クラスター発生 知的障害者施設の教訓は 千葉 我孫子

先月、新型コロナウイルスの集団感染=クラスターが発生した千葉県我孫子市の知的障害者施設がNHKの取材に応じました。
施設内での感染防止策の徹底や入院調整が思うように進まなかったことを踏まえ、「入所者の体調の異変をいち早く察知し、接触を減らす対策を素早くとることが重要だ」と話しています。

千葉県我孫子市にある知的障害者施設「みどり園」では先月、入所者と職員合わせて45人が感染するクラスターが発生し、1人が亡くなりました。

先月21日を最後に新たな感染の確認はなく、施設では今月22日に感染の終息を宣言しています。

こうした中、施設はクラスター対応の実情や課題について、ほかの施設などにも知ってもらいたいとして、NHKの取材に応じました。

当時、施設では千葉県から派遣された医師や看護師からなる「クラスター等対策チーム」の指導を受けながら感染拡大の防止策をとりました。

しかし、知的障害がある入所者の多くはマスクを着用することができなかったり、入所者が個室から出て防護服を着た職員に接触してしまったりするなど、障害者施設特有の事情から防止策の徹底が難しかったということです。

また、先月中旬以降は病床がひっ迫していた影響で症状が比較的重い人を除いては入院できないケースが増え、現場の負担が重くなっていきました。

さらに入浴や散歩など入所者の行動を大幅に制限する生活が長引くにつれ、入所者の中にはストレスからか、頭を壁に打ちつけるなどの自傷行為をしてしまう人も出て、対応の難しさを感じたということです。

「みどり園」の吉野員史施設長は「感染が拡大する前の段階で、入所者の体調の異変をいち早く察知し、接触を減らす対策を素早くとることが重要だと感じた」と話していました。

また、同じ法人が運営する系列の障害者施設に、退院した入所者の一部を一時的に受け入れてもらい、職員の負担を軽減することができたということで、「ほかの施設による支援は大変助かった。今回は系列施設に支援してもらったが、系列施設のない小規模な施設では協力先をどうやって見つけるのかが課題になると思った」と話しています。

感染拡大防止に苦慮

今回のケースでは、入所者のマスクの着用が難しいことなど、障害者施設特有の事情が感染拡大の一つの要因となりました。

施設では感染が判明したあと、県の対策チームの指導のもとで、利用者どうしの接触を減らすなどの対策をとりました。

具体的には、原則、入所者に個室で過ごしてもらったうえ、感染リスクが高いとされた入浴や歯磨きといった日常生活の介助を中断するなどしました。

しかし、多くの入所者がマスクを着けることが難しいうえ、個室から出てきてしまう入所者もいて、感染防止策の徹底を図るのは困難だったといいます。

個室で一人一人食事をとってもらうことが望ましいと考えていましたが、介助なしでは食事をとれない入所者が多かったため、個別に対応するだけの職員は確保できませんでした。

このため感染防止策をとったうえで、複数の入所者の食事の介助を同じスペースで同時に行わざるを得なかったといいます。

吉野施設長は「マスクをすることや咳エチケットを守るなど、対策を理解することが利用者には難しく、生活をともにするユニットの中で感染の歯止めがかからない状況となってしまった」と振り返りました。

入院できないケース相次ぎ「施設療養」も

施設では、感染した入所者の入院を希望していましたが、医療機関の病床のひっ迫に伴って入院できないケースも相次ぎました。

感染が発覚した先月上旬には感染した入所者の多くが入院できたということです。

しかし、中旬になると、医療機関の病床がひっ迫し、症状が比較的重い人などを除いては入院できないケースが多くなったということです。

最終的に、感染した入所者38人のうち入院できたのはおよそ4割の15人にとどまり、職員たちはいわば「施設療養」となった入所者のケアに追われることになりました。

当時の状況について吉野施設長は「入所者全員が感染してしまうのではないかと思うような不安な毎日だった。医療の素人のわれわれが看護する形となり、非常に厳しいと感じた」と振り返りました。

一方、入院先が見つかったケースでも、入所者の搬送に想像していた以上の手間がかかったといいます。

入院した15人のうち救急車の手配がつかなかった10人については、施設の職員2人で搬送しました。

周辺の病院に受け入れ先が見つからなかったときには、100キロ以上離れた千葉県南部の病院に片道2時間半をかけて搬送したということです。

搬送の際にはそのつど施設の車の座席をビニールで覆う作業が必要で、こうした準備も2人がかりで30分以上かかったということです。

入所者の「自傷行為」増加も

感染拡大の防止を最優先にした生活が長期化するにつれ、入所者の行動にも変化があらわれたということです。

施設では、毎日決まった日課をこなすことで入所者の心の安定や生活のリズムを保ち、コミュニケーションを密にとって自宅での生活のような環境づくりを目指してきました。

しかしクラスターが発生してからは状況が一変し、入所者たちは入浴や散歩などが全面的に中止され、個室の中にとどまることを余儀なくされました。

知的障害のある入所者は、急激な生活の変化に戸惑いや不安を感じ、ストレスからか、壁に頭をぶつけたり自分で頭をたたいたりする自傷行為が目立つようになったといいます。

こうした状況を重く見た施設では、仮に感染が確認されている入所者であっても、防護服などを着たうえで寄り添って声かけなどを行い、できるかぎりのケアに努めたということです。

吉野施設長は「感染を広げないという一点に集中するしかなく、生活の質を落とさざるを得なかった。今後、感染症対策とのバランスを取りながら入所者の生活の質を少しずつ戻していきたい」と話しています。

“ほかの施設との連携が有効”

困難な状況が続く一方で、有効だと感じたのがほかの施設との連携でした。

施設では同じ法人が運営する系列の障害者施設に支援を求め、退院した入所者の一部を一時的に受け入れてもらいました。

これによってクラスターの現場で対応に当たる職員の負担を軽減することができたということです。

また、職員から「家族に感染させるのを避けるため自宅以外に宿泊したい」という要望が出たことを受けて、職員が安心して体を休めることができる宿泊場所も提供してもらったということです。

退院者や職員を受け入れた施設の運営法人「大久保学園」の千日清常務理事は「『みどり園』では感染が拡大しているさなかだったので、退院する人を一時的に預かることができれば、混乱も少しは緩和するのではないかと思い受け入れを決めました」と話していました。

吉野施設長は「ほかの施設による支援は大変助かった。今回は系列施設に支援してもらったが、系列施設のない小規模な施設では協力先をどうやって見つけるのかが課題になると思った」と話しています。