特措法など改正案修正協議 刑事罰削除で正式合意 自民・立民

新型コロナウイルス対策の特別措置法などの改正案をめぐる修正協議で、自民党と立憲民主党は入院を拒否した感染者に対する刑事罰を削除するとともに、営業時間の短縮命令などに応じない事業者に対する過料も引き下げることなどで正式に合意しました。

5項目で正式合意

新型コロナウイルス対策の特別措置法と感染症法の改正案をめぐる与野党の修正協議は27日まで行われた実務者協議の結果を踏まえ28日、自民党と立憲民主党の国会対策委員長が断続的に会談して、詰めの調整を進め午後5時半ごろから両党の幹事長が会談して5つの項目について正式に合意しました。

感染症法の改正案

▽入院を拒否した感染者に対する刑事罰について「1年以下の懲役か100万円以下の罰金を科す」としていたのを、懲役刑を削除するとともに罰金を行政罰である「50万円以下の過料」に改めるとしています。
▽保健所の調査に虚偽の申告をしたり拒否したりした場合は「50万円以下の罰金を科す」としていましたが、これも「30万円以下の過料」に改めるとしています。

特別措置法の改正案

▽営業時間の短縮などの命令に応じない事業者に対する過料について、緊急事態宣言が出されている場合は50万円以下、「まん延防止等重点措置」の場合は30万円以下としていたのをそれぞれ30万円以下と、20万円以下に減額するとしています。
このほか、
▽「まん延防止等重点措置」を実施する際は速やかに国会へ報告することを付帯決議に明記するとともに、
▽事業者に対する財政支援については事業規模に応じた支援のあり方を付帯決議や国会答弁で明確にするとしています。

いずれも与党側が譲歩する形で決着しました。

修正協議の合意を受けて特別措置法などの改正案は29日の衆議院本会議で審議入りし、菅総理大臣も出席して趣旨説明と質疑が行われる予定で来週にも成立する見通しです。

衆議院内閣委員会 29日に参考人質疑

衆議院内閣委員会は理事懇談会を開き、29日、衆議院本会議で改正案が審議入りしたあと、委員会を開いて趣旨説明を行い、感染症の専門家らを招いて参考人質疑を行うことで与野党が合意しました。

改正案 来月3日にも成立見通し

新型コロナウイルス対策の特別措置法などの改正案について自民党の末松参議院国会対策委員長と、立憲民主党の難波参議院国会対策委員長が国会内で会談し、審議日程を協議しました。

その結果、衆議院から来月1日に改正案が送られてくれば、翌2日に菅総理大臣も出席して参議院本会議を開いて法案の趣旨説明と質疑を行い、審議に入ることで合意しました。

そして、来月2日と3日の2日間で委員会質疑などを行ったうえで採決することでも大筋で合意し、改正案は、来月3日にも成立する見通しとなりました。

決着は与党側が譲歩する形で

今回の修正協議は5つの項目について行われましたが、いずれも与党側が譲歩する形で決着しました。

国会で新年度予算案の審議を控える中、与党側は特別措置法などの改正案を早期に成立させるためには野党側の協力が欠かせないとして柔軟な姿勢で協議に臨んできました。

加えて、修正協議のさなかに自民党と公明党の幹部がそれぞれ都内の飲食店を深夜まで訪れていたことが明らかになったのも協議に影響したものとみられます。

野党側は政治への信頼が低下し国民に厳しい罰則を科せる状況ではなくなったと反発を強めました。

とりわけ、焦点となっていた入院を拒否した感染者に対する罰則について与党側は当初、懲役刑の削除には応じるものの罰金は残す形で理解を得たいとしていましたが、野党側の反発を受けて刑事罰そのものの削除を余儀なくされました。

一方、野党内には行政罰として過料を科すことにも慎重な意見が根強くありますが、自治体から対策の実効性の確保を求める声が出ている中、すべて反対するのは世論の理解は得られないとして一定の罰則を容認する判断に傾いたものとみられます。

自民 森山国対委員長「野党の理解と協力にも深く感謝」

自民党の森山国会対策委員長は、記者団に対し「コロナ禍での国民の不安な気持ちを考え、できるだけ多くの会派で修正協議が整うことが、国民に安心感を与えると思ってやってきた。スピーディーに改正案が成立する見込みが立ち大変ありがたく、野党の理解と協力にも深く感謝申し上げたい」と述べました。

立民 修正案に賛成

新型コロナウイルス対策の特別措置法の改正案などの修正協議で与野党が合意したことから、立憲民主党は、政調審議会を開き、党としての対応を協議しました。
その結果、修正内容は、党の主張がおおむね反映されたものだとして、賛成することを決めました。

立憲民主党の福山幹事長は、記者団に対し「刑事罰の懲役刑や罰金が取り下げられたことは大変評価したいし、それぞれの過料が引き下げられたことについても一定の評価をしたい。さらには事業者支援を事業規模などに応じて検討していくことを国会答弁や付帯決議で確認できるようになったことは大きな1歩だ」と述べました。

また、福山氏は、改正案への賛否について「今回の改正に一定の責任を負ったと考える」と述べました。

日本公衆衛生看護学会 罰則に反対

保健師や研究者、およそ2000人が所属している日本公衆衛生看護学会は、入院を拒否するなどした感染者に対する罰則に反対しています。

NHKの取材に対し、麻原きよみ理事長は「保健所の調査に虚偽の申告をするなど情報提供を拒否した場合には行政罰として過料が科せられることになるが行政罰も罰であることに変わりない。そうなれば保健師はいわば罰する側になってしまうので、住民との関係性が崩れ、聞き取りに協力してもらえなくなるなど、業務に影響が出ることを懸念している」と話しています。

そのうえで「検査を受けなかったり症状を隠す人などが出て感染拡大につながるおそれがある。罰則の導入によって感染者の差別にもつながり人々の不安が拡大することにならないか危惧している」と述べました。

専門家“過料は現実的だが…”

憲法学が専門の専修大学の棟居快行教授は「新型コロナウイルスという実態がよくわかっていない感染症に対しては個人の『自由』と、感染拡大を抑える『安全』のはざまで憲法学的に、はっきりとしたラインを引くのは難しい」と話しています。

そのうえで「刑事罰ではなく過料という形にするのは感染拡大を抑えるために現実的だが、あくまで個人の判断だった『自粛』ではなく国民に対してペナルティーを科し自由を制限する以上は、それに見合うか、それ以上の利益を国民に提供しなければいけない」と指摘しました。

そして「規制を行う目的やそれに対する補償などの全体の仕組みをしっかり議論し、国民に提示してほしい」と話していました。

菅首相「今まで以上に実効性あるものに」

菅総理大臣は28日夜、総理大臣官邸で「与野党の関係者に感謝申し上げる。政府としては合意を尊重して対応したい。改正によって飲食店の営業時間短縮など、今まで以上に実効性のあるものになると思っている。感染を縮小させるために全力で頑張っていく」と述べました。

また、実効性を担保できるのかと問われたのに対し「与野党で合意する中で過料が新しくできるわけで、政府も努力して実効性を上げられるよう頑張っていきたい」と述べました。

一方、記者団が「人出が減らないのは菅総理大臣の呼びかけかたや政治家の言動に問題があるという指摘があるが」と質問したのに対し、菅総理大臣は「いろいろなことを国会でも言われているが、政府を挙げて国民に協力をいただく中で、しっかりと実効性を高めていきたい」と述べました。

公明 山口代表「早期成立に取り組みたい」

公明党の山口代表は、党の参議院議員総会で「与野党の努力によって、新型コロナウイルスの克服に向けて、国民の声を取り入れた内容になっている。対策の実効性を高められるよう、早期成立に取り組みたい」と述べました。