次の便は“宇宙行き” 大分空港が「宇宙港」に!?

次の便は“宇宙行き” 大分空港が「宇宙港」に!?
大分市中心部からバスに乗ることおよそ1時間。海沿いに大分空港があります。一見するとそれほど特徴のない地方空港ですが、いま地元の人たちから熱い期待が寄せられています。空港の行き先を示す掲示板に並ぶ東京や大阪、名古屋の文字。そこに「宇宙行き」が加わるかもしれないというのですが…(大分放送局記者 吉田幸史)

ロケット打ち上げは飛行機で!?

“宇宙港”とはいったいどのような空港なのか。

大分空港では早ければ来年・2022年にも、ロケットで小型衛星を打ち上げる計画が進められているのです。

計画しているのはアメリカの「ヴァージン・オービット」社。イギリスの企業グループ、ヴァージングループの傘下でアメリカ・カリフォルニア州を拠点に小型衛星を打ち上げる事業を手がけています。
皆さんがよく知る垂直に打ち上げるロケットではありません。専用の航空機にロケットを載せて離陸後に空中で発射させる「水平型」という方法で打ち上げます。

1月17日にアメリカで打ち上げの試験が行われ、人工衛星を宇宙の軌道に乗せることに初めて成功しました。

その打ち上げ計画がいま、大分空港で進められています。

なぜ「宇宙港」に?

2020年4月、この打ち上げ拠点の“宇宙港”として、大分空港はアジアで初めて選ばれました。

三菱電機出身で国産の宇宙船「こうのとり」の開発に携わり、今回の選定にも尽力した高山久信さん(大分県豊後大野市出身)は、選ばれた理由を大きく3つ挙げます。
高山さん
「たくさんの候補地が日本のなかでも検討されていますが、滑走路の大きさと周辺のアクセス、場所の特徴が決め手になったと思います」
1「3000メートル級の長い滑走路」
打ち上げに使う飛行機はジャンボジェット機のボーイング747が想定されていて、離着陸には十分な助走が行える滑走路が不可欠です。大分空港は地方空港では珍しく、3000メートルの滑走路を有しています。
2「海に接する立地」
人口密集地の近くの場合、万が一の事故があったときにリスクが高くなります。一方で、海と接している大分空港は、打ち上げ場所として想定されている太平洋まで常に海の上を飛んでその場所まで向かうことができます。
3「混まない空港と“おんせん県”」
飛行機が数分単位で離着陸する都市部の空港とは違って、大分空港はまだまだ路線数が限られており、ロケットを打ち上げる立場としては時間の融通が利きやすいことがあります。
さらに、多くのエンジニアが長期間滞在することも想定され、全国有数の温泉地である別府や湯布院などの観光地でリフレッシュできることも好材料になったというのです。

ただ打ち上げる場所にはしたくない

さまざまな好条件がそろい“宇宙港”として選ばれた大分空港。地元では中小企業や観光業などの間で、宇宙ビジネスに関わろうと機運が高まっています。

そうしたなか、高山さんは長年にわたって宇宙事業に関わった経験を生かし、地元を1つにまとめようと一般社団法人「おおいたスペースフューチャーセンター」という組織をことし2月に設立することになりました。
高山さん
「宇宙産業に無縁だった大分県が宇宙産業に参入できる絶好のチャンスです」
打ち上げの詳しい計画はまだ明らかになっていませんが、ロケットや人工衛星の点検、整備作業が大分県内で数か月かけて行われる見通しです。

また、人工衛星の打ち上げには国内外から多くの見学者が訪れ、おもてなしするサービスも必要になると考えています。
高山さん
「地元がなにもしないと、大分は打ち上げるだけの場所になってしまいます。そうはしたくないんです」

地元中小企業から高まる期待

大分県には自動車、鉄鋼、造船などの一大製造拠点があり、取引先など多くの中小企業が集積しています。これまでに培ったものづくりの技術をいかして宇宙ビジネスに新たな活路を見いだしたいと期待が高まっています。

そのひとり、大分県南部の佐伯市で鉄鋼関連の会社を経営する西嶋真由企さんは、2018年に九州工業大学と協力して、超小型の人工衛星を制作した経験があります。地球に降り注ぐ放射線の観測などを目的とする人工衛星「てんこう」の制作に携わりました。
地元の中小企業の間では、宇宙ビジネスにチャレンジした“先輩”です。打ち上げに向けた準備が大分で進められる間、オーダーメイドの部品を現地で調達するといった急な受注があるかもしれないと西嶋さんは期待しています。
西嶋さん
「人工衛星の制作で、強度と軽量化を両立する部品づくりや、過酷な宇宙空間の環境に耐えられる技術のノウハウを身につけました。自分たちの技術力が生かせるチャンスをつかみたい」

世界中を競争相手に

大分県はかつて高度成長期に企業誘致に積極的に取り組んだ歴史があります。その結果、自動車や石油化学、半導体など幅広い分野の企業が県内に定着し、産業の集積を実現しました。

時代は移り、大分県は今「先端技術」の分野に力を入れ、新しい産業の集積地を目指しています。

そうしたなかでチャンスが巡ってきた“宇宙港”。宇宙ビジネスの市場規模は2040年には世界で1兆ドル規模に成長すると予測されています(モルガン・スタンレー試算)。

屈指の成長産業として世界中が競争相手になる分野ですが、そこに果敢に名乗りを上げた大分県。地元の力を結集して、世界から注目される“宇宙港ビジネスモデル”の先駆けになるのか。その勝負が始まっています。
大分放送局記者
吉田 幸史
平成28年入局
ワーケーションなど地域経済の最新動向を取材
宇宙ビジネスにも興味がありロケット型のネクタイピンを愛用