東京五輪まで半年 “調整遅れ鮮明に” アンケート調査結果

東京オリンピックの開幕まで半年となるのに合わせてNHKが、競技団体にアンケート調査を行い選手の調整状況を尋ねたところ延期前の去年1月時点と比べ、「遅れている」という回答が「進んでいる」を大きく上回り調整の遅れが鮮明になりました。

新型コロナウイルスの影響で国際大会に出場できず実戦経験が不足しているといった声が多く上がり、大会本番に向けて選手の調整をどう進めていけるかが課題となっています。

東京オリンピックの開幕まで半年となるのを前に、NHKは12月から1月にかけて、実施される競技団体に内定選手や強化指定選手の現状についてアンケート調査を行い、33の競技団体すべてと、部門が分かれる競技を加えて合わせて42の強化担当者などから回答を得ました。

この中で選手たちの大会出場の可否について聞いたところ、「国内大会には出場できているが国際大会には出場できていない」が57%「国内、国外大会ともに出場できていない」が12%となりました。

「いずれも出場できている」は24%にとどまっていて、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、選手たちが特に国際大会で実戦経験を十分に積めていない実態が浮かび上がりました。

また、延期前の去年1月時点と比較して調整状況を複数回答で尋ねたところ、「遅れている」が45%、「進んでいる」が29%、「変わらない」が36%となり選手たちの調整の遅れが鮮明になりました。

「進んでいる」の理由としては「技術的に成長する時間があった」という声が多くあった一方で、「遅れている」と回答した競技の担当者のすべてが「実戦経験の不足」をあげ、それ以外にも、「練習環境が十分確保できない」や、「トレーニング不足からけが人が出ている」といった回答もありました。

新型コロナウイルスの影響で国際大会に参加できず実戦経験やトレーニングが不足する中で、半年後の大会本番に向けて選手の強化や調整をどのように進めていけるかが課題となっています。

体操 寺本明日香 延期をプラスに

体操の寺本明日香選手は去年2月の練習中に大けがを負い、一時は東京オリンピックの出場が危ぶまれましたが、延期によって、十分なリハビリと練習を重ねることができ、半年後の大舞台を見据えています。

オリンピックに2大会連続出場している寺本選手は、おととしの世界選手権で日本代表のキャプテンを務め東京大会への出場も期待されていました。

しかし、去年2月の練習中に左足のアキレスけんを断裂。

当時は東京大会の延期が決まる前で「オリンピック出場は無理だと思った。ここまで頑張ってきたことを思うと、他の選手に代表を譲ることがとても悔しいなと思った」と一時はあきらめかけた心境を語りました。

それでも一緒に日本代表を引っ張ってきた村上茉愛選手から励ましのメッセージが書かれた色紙をもらうことなどで奮い立ってリハビリを始め、3月には東京大会の延期が決まりました。

寺本選手は「不利になった選手もいるので、心から喜ぶことはできないが私としては正直、すごく安心した。再びけがをするリスクを負ってまでリハビリや練習を早めなくていいし、ここまでだったら再発することもなく大丈夫という感覚を養いながら練習ができた」と当時を振り返りました。

けがから半年後の9月に復帰戦となる国内大会に臨み、12月には全日本選手権にも出場しました。

東京オリンピックの代表はことし春からの大会で決まります。

寺本選手は「去年よりも焦りもなく心が落ち着いているし、いい感じに仕上がっている。自分にとってこの1年は本当にプラスだった。大きな壁も乗り越えたのでケガをしてよかったと思えるくらいだ。あとは自分の体操や自分という物語をどう表現するか。練習も自信も積んだので満足のいく演技がしたいし、その結果、一般の人たちに勇気や元気を届けられたらうれしいです」とオリンピック本番を見据え、意気込みを話しました。

バドミントン代表 コロナで遠征中止

バドミントンでは1月、国際大会が9か月ぶりに本格的に再開されましたが日本代表は遠征直前に選手の感染が確認され、チームとして大会出場を取りやめました。

バドミントンは去年3月から中断していたワールドツアーが、今月、タイで行われている最上位の格付けの国際大会から本格的に再開され、世界中の強豪選手が出場しています。

東京オリンピックを目指す日本代表の選手たちも海外のトップ選手との実戦に臨む予定でしたが、出国当日の1月3日に成田空港で受けたPCR検査で桃田賢斗選手の感染が確認されました。

結果的に、ほかの代表選手は保健所から濃厚接触者には認定されませんでしたが、日本バドミントン協会は同じコートで練習をし同じバスで移動をするなど集団行動を余儀なくされる代表チームの事情を考慮して女子も含めた選手全員の遠征中止を決断しました。

これによりバドミントンの日本代表は東京大会開幕まで半年となる中、貴重な実戦の機会を失い強化策の見直しを迫られることになりました。

バドミントンに限らず各競技の日本代表選手たちの活躍の舞台の多くは海外で、遠征中は少なからず集団での行動が求められます。

遠征に備えて感染対策をとっていたトップ選手が自覚症状はなく遠征直前に感染が判明した今回の事例はスポーツの再開の難しさを改めて浮き彫りにしました。
日本バドミントン協会の銭谷欽治専務理事は「陽性になったという結果に驚きを禁じ得なかった。選手にとっては海外選手と試合を出来る機会の喪失につながったので苦渋の決断だったが、いたしかたなかった」と話しました。

ビーチバレー 練習環境が確保できず

「調整が遅れている」と回答した競技のひとつ、ビーチバレーは、その理由として▼練習環境が確保できていないことや▼実戦経験の不足を挙げています。

女子の強化指定選手で、オリンピック代表入りが有望視されている、石井美樹選手(31)と、村上めぐみ選手のペアは、(35)例年はこの時期、気候が温暖な台湾南部で合宿を行ってきましたが、ことしは新型コロナウイルスの影響で渡航できず、神奈川県平塚市の海岸を拠点にしています。

風の吹く海辺で行うビーチバレーでは体が冷えるとけがのリスクもあるため、腕や腰などにカイロを貼って寒さ対策をしながら練習に臨んでいます。

さらに海外ツアーは去年3月以降中止が続いていて、2人は海外の有力選手との実戦の機会を失ったまま、オリンピック開幕まで半年を迎えます。

それでも今の環境でベストを尽くそうと工夫して練習に取り組んでいます。

ともに身長1メートル70センチ前後とビーチバレーの選手としては小柄な2人は、20センチ以上身長差のある海外選手を想定し、高さ50センチ以上ある台の上からコーチにスパイクやサーブを打ってもらい高さとパワーのある海外選手への対策を進めています。
村上選手は「練習できない選手もいてすべての選手が大会に来られるわけでもなく、目指していたオリンピックとは違うものになるかもしれないがそこに向かっていくことで得られるものもあると思う。大会が開催できるなら、それはいろいろな方の努力の上のことなので、自分たちのいちばんいいものを見てもらいみんなが元気になるようなプレーをしたい」と話していました。

石井選手は金メダル獲得を願って購入したという2020年の金色の手帳を今も大切に持ち続けています。

書き込まれた試合予定には次々と取り消しの線が引かれ、ついには何も書き込まれなくなってしまっています。

石井選手は「葛藤していた当時の気持ちが詰まっている。ベストな状況じゃなかったから勝てなかったなんて言いたくもないし、聞きたくもないので、ことしも金メダルを目指して頑張らないといけないと思います」と前を見据えていました。

調整遅れ 海外の選手も

大会に向けた調整が十分に行えないのは、海外の選手たちも同じ状況だといいます。

3年前からケニアの女子バレーボール代表チームのコーチを務める片桐翔太さんは去年3月、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて帰国しました。

片桐さんはSNSで選手と連絡を取り動画を送るなどしてサポートを続けていますが、選手の状態を詳細に把握することはできず、1月からオリンピック本番まで再びケニアに行く予定だということです。

代表選手たちは8月ごろまでコートで練習できずその後、所属チームで練習しているものの1年前に比べ体力が落ちている選手が多いとみられるということです。

片桐さんは「せっかくオリンピックに向けて鍛えていたのに、また一からやり直しだという話を現地のコーチから聞いています。もう一度戦える体に戻していかないといけない」と話していました。

一方で、片桐さんは日本で再び感染拡大が続く中、外国チームがどう見られるかを懸念しているといいます。

片桐さんは「海外から来日する人へのいろいろな感情が渦巻いているのは感じるし、歓迎されない状況ではやりたくないなと思う一方でそれはわがままなのかなとも考えます。なるべく国と国が交流できるような形で開催されることを望んでいます」と話していました。

専門家「原点に回帰する大会に」

早稲田大学スポーツ科学学術院の間野義之教授は多くの競技で調整が遅れている現状について「実戦経験の不足やコロナへの感染などいろいろな条件が重なり国内だけでなく海外のアスリートも直面している問題で、今回の大会は競技としてのレベルは下がるかもしれず、前回大会とは全く違ったオリンピックになると思う」と指摘します。

一方で「オリンピックは本来、メダルや記録を競うことが目的ではなく、心身を鍛練した若者が集まり、友情を育んで平和を希求する、それがあるべき姿で、東京大会はその原点に回帰する大会にすればいいと思う」と述べオリンピックのあり方を見つめ直すいい機会だとしています。

そのうえで、大会を開催するために必要なこととして「国内の大規模スポーツ大会で蓄積してきた感染対策などのノウハウをなるべく細かく正確に発信して共有し大会を安全安心に開催できるということをしっかり伝えていく必要がある」と話しています。