オリンピックまで半年 開催懸念する見方が選手たちに影響も

半年後に開幕が迫った東京オリンピックで実施される競技団体にNHKがアンケート調査を行い新型コロナウイルスの選手の強化計画への影響を尋ねたところ実戦や練習の不足のほかに選手のモチベーション低下といった回答が相次ぎました。
この夏の大会開催に世論の賛否が分かれている現状に選手が不安を感じているといった声も上がり、大会開催を懸念する見方が、選手たちに影響を及ぼしている実態も浮き彫りになりました。

東京オリンピックの開幕まで半年になるのを前に、NHKは先月から今月にかけて、東京大会で実施される33の競技団体に代表内定選手や強化指定選手の現状についてアンケート調査を行い、33競技団体すべてと、部門が分かれる競技を加えて合わせて42の強化担当者などから回答を得ました。

選手の強化計画における新型コロナウイルスの影響を複数回答で尋ねたところ、「実戦経験・練習の不足」が最も多く74%に上り、次いで「ライバル選手との比較ができない」が43%と技術面の課題が多くを占め、「選手のモチベーションの低下」も38%に上りました。

さらに、ことしのオリンピック開催に世論の賛否が分かれていることの影響を尋ねたところ、「影響がある」が26%、「影響がない」が19%、「わからない」が55%となりました。

「影響がある」の具体的な理由としては、「開催の可否が不透明で選手に不安を与えている」ことや「オリンピックに期待されていないと感じる」、「オリンピックを目指すことで人目が気になる」といった回答もあり、この夏の大会開催を懸念する見方が広がる現状が選手に精神的な影響を及ぼしている実態が浮き彫りになりました。

選手たちが技術面、精神面ともによりよい状態で大会に臨めるような環境をどのように整備できるのかが、感染対策などの運営面と合わせて残り半年の大きな課題になっています。

水泳の飛び込みで代表内定 寺内健選手は…

アンケートでことしの大会開催に世論の賛否が分かれていることの「影響がある」と回答した競技の1つ水泳の飛び込みです。

東京オリンピックの代表に内定している寺内健選手は兵庫県宝塚市出身の40歳で、これまでオリンピックに5回出場しています。

東京大会に向けては、おととし7月、男子シンクロ板飛び込みで日本の選手で最も早く代表に内定し、その後、男子板飛び込みでも代表に内定しました。

東京大会の開幕まで半年になるのを前に、NHKの取材にオンラインで応じた寺内選手は感染拡大による強化への影響については「マスクの着用や人数や時間の制限があり、以前のような当たり前に練習できる環境でないことは確かで、例年であれば海外合宿で最後の追い込みをかけることが今はできないのが苦しい」と話しました。

そのうえで「10代の選手のように練習すればするほどスキルが上がるということは今の自分にはないので少し技術を伸ばすことを目指してきた。それはこの1年でしっかりできた」と、限られた環境の中で工夫しながら練習に取り組んできたことを明かしました。

そして、ことしの大会開催への「逆風」とも言える厳しい世論については「ごく当たり前の考えだと思う。オリンピックが開かれることは選手として望むことであるが、まずは人命が優先。医療がひっ迫しないというところに向けて協力していくことが大前提でそれを乗り越えたあとにオリンピックがある」と考えを示しました。

一方で「計り知れない調整が必要になるかもしれないがやってほしいという思いはある。大会を見てもらって少しでも大変な状況をみんなで頑張ろうよと思ってもらえるようになれば」とも話し、複雑な胸のうちを明かしました。

さらに「オリンピックがなくなれば、ないものはないとしか受け止められない。後輩の選手がパニックにならないように希望を見いだしてあげることが自分の仕事でもある」と話していました。

また、寺内選手は、去年8月にみずからも新型コロナウイルスに感染したことを振り返り「極力外出を控え自宅にいる時間が長かった中で感染した。そういう方が多いと思う。重症になる方、亡くなる方が少しでも少なくなるということを望むことしか今は考えていない」と話していました。

陸上女子10000mで代表内定 新谷仁美選手は…

陸上女子10000メートルで東京オリンピックの代表に内定している32歳の新谷仁美選手は先月の日本選手権で日本記録を18年ぶりに更新して優勝し、2大会ぶり2回目のオリンピック代表に内定しました。

新谷選手はことしの東京大会開催に対する「逆風」とも言える厳しい世論を強く感じていて、NHKのインタビューに対して「アスリートとしてはやりたい。人としてはやりたくないです。アスリートとしては賛成だけど一国民としては反対という気持ちです」と語りました。

国民の1人として反対という理由については「命というものは正直、オリンピックよりも大事なものだと思う」と話しました。

新谷選手は「走るのは仕事」と常々語る高い“プロ意識”を持ち応援してくれる国民がいてこそ競技が続けられると考えていて、国民に不安が広がる現状での開催については慎重な姿勢を貫いています。

新谷選手は「見ている人たちが夢を持ち元気をもらえることがスポーツの魅力。そこをもう一度思い出して私たちがそれに対して応えていきたい」と話し、みずからの走りや生き方を積極的に発信することで開催に前向きになる人たちが少しでも増えることに期待を寄せていました。

自転車のBMX代表内定 中村輪夢選手は…

東京オリンピックで新種目に追加された自転車のBMXフリースタイルパークの中村輪夢選手は(18)去年6月、代表に内定しました。

東京大会の開幕まで半年になるのを前に、オンラインでNHKの取材に応じた中村選手は新型コロナウイルスの感染拡大でこの夏の大会開催に世論の賛否が分かれていることについて「こんな状況なので、なんとも言えない感じだが安全にオリンピックが開催されたら、日本の皆さんに自分のいいライディングを見せたい。海外の選手たちにも会いたいのでまずは、コロナが収まってほしい」と話しました。

中村選手は、去年10月に左足のかかとを骨折し、今月上旬に京都府宇治市にある拠点で練習を再開したばかりで「久しぶりに自転車に乗るのは気持ちよかった。他人の自転車に乗ってるみたいではあったが自分にはBMXしかないという感じがした」と話しました。

ソフトボール 選手のメンタル面フォローも検討

アンケートでことしの大会開催に世論の賛否が分かれていることの「影響がある」と回答した競技の1つ、ソフトボールでは、選手から不安の声が挙がっているといいます。

東京大会で金メダル獲得の期待がかかるソフトボールは、次のパリ大会では実施されないことが決まっているため、日本代表の矢端信介選手強化本部長は「選手たちは、一生に一度の祭典ができるかできないかという特別な気持ちを持っているだけに不安も大きい」と指摘します。

そこで競技団体では、日本代表のメンバー全員が週に1回、オンラインで話せる場を作ったり、練習内容に加え不安や心配なことを書いて提出してもらったりすることで選手のメンタル面をフォローすることも検討しているということです。

矢端選手強化本部長は「不安を抱えている選手たちとコミュニケーションを取って前向きな気持ちを育てていくしかない」と話しています。

ソフトボールの日本代表は海外遠征が中止になり、1年以上対外試合ができていない上、男子選手の球を打つなど高いレベルの練習を取り入れている強化合宿も、緊急事態宣言を受けて今月高知で予定されていた合宿が中止になるなど「実戦経験や練習不足」も大きな課題となっています。

アメリカでは選手の精神面のサポート重視した対策

オリンピックの延期でモチベーションの維持などに苦しむ選手を支援しようと、アメリカでは選手の精神面のサポートを特に重視した対策が進められています。

東京オリンピックの延期が決まったあとの去年5月、IOC=国際オリンピック委員会がおよそ4000人の選手に行ったアンケート調査では、およそ半数が「やる気の維持が困難だ」と回答しました。

東京オリンピックに550人から600人の選手団を派遣する予定のUSOPC=アメリカオリンピック・パラリンピック委員会は、東京大会の延期が決まったあと、選手の精神面をケアする特別作業チームの中にメンタルヘルスの専門家を新たに雇用しました。

そして、選手に対して電話などで24時間対応のカウンセリングを実施し、コーチなどのスタッフとも定期的にミーティングを行うなど大会の延期で落ち込んだり、目標を見失ってしまったりする選手のケアを進めてきました。

これまでに4000人以上の選手がカウンセリングを利用したということです。

USOPCのサラ・ハーシュランドCEOは先月行った電話会見で東京大会について「選手にとっても大会の開催がとても重要と感じている。現時点では前向きな開催を目指して私たちも準備を進めている」と話しています。

専門家 “選手に情報を”

早稲田大学スポーツ科学学術院の間野義之教授は「オリンピックを開催するのは難しいんじゃないかという意見がある中で、アスリートがスポーツに集中することに後ろめたさを感じることはしかたがないと思う」としたうえで「“無観客”はあっても“無選手”のオリンピックはありえないのでいちばん懸念されるのは選手自身がオリンピックに参加したくないと思うことだ」と選手の精神面への影響を危惧しています。

さらに「スポーツは医療などと比べて必要不可欠ではないのかもしれないが、世界中の人々がコロナによって精神的にも肉体的にも経済的にも疲弊してきている中で疲れ切った心に活力を与えるものの1つがオリンピックだと思うので、選手たちはそこに向けて自分たちが役に立つんだ、頑張るんだと気持ちを切り替えてほしい」と指摘しています。

そして大会の開催に向けては「選手向けの情報が全体的に不足しているので、不安を抱えながら練習している選手が多いと思うが、開催するにはこういうステップで進んでいくということを、明確に示すことによって選手たちも安心して競技に専念できるのではないか」と話しています。