新型コロナ 病床ひっ迫 “患者の重症度に応じ病院が役割分担”

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、各地で病床のひっ迫状況が厳しくなってきている中、病床をどう確保するかが課題になっています。長野県の松本市を中心とする地域では、住民の生活圏となる「2次医療圏」で患者の重症度に応じて担当する病院をあらかじめ決めて役割を分担して対応しようとしています。

長野県松本市を中心に塩尻市や安曇野市など、3市5村がある2次医療圏、「松本医療圏」の9つの病院は新型コロナの患者数にあわせて必要な病床数を想定し、症状の重さや人工透析が必要かなど患者の状態にあわせて受け入れる患者数や役割を病院ごとに割り振りました。

日本病院会の会長で松本医療圏の民間病院の1つ、相澤病院の相澤孝夫理事長によりますと、新型コロナの感染が長野県内でも広がり始めた去年4月、松本市や地域の病院のトップが協議して、こうした対応を決めたということです。

現在、この地域では21日までの1週間に合わせて84人の感染が確認されるなど感染の拡大が続いていますが、病院間の話し合いで公立や公的な病院では▽信州大学医学部附属病院は重症と中等症の患者、▽国立病院機構まつもと医療センターと▽松本市立病院、安曇野赤十字病院は主に中等症や軽症の患者、そして▽県立こども病院は子どもや妊婦を受け入れています。

また、民間病院でも▼相澤病院で人工透析が必要な患者と主に中等症の患者、▼松本協立病院では主に軽症の患者を受け入れています。

一方で、▼藤森病院と▼丸の内病院はコロナ患者以外の治療を担当しているということです。

相澤理事長は感染が急拡大する前に、「2次医療圏」で病院や行政のトップが直接協議して、患者数の想定をもとにした病床や役割の分担を計画しておくべきだと訴えています。

相澤理事長は「医療体制がひっ迫してから行政が個別の病院に要請しても病床確保は難しい。松本医療圏では、病院どうしで平時からこまめにコミュニケーションをとっていたことや、行政のリーダーシップで最初に市立病院で多くのコロナ病床を確保してもらったりしたので分担がうまく働いている」と話しています。

一方で、東京都など感染の状況が厳しい地域では、体制を作るのが難しくなっているとして、相澤理事長は「感染の第3波が来る前に国が主導する形でしっかりした体制づくりを進めておくべきだった。ただ、感染がそれほど拡大していない地域ではまだ間に合う。緊急時のいまこそ、医療圏ごとに最悪の事態を想定した体制の構築を進めておくべきだ」と指摘しました。

「2次医療圏」とは

「2次医療圏」は、高度な医療を除いた一般的な入院治療を提供できるようにするために設定されている地域で、おおむね住民の生活圏を想定して複数の市町村にまたがって設定されています。

人口や医療機関へのアクセスにかかる時間などを考慮して定められていて、全国で合わせて335あります。

各都道府県は、「2次医療圏」を基本として▽がんや脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患の5種類の病気、それに▽救急、災害、周産期、小児医療、過疎地の医療の5つの事業について、どの医療機関が担うのかやどのくらいの病床数が必要かなどを考慮して、体制をまとめた「医療計画」を作ることになっています。

専門家「感染急拡大地域 “対応集約化”で病床確保を」

感染が急拡大し、すでに感染状況が厳しくなっている地域でどう病床を確保するか、専門家は新型コロナウイルスの患者に専門的に対応する病院を設けて、対応を集約化することも選択肢だとしています。

医療提供体制に詳しい中央大学の真野俊樹教授は、「アメリカなど海外の病院は、『野戦病院』のような形で戦争や感染症に対応してきた背景があり、新型コロナでも500床の病床の半分をコロナ専用にするなど、思い切った対応ができている。その結果、日本と比べて感染者が桁違いに多いが、なんとか患者を受け入れられている」と話しています。

国内でも東京都は病床数を増やすため、都立広尾病院など3つの病院で新型コロナの患者を重点的に受け入れて実質的に専門病院とする方針を示しています。

こうした動きについて、真野教授は「日本では大学病院などでも集中治療に対応した病床はごく一部で、専門病院化しても一気に増やすのは難しい」としながらも、「欧米などの例にならって、感染の急拡大にあわせて新型コロナの専門病院を設けて対応する方向は正しいと思う」と指摘しています。

(東京) 病床確保のため民間病院と協定へ

緊急事態宣言が出されている、東京、神奈川、埼玉では、病床ひっ迫が進む中、新たな取り組みが始まっています。

東京 杉並区では現在、区内の4つの基幹病院で新型コロナウイルスの患者を受け入れていますが病床の使用率は90%を超える日が続いていて、入院が必要なのに自宅などで療養せざるを得ない新規の感染者が増えていることが課題となっています。

一方で、入院患者の中には、症状が回復しても、リハビリなどを続ける転院先が見つからないため、病床を空けることができないケースもあるということです。

こうした事態を受け、杉並区は、症状が回復した患者の転院を円滑に進め、新規の感染者の受け入れにつなげようと、区内の10の民間病院と転院先の確保に向けた新たな協定を結ぶ方針を固めました。
協定には区内の病院の入院患者が国の退院基準を満たすまでに回復した場合、区が転院先を調整し、協定を結んだ病院が病床の確保に努める内容が盛り込まれています。

そして、転院を受け入れた病院には区が▼1つの病床につき1日8000円、▼個室の場合は1日2万8000円を連続10日を上限に補助します。

協定は今週中にも結ばれる予定で、区は「新たな感染者を受け入れる病床を確保するための対策を急ぎたい」としています。

(神奈川)病床確保の専門チーム 活動開始

神奈川県のまとめでは、県内にすぐに使える病床は、1000床余りありますが、20日の時点の使用率は88%で、今月10日以降、90%前後の状態が続いています。

このため県は今月、病床を確保するための専門のチームを新たにつくりました。

チームは、テレビ会議などで県内の病院に協力を求めていますが、多くの病院が病床を増やすことは難しいとしていて、チームは、それぞれの病院がどんな支援を必要としているかを聞き取って個別に解決する必要があるとして実際に病院を回る活動を始めました。

きょうは、チームのメンバーが、「横須賀市立市民病院」を訪ねました。

この病院では、軽症や中等症の患者を30人ほど受け入れています。

病院長は、病床自体の余裕はまだあるものの、新型コロナの患者の治療には通常より人手がかかるため医師や看護師が足りず、受け入れを増やすことは難しいと説明していました。

そしてチームの担当者に対し、治療が終わったあとも療養のために入院している患者を他の病院に転院させるための支援を求めていました。

横須賀市立市民病院の北村俊治病院長は、「より多くの患者を治したいが、通常の医療や救急対応もあり、今の状態で病床を増やすのは難しい」と話していました。

チームでは、今後、県内のすべての病院を対象に病床確保の要請を続けることにしています。

チームを統括する足立原崇医療機関調整担当部長は、「人、物、制度など、病床を増やすために何が課題なのかを聞き、一つ一つ解決していきたい」と話していました。

(埼玉) 宿泊施設の療養者を病院が支える

埼玉県内では新型コロナウイルスの患者およそ290人が宿泊施設で療養し、医師と看護師が健康観察を行っていますが、日々担当者が入れ代わる中で病状の変化にどう対応するかが課題となっています。

埼玉県は、新型コロナの患者を受け入れる戸田市の公平病院と連携して、宿泊施設で療養する患者を同じ病院で継続して観察し健康状態をきめ細かく把握するための新たな取り組みを先月から始めました。
隣の川口市内の宿泊施設に常駐する看護師からの報告をもとに診察の必要性がある場合は本人の意向を確認したうえでオンラインでの診療を行います。

また解熱剤や下痢などの薬が処方された場合には宿泊施設に届けるほか、治療が必要な場合は県と連絡を取り合って病院の専用車両で移動させ診察したり入院してもらったりすることができます。

病院によりますと、今は毎日1人から2人ほどオンラインで診療を行っていて、入院につながったケースもあったということです。

公平病院の公平誠 病院長は「常に同じ病院の医師が健康管理を行うことで症状の変化に気づきやすく、容体悪化の前兆もつかめると考えている。重症化する患者を1人でも減らすことが重要だ」と話しています。