前例なき規模 ワクチン集団接種へ 各地の自治体の準備状況は?

新型コロナのワクチン接種に向けた自治体の準備が本格化しています。前例のない大規模な集団接種に向け、各地の自治体ではどのように準備が進められているのでしょうか。またどんな課題が見えているのでしょうか。

東京 足立区

人口およそ70万の東京 足立区。今月4日に新型コロナウイルスのワクチン接種を担当する専門の部署を設け、急ピッチで準備を進めています。

(1)人数のシミュレーション
足立区がまず行ったのがワクチン接種を希望する人数のシミュレーションです。
厚生労働省はワクチンが承認されればできるかぎり来月下旬から医療従事者を先行して接種を始めるとしています。そして25日、3月下旬をめどに65歳以上の高齢者に接種できる体制を確保するなどという想定スケジュールを示し、接種開始から9週間以内にすべての高齢者が1回目の接種を受けられる体制を整備するよう自治体に求めています。これに対し足立区は、区内のおよそ17万人の高齢者の65%、11万人に、2か月半で22万回の接種を行う計画で準備を進めることにしました。高齢者全員に接種する前提で計画を進めてしまうと、途中で計画が立ちゆかなくなるおそれがあると考えたといいます。

新型コロナウイルスワクチン接種担当部の絵野沢秀雄部長は「やみくもに全区民に接種することを考えて事業の組み立てをすれば、ワクチンなどのむだが出たり計画が破綻したりする可能性があると思います。まずは現実的な数字で目標を立て、接種希望者が想定より多くなれば計画を再構築して柔軟に対応していきたいです」と話しています。

(2)会場の確保は
足立区は想定した接種人数をもとに接種を行う場所の確保も進めています。想定している接種回数は1週間当たり2万回。平日は公民館、土日は小中学校の体育館を活用し毎週、接種会場を40か所開設する計画で、場所の確保を進めています。
そして1人当たりの接種時間はおよそ25分と想定し、それぞれの会場に医師や看護師を何人配置するかについても検討しています。毎週40か所で22週間連続で接種し、半年間で22万人、来年度中に区の人口のおよそ半数の35万人に接種することを目指しているということです。

(3)予約システムの準備も
足立区は3月中に高齢者に対して接種に必要なクーポン券を発送するため、今週中にも業者と契約しクーポン券の印刷などの準備を進めています。そして接種を受けたい場所や日時を選ぶことができる予約システムの改修やコールセンターの設置などの準備も進めているということです。

(4)課題・不安も
しかし、急ピッチで準備を進める中で不安も抱えています。1つは、接種の前に記入する必要がある「予診票」です。足立区では接種を受ける本人に会場で直接記入してもらう方向で準備を進めていて、会場が密にならないよう、予約を受け付ける間隔を15分から30分ごとにして人数を調整することを想定しています。しかし予診票の様式などが決まらない中で高齢者が実際に記入するのにどの程度時間がかかるのか計算が難しいということです。そして何より懸念しているのがワクチンの供給が想定通りに進むのかどうかです。

絵野沢部長は、「接種をスムーズに進めるためかなり緻密な計画を立てているので、区の希望通りにワクチンが供給されなければ、そもそもの計画が崩れてしまう。あまり考えたくはないが、ワクチンが届かないという事態だけは避けるよう国にはお願いしたい」と話していました。

東京 稲城市

「まるでピースのそろっていないジグソーパズルを解き続けているようだ」

ワクチン接種の準備を進めている自治体の中にはこう話すところもあります。人口9万2000余りの東京 稲城市。65歳以上の高齢者はおよそ2万人で、1回目の接種をすべて終えたあとに2回目の接種を行う計画で会場や医療従事者の確保などの準備を進めていました。

しかし25日、厚生労働省が自治体向けに開いた説明会では、1回目の接種を終える前に2回目の接種を始め、およそ3か月間で必要な2回の接種を受けられる体制を整備することなどが求められました。このため、時期によっては会場や医療従事者の体制を当初の計画の2倍にする必要に迫られ、体制を検討し直すことにしたということです。

(不安1)医師の確保
その中で課題になっているのが医師の確保です。稲城市は地元の医師会と協議を進めていますが、新型ウイルスの感染拡大で市内の医療機関はすでにひっ迫している状態で接種を担当する医師の数をさらに増やすにはみずからの医院を休診してもらうなどの対応が必要になる可能性があるということです。

(不安2)費用負担は
また費用負担も課題です。国は、自治体に発生する接種にかかる費用は全額負担するとしていますが、補助金などの上限額はまだ示されていません。このため、医院が休診して接種に対応した際の補償などについても国にまかなってもらえるのか不安があるということです。またワクチンの供給時期や接種の日程が明確に決まらない中、余分な費用の支出をおそれて準備が思うように進められない現状があるということです。

稲城市健康課新型コロナウイルスワクチン担当の渡邉智史 係長は、「新型コロナ対応でただでさえ市の財政がひっ迫する中、計画が明確に示されない状況で準備を進めることには不安があります。医師会との調整をはじめ本当に間に合うのか焦りも感じています。まるでピースのそろっていないジグソーパズルを解き続けているような感覚です」と話していました。

東京の島しょ部

東京の島しょ部でも準備が進められている新型コロナウイルスのワクチン接種。各自治体に取材すると、離島特有の課題も見えてきました。

(課題1)医師の確保
まず、医師の確保です。東京から280キロ余り離れた伊豆諸島の八丈町は、人口およそ7000のうち、65歳以上の高齢者がおよそ3000人、全体の4割を占めています。町はワクチン接種をスムーズに行うため担当する医師を2人以上確保したいとしていて、島外から医師の派遣を受けることも検討しています。しかし、感染拡大で島を発着する旅客機の便数が減り、日帰りでの対応ができない状態だということで、町の担当者は「派遣に応じてもらえるか難しい状況だ」と話しています。

(課題2)ワクチン配送
ワクチンの配送も課題です。国が来月下旬から医療従事者への接種を始めたいとしているファイザーのワクチンは、1回の配送単位が接種およそ1000回分と多いのが特徴です。またマイナス75度前後の超低温で保管し冷凍庫から取り出すと5日以内に接種しなければなりません。ワクチンは、冷凍庫を設置した施設からほかの接種会場に「冷蔵」で運ばれることになっていますが、厚生労働省は「離島などの特殊な事情がある場合でも移送時間は12時間を超えることはできない」としています。仮に東京の倉庫から配送する場合、八丈島までのフェリーの移動時間はおよそ10時間20分。フェリーへの積み込みや会場への移送を考えるとさらに時間がかかる可能性があります。八丈町に国から保管用の超低温冷凍庫が届くのは3月中の予定だということで、東京都は想定するスケジュール通りに離島の医療従事者のワクチン接種を始めるため、配送の手段などを検討しているということです。

(課題3)本当に接種する?
都市部に比べると感染者の数が少ない島しょ部では実際にどの程度の人がワクチンの接種を希望するのか想定が難しいという声もあります。東京から120キロ離れた大島町の人口はおよそ7500。全体の3割に当たるおよそ2800人が65歳以上の高齢者で、3月中に国から届く予定の冷凍庫1台を島内の病院に設置し集団接種を行う計画を進めています。大島町の新型ウイルスの感染者はこれまでに7人。住民の中にはワクチンの副反応を心配する人もいるということで、ワクチンの数などをどの程度用意すればいいのか計算が難しいということです。

大島町の吉澤哲也 福祉けんこう課長は「国にはワクチンの安全性や感染拡大防止への有効性について島しょ部の住民にもしっかり説明してほしい」と話しています。

厚生労働省「自治体が困らないよう丁寧に対応」

ワクチン接種に向けた自治体の準備状況について厚生労働省は「自治体の規模や地域の実情によって準備の状況が異なることは十分理解している。目安として示したスケジュールに沿って計画してもらい、ワクチンが供給されたら速やかに接種できる体制を整えてほしい。自治体が困ることがないよう個別の相談にも丁寧に対応していく」と話しています。

東京都「島しょ部へのワクチン配送は柔軟に対応」

島しょ部へのワクチンの配送について、東京都は、都心部から島ごとに小分けして配送することや、一部の島を拠点化しそこから周辺の島へ配送するなど、さまざまな方法を検討しているとしたうえで、「島しょ部の自治体と連携を密にして柔軟に対応していきたい」と話しています。