ミャンマーでインド製ワクチン接種開始 中印がせめぎ合い

ミャンマーでは、27日から新型コロナウイルスのインド製のワクチンの接種が始まりました。ミャンマーに対しては中国も無償での供与を表明しており、中国とインドのワクチン外交がぶつかり合う場となっています。

ミャンマーの最大都市ヤンゴンでは27日、医師や看護師など医療従事者に対するワクチンの接種が始まりました。

使われているのはイギリスの製薬大手アストラゼネカとオックスフォード大学が開発し、インド国内で製造されたワクチンです。

感染者が入院している仮設病院でボランティアとして働く男性は、接種後「ミャンマーへの配慮を示してくれたインドに、私たちは感謝しなければなりません」と話していました。

ミャンマー政府は、ワクチンを調達するために国民から寄付を募るほど財政状況が厳しく、インド政府は今月22日に150万回分のワクチンを無償で届けました。

一方、中国政府は今月11日に王毅外相がミャンマーを訪問した際、30万回分を無償で供与すると申し出ています。

ミャンマーは、中国とインドと国境を接し戦略的にも重要な位置にあることから、領有権などをめぐって緊張関係が続く両国が影響力を拡大しようとせめぎ合っていて、ワクチン外交でも両国がぶつかり合う場となっています。

インド ワクチン外交で中国に対抗

インドの大手製薬会社は、イギリスの製薬大手アストラゼネカとの間で、アストラゼネカが開発したワクチンをインド国内で製造し、国内外に販売する契約を結んでいます。

インド政府は、国内で製造されたこのワクチンを会社から購入し、今月20日、南アジアやインド洋の国々に対し、無償で提供を始めました。
これまでに提供したのは、
▽ミャンマーへの150万回分に加え
▽バングラデシュに200万回分
▽ネパールに100万回分など
7か国で合わせて490万回分です。
今後は、スリランカとアフガニスタンにも無償で提供することにしています。

インドのモディ首相は「インドは『世界の薬局』として、これまでも助けを必要とする国々を支援し、これからも、その姿勢は変わらない」と述べ、ワクチンを積極的に提供する姿勢を示しています。

南アジアやインド洋の国々では、巨大経済圏構想「一帯一路」を掲げる中国が、鉄道や港湾などのインフラ整備を通じて影響力の拡大を図っており、インドとしては、いわゆる「ワクチン外交」を通じて中国に対抗するねらいもあるものとみられます。

インドと中国の外交関係が専門のシブ・ナダール大学のジャビン・ジェイコブ教授は「インドも中国も途上国へのワクチンの供給に積極的に取り組んでいて、これは外交の重要な要素の一つになっている。これは大国による勢力争い、パワーゲームの一環だが、インドは世界でも有数のワクチン製造能力を誇る国であり、中国よりも優位にたてる」と話しています。

ワクチン外交の攻勢受けるミャンマーは

中国は巨大経済圏構想「一帯一路」のもと、ミャンマーで物流ルート「中国・ミャンマー経済回廊」の建設を進めています。

完成すれば、中国は内陸部からインド洋に抜ける大動脈と海洋進出の足がかりを得ることになります。

一方、インドは安全保障の観点から、これに懸念を示していて、ミャンマーにおける中国とインドの利害はぶつかり合っています。

中国とインド双方からワクチン外交の攻勢を受けるミャンマーの立場について、ミャンマー戦略政策研究所のキン・キン・チョウ・ジー氏は「ミャンマーは中国とインド、双方との関係悪化を避けたいので、バランスを保ちながらアプローチしていくことになるだろう。対応を誤れば両大国の間で、代理戦争の血が流れる場になるおそれがあるので慎重にならざるをえない」と述べ、ミャンマー政府はワクチンを何としても手に入れたいものの、両国のバランスを慎重に保つことも求められると分析しています。