「ふざけんなよ」の声はなぜ響いたか 苦境に立つ飲食店

「ふざけんなよ」の声はなぜ響いたか 苦境に立つ飲食店
「ふざけんなよ」外食チェーンの社長が会見で発したことばが大きな反響を呼びました。
新型コロナの感染対策の「急所」とされた飲食店。感染の第3波の中を必死に耐え、休業や閉店を余儀なくされている店もあります。「これが多くの事業者の率直な気持ちでしょうね」「飲食業界の代弁」(SNSの反応)

社長のことばがなぜ多くの共感を得たのか。
立ち止まって考えてみました。

(ネットワーク報道部 記者 小倉真依 秋元宏美)

社長が発した「ふざけんなよ」に共感の声

「ふざけんなよ」
そのことばが報じられたのは2度目の緊急事態宣言後の今月13日でした。

夜の営業時間は8時までという政府の厳しい要請。

その直後に発せられた“ランチも自粛”とも受け取れる呼びかけがきっかけでした。
西村 経済再生担当大臣

「とくに午後8時以降の外出自粛をお願いしているが、昼間もランチはみんなと一緒に食べてもリスクが低いわけではないので、昼間もできるかぎり不要不急の外出自粛をお願いしたい」
その次の日、大手外食チェーン・サイゼリヤの堀埜一成社長は決算会見のなかでこう話しました。
堀埜一成 社長

「また、ランチがどうのこうのと言われましてね、ふざけんなよと」
時短営業の要請に応じているサイゼリヤ。

さらに食事をしながら会話できるというマスク(しゃべれるくん)を開発したり、すべてのメニューを50円単位のキリのいい金額にして会計で店員との接触を減らしたりするなど、独自の感染防止対策をつぎつぎと打ち出してきました。

実際に記者も店舗を利用した経験がありますが、定期的な換気、ドリンクバーなどの共有スペースのアルコール消毒など店員の方がこまめに感染防止策をしていました。

努力を重ねている企業の社長の発言は、一企業の発言にとどまらず、苦境に立つ飲食業界の思いを代弁してくれたと、SNS上でも共感の声が集まりました。
「サイゼの社長の飲食業界の代弁。自粛も営業も大事で、どちらも命や生活に関わる。大手への打撃は中小への致命傷になりえる。間をとる政策の打ち出しは難しいが、どちらの立場であっても声を大きくあげていかないといけない」
「これが多くの事業者の率直な気持ちでしょうね。時短営業で夜8時までになった上、ランチも自粛と言われたら休業しろと言われているようなもの」

メッセージはズレる?

実は「ふざけんなよ」のことばは、社長の会見の中で強い調子ではなく、つぶやくように発せられていました。

社長の発言のすべてを注意して読み解くと「ふざけるなよ」と発言した理由の一端がうかがえました。
堀埜一成 社長

「なぜ食事がこれだけいじめられるのか、(感染の)マイナス要素は確かに起こる可能性はあるんですよね、飲食は。マスクをしないでしゃべるチャンスはけっこう増えてしまうので。だから避けなさいって言っているのですけど、あまり食事、食事といっていくとズレてくるんですよ」
また、会見で社長は飲食業界で働く人の職場を奪ってしまうことへの危機感を示し、支援の対象を大手にも広げる必要性も訴えました。

そして店を開け続ける理由をこのように語っていました。
堀埜一成 社長

「やっぱり食事がないと大変な人たちがいる。テイクアウトやデリバリーでいいんじゃないかと言う人ってほとんど料理をしたことない人じゃないかと。主婦の方は使った食器を片づけないといけないし、子どもが泣いていても家のことをやらないといけない。すごくストレスがたまるんですよ。われわれはみなさんにちょっとガス抜きをしてもらうことが必要だろうと思うんです。それに“食事難民”など、外食がないと大変な人たちがいます。食べるところがなくて多くの外国の人もうちの店に来ています。そういう人たちのためにも開けとかなきゃいけないと思っています」 (会見から一部抜粋)
ふだんから歯にきぬ着せぬ発言をする堀埜社長。

一見すると、いつもと様子は変わらないように見えましたが、この日の会見は「狙い撃ち」と言われる時短要請の中、苦境に立つ飲食業界の当事者の声を伝えたいという強い思いがあったように感じました。

「ゴールポストが動かされた?」

危機管理の専門家、塩崎彰久弁護士はサイゼリヤの社長が発した「ふざけんなよ」のことばについて次のように分析しています。
塩崎彰久 弁護士

「事業者側は『一回設定されたゴールポストが動かされたんじゃないか』という印象を持たれてしまったのではないかと思います。もともと営業自粛は午後8時以降と言われているなかで、昼間についても言及されたときは、やはり事業者は違和感があるだろうし、一般の方にも混乱が生じるのではないかと思います。どういうフレーズを使うか、どうしたら誤解なく伝わるのかを考えなければなりません。そもそも要請という拘束力の弱いもののなかに、いろんなメッセージを込めているので、相当気をつけて説明しないと難しいと思います」
塩崎弁護士は、新型コロナの第1波の日本の対応を検証して報告書にまとめた民間臨時調査会の中心メンバーでもあります。

1か月とされている緊急事態宣言が延長されるのではと多くの人が懸念する中、どこまで我慢すればいいのか、先の見通しを示すことが必要だと話しました。
塩崎彰久 弁護士

「水のなかで60秒息を止めててくださいと言われて、水に飛び込んだら、あと60秒お願いしますと言われるんだろうなと思ったら怖くてなかなか前に進めないですよね。もう少し長い目で見たときに、必ず新型コロナ、パンデミックはワクチンで終わらせられるんだというこの先のビジョンをちゃんと伝えるのが、それぞれの事業者が自分の判断で準備ができる前提になってくるんじゃないでしょうか。我慢のトンネルの先を見せていくことが、国民に我慢してもらううえで非常に重要なポイントになってくると思います」

「365日外食を続けてきた」飲食店の利用者は、今

「普通のことなんかひとつもなかった」
「冒険(食事)なんていつでも行けると思っていた」

新型コロナの影響を受けた飲食店への思いを著書で表現したのは10年以上にわたりライフワークとして飲食店を利用し続けてきたゲームプロデューサーの成沢理恵さんです。
人気の冒険ゲーム“ドラクエ”になぞらえて「メシクエLV34」と名付けたブログの中で、外食をおいしい食事を探す冒険の旅として発信し、料理人とも交流を深めてきました。

「メシクエLV34」はオリジナルのゲームデザイナーに公認され、ブログにはこれまで196万人以上が訪れています。

去年4月の緊急事態宣言の影響で店が閉じてしまい、初めて冒険(食事)に出かけられない事態も経験した成沢さん。

「食事に行くのは良くない」というような風潮も感じ、1度はブログを閉じることも考えましたが、飲食店に対しての感謝の気持ちや思いを寄せてもらうきっかけにしてほしいとブログで発信し続け、その内容をまとめた電子書籍「お人良し」も去年の秋に出版、反響を呼んでいます。
「食事は癒やしであり、エンターテインメントであり、学び。仕事で多忙な生活を送る中、飲食店は命の恩人そのもの」食への思いについてこう語ってくれた成沢さん。

長年見続けてきた飲食店の現状をどう受け止めているのでしょうか。
成沢理恵 さん

「今回の2度目の緊急事態宣言や時短要請は、前回よりもさらに深刻だと感じています。閉店してしまったお店もありますし、前回はテイクアウトが注目を集めましたが、手間も手法も違うテイクアウトを続けること自体お店にとっては簡単なことではなく前回のような目新しさも薄れていて、厳しい状況です。相次ぐキャンセルや、先が見通せない不安な気持ち、大切に管理している食材を捨てなければならないつらさ、そんな思いをシェフの方々から感じ取っています」
知り合いの飲食店の中には「こんな時期にまだ店を開けているのか」とクレームを受けた店もあると言います。
成沢理恵 さん

「私たちはウイルスという見えない敵と戦っているのであって、『飲食店で食事をすること』自体が悪ではないと思います。飲食店だけでなく、今社会全体が困難に直面する中でほかの人を思いやる余裕が無くなってきているのではないか。それぞれの立場にいる人を思いやり、自分にできる形で応援を続けていきたい。みんなそれぞれ守るものがある中、私は私にとって身近であり、お世話になってきた「食」や「外食」や「飲食店」を守りたいと思っています」
飲食店があるかぎり1人でも冒険を続けていくと力強く話していました。

2度目の緊急事態宣言 広がる支援の輪

危機的な状況に追い込まれている飲食店を応援したい。

さまざまな企業や団体が支援に乗り出す中、福岡県のIT企業が去年3月から始めたある支援が広がりを見せています。

その名も「さきめし」。

応援したい店の食事チケットの代金を先払いし、足を運べる状況になってから食事をしに行くというシステムで、飲食店側には今すぐに現金が入り、客側はただ寄付するだけでなく、今は行けなくてもお気に入りの店の先の食事の予約をすることで支援ができます。

先払いのさいには店側にメッセージを送ることができ、「また必ず食べに行きます」「応援しています」というメッセージを受け取って、金銭的な支援のありがたさだけでなく、コロナ対応でふさぎ込んでいた心が勇気づけられたという店側からの声も寄せられています。

開始当初、参加していたのは4700店舗ほどでしたが、飲食店を取り巻く状況が厳しくなる中、自治体とタイアップしたり、大手飲料メーカーの支援を受けるなどして現在は全国およそ1万4000店舗まで拡大。

支援者は7万人と、その輪が広がっています。
さらに現在、2度目の緊急事態宣言を受け、宣言期間中は支援者が負担する手数料の半額を運営会社が負担するキャンペーンを行って支援のハードルを低くし、協賛企業も募集してさらなる支援につなげようとしています。
運営会社の代表で音楽プロデューサーの今井了介さんは、「今あらゆる業種、業界が苦しい中で飲食店を応援という気持ちになりにくいのはじゅうじゅう承知しています。ただ、一人一人思い浮かぶ大切なお店や思い出のお店があると思います。特に飲食店に焦点が絞られている中で、大切なお店にこれからもあり続けて欲しいという気持ちを、優しさを分け合う形で支援につなげていただきたいです」と話しています。

一石を投じる

「ふざけんなよ」の発言後、東京都は、営業時間の短縮に応じた飲食店への協力金の対象に大企業を加えることを表明しました。

サイゼリヤの社長の「ふざけんなよ」が、影響を与えたかどうかはわかりません。

発言に込めた思いや反響の受け止めについて社長に改めて取材を申し込みましたが多忙を極めているとして実現しませんでした。

批判や炎上を恐れる雰囲気がある中で、一石を投じる難しさと、それでも必要な声をあげていくことの必要性を強く感じました。