとか、あるいは企画してたりとか、そういう(EDMもアニソンシーンも分かっている)方がプロデュースされていて。だから、この人に曲書いてもらいたいっていうビジョンがめっちゃくちゃ明確なプロジェクトだなって思いますね。
このように、アニソンシーンには多様なジャンルのクリエイターが集まってきていて、生まれる曲のジャンルも多彩になったのです。
リスナーは、アニソンを聴くことで、さまざまな音楽ジャンルの曲を楽しむことができるようなりました。
しかしその裏で、楽曲の数も種類も増え続ける中、クリエイターたちはとう汰されないための不断のチャレンジを続けています。

フルも聴いて!

田淵:89秒の話をしていたとき、少しだけ思ってたんですけど…、フル聴いてよ!!みたいな気持ちにもなるんですよね(笑)。

:なるなる!

田淵:歌詞も曲も、フルサイズだからできる表現というのがあって。いいオープニングがあったらフルを聴いてみる。まあもちろんリスナーの人、やってると思うんですけど。
クリエイターの気概ってそういうところにもあるよ!みたいなのは、ちょっと今思ったりもしたな。

:聴いてほしいね、フルサイズはね。
たとえば、田淵さんが共作詞・作曲で携わったロックナンバー「Rising Hope / LiSA」(TVアニメ『魔法科高校の劣等生』オープニングテーマ)では、2コーラス目に、1コーラス目にはなかった「ラップ」が入ってきます。
「89秒」にはない、楽曲の新たな一面を聴くことができるのです。

詞に宿るクリエイターの魂

詞にもまた、クリエイターの気概が込められています。

2014年、『ご注文はうさぎですか?』というTVアニメが放送されました。
「ラビットハウス」という喫茶店で働く少女たちとその周りの人たちの日常を描いた作品です。
「日常系」といわれる、激しいストーリー展開がなく、キャラクターたちがその世界の日常を生きる姿を観て癒やされるというジャンルの人気作です。
そのオープニングテーマである、「Daydream cafe」の作詞を、畑亜貴さんが担当しています。
田淵:「こころぴょんぴょん」まではまだ分かるんですよ。「こころぴょんぴょん」だなって。そのあと「待ち?」ってくるじゃないですか。ハァっ!?って思って(笑)。

田中:「待ち?」はやばいですよ!
田淵:普通そこ行かないじゃないですか!「こころぴょんぴょん『しよう』」みたいなところに行くのが、『待ち?』って。それありなんだ!みたいな。普通の言葉でいくとこうっていうのは、当然選択肢として思い浮かぶかもしれないですけど、そこを『待ち?』にしたのはなぜですか??

:ときめきがあるんだけども、そのときめきに行くとちょっとだけ手前の、何かほんわり「微熱」を感じてるような状態?それを表現したいなって思ったときに、「ぴょんぴょん『しよう』」とか『だね』とかでもなく、『待ち?』って。

田淵:あぁ、なるほど!普通の作詞家は使わない…!
耳に残るフレーズは、繊細なニュアンスを捉えた言葉選びが生み出しています。

多くのアニソンが生まれる中で、一つひとつのメロディー、一つひとつのフレーズに、この「激流」の時代を超えていこうとしているクリエイターたちの「魂」を感じました。
宮崎アナ:(リスナーからの質問)自身のアニソン制作を象徴するキーワードを1つ挙げるとしたら、何ですか?

:…まあ、「期待に応え、予想を裏切る」的なことですかね。

田淵:おー、いいこと言うねぇ。

宮崎アナ:田淵さんいかがですか?

田淵:やっぱりでも、「自分が好き」っていうのは、大事かなぁ。自分の曲すごく好きなので、作ったとき一晩中聴いてるんですよね。いい曲だな~って。

:わかるわかる、すっごいわかる!聴いちゃうよね。

田淵:そうなんですよ。だから逆に言うと、一晩聴いてると気になるところは直すし。やっぱり、僕が自分の名前を付けて世の中に出す音楽の条件として、「一晩聴けること」、「一晩聴いて飽きないこと」っていうのは、けっこう大事にしてるかもしれないですね。

:大事大事!

田中:僕はあの、ホームページのプロフィールの欄にも、いわゆるこだわりじゃないですけども、書かせていただいているのが、「作品に寄り添って、シーンにとらわれない」みたいな。

田淵:あっ、見たことある、ホームページで!

田中:ちょっとかっこつけたこと書いてるんですけど(笑)。何かアニソンシーン全体を漂っているような、こうあるべきなんじゃないか、みたいなところからは逸脱しつつも、きちんと作品には寄り添っていて、「作品にすごく合ってるね」って言われる音楽を作りたいなって常に思ってますね。

:100点だね!
いかがでしたか?もっと3人の話を聞きたいという方は、番組の一部が書きおこされている「読むらじる。」をご覧ください。
ラジオセンター ディレクター
坂本和輝
令和2年入局。
ラジオ番組の企画制作を担当音楽クリエイターなどを取材。