コロナで病床ひっ迫 病院に患者受け入れ難しい構造的課題が

日本の新型コロナウイルスの感染者数は欧米各国に比べて桁違いに少ない一方で、患者を受け入れる病床のひっ迫が問題になっています。こうした中で、患者の受け入れが少ない民間病院がさらに多くの患者を受け入れるべきだという意見が出てきていますが、専門家は、日本は病床数が多い一方で、対応できる医師が少なく、設備が整わない小規模な病院が多いことから、新型コロナ患者の受け入れが難しい、構造的な課題があるとしています。

日本はおととしには1000人当たりの病床数は13.0床と、OECD=経済協力開発機構の加盟国の中で最も多く、ドイツの8.0床、アメリカが2.9床、イギリスが2.5床などと比べて格段に多くなっています。
一方で、厚生労働省によりますと、去年11月末時点で新型コロナウイルスの患者の受け入れが可能と報告した病院は全体で25%、このうち民間病院では急性期の病床がある病院でも21%と少なく、病床のひっ迫状況が厳しくなっている中で、民間病院で受け入れるべきだという声が出てきています。
民間病院で受け入れが進みにくい現状について、医療提供体制に詳しい中央大学の真野俊樹教授は、国内に8300ある病院のうちの80%が民間で、医師が規模の小さな病院に分散しているため、それぞれの病院で対応できる医師の数が少ないほか、感染対策の設備も十分ではないという課題を指摘します。

さらに、日本は患者の入院日数がOECDの中で最も長く16.1日で、ドイツが7.5日、イギリスが5.9日、アメリカが5.5日などの2倍以上となっていて、真野教授は、小規模な民間病院を中心に、慢性の病気の患者が入院できるようにして医療にアクセスしやすくしてきた一方で、感染対策をとりながら多くの医療スタッフで診る必要がある新型コロナウイルスの患者には対応しにくい、構造的な課題があると指摘しています。
真野教授は「日本は医療が身近にあって、長期にわたって治療を受けられるようになっていて、がんや脳卒中、高齢者に多い生活習慣病の治療に細かく対応するのに適した形になっているが、医療資源が分散しているため、新型コロナの対応は難しい。前に感染の波が来たときに専用病院をもっと設けるなど、新型コロナの医療を集約化できるようにしておくべきだった」と指摘しています。

そのうえで、今後の対策として「小規模な民間病院で高度な治療は難しいと思うが、発症から時間がたって回復した患者の治療なら十分対応できる。最前線で治療にあたっている病院を後方支援するなど、役割分担を明確にすべきだ」と話しています。

公的病院 “限界近づいてきている”

当初から新型コロナウイルスの重症患者の治療に当たってきた公的病院、東京 武蔵野市の「武蔵野赤十字病院」は、感染が急拡大した先月以降、患者の受け入れを増やしてきましたが、限界が近づいてきているとしていて、院長は「民間の病院も受け入れを増やしてほしい」と訴えています。

「武蔵野赤十字病院」は、先月下旬、東京都の要請を受けて、もともと5床だった新型コロナの重症患者用のベッドを6床に、中等症患者用のベッドを40床から58床に増やして治療にあたっています。

中等症の患者に対しては、通常の医療に比べて看護師を1.5倍、そして重症患者に対しては3倍配置する必要がありますが、このところ重い肺炎の患者や腎臓病など合併症がある新型コロナ患者の入院が増加していて、呼吸器内科や救命救急だけでなく、別の病気を診る内科などから医師や看護師を集めて対応しています。

今では救急の受け入れが8割程度に減り、すぐには命に関わらない手術を延期せざるをえなくなるなど、通常の医療提供体制に大きな影響が出ているということです。

泉並木院長は「ほかの病院から重症や重症に近い患者の転院依頼が殺到し、毎日5人は新たに入院してくる。内科の医師などが総力戦で臨んでいるが、人が足りず、疲弊しきっている。これ以上病床を増やすのは不可能だ。さらに防護服など感染対策に出費がかかるのに、患者を多く引き受けるほど病院は赤字になる構造になっている」と話しています。

その一方で、泉院長によりますと、人工呼吸器を使った治療ができる民間病院でも、新型コロナの重症の患者を受け入れているところは地域には少なく、武蔵野赤十字病院に患者が集中しているとしていて「新型コロナの対応はまさに災害時の医療だ。集中治療ができる病院では重症患者を診てもらいたいし、療養型の病院では回復後の患者を診てもらいたい。コロナ対応は地域の病院あげて行うことが必要だ」と訴えています。

患者受け入れの民間病院も病床ひっ迫

東京 八王子市にある民間の病院「南多摩病院」は去年2月から新型コロナの患者の受け入れを続けていています。

病院では170床のうち、小児科の病棟を一時的に閉鎖し、23床を新型コロナの中等症の患者や感染の疑いがある患者に対応する病床にしていますが、先月下旬からは満床となっていて、受け入れを断らざるをえない状況が続いています。

病床のひっ迫をさらに厳しくしているのが、高齢者や持病のある患者が新型コロナから回復しても転院先がなかなか決まらないことです。

病院では通常の患者の場合は、一定程度回復するとリハビリを行う病院や長期療養ができる病院に転院してもらうことで病床を確保してきましたが、新型コロナ対応ではこの仕組みが十分機能せず、病床が圧迫されています。

先月には転院先となってきた病院の1つでクラスターが発生し、回復した患者を受け入れてもらうのが難しくなったほか、回復した患者に対しては、通常は陰性であることを証明するPCR検査が行われないため、感染を恐れて受け入れをちゅうちょする病院もあるということです。

南多摩病院では、転院できない患者には新型コロナ以外の病床に移ってもらうなどして対応していますが、新型コロナだけでなく、ほかの病気での入院の受け入れも厳しくなってきており、緊急性が低い手術などの延期に伴って収入が減少し、病院経営も圧迫されているとしています。

南多摩病院の益子邦洋院長は「慢性期の病院に転院できるはずの患者が残っていることで、コロナ以外の病床も圧迫されている。クラスターが発生してバッシングを受けたり収入が減ったりする病院を見て、自分の病院が潰れるのを避けたいという思いはわかるが、今はすべての医療機関が戦線に参加しないと、コロナと戦えない状況だ。対応できる能力に差があったとしても、ほかの病院でも対応してもらいたい」と訴えています。

患者受け入れの小規模民間病院 ぎりぎりの対応

公立の大病院に比べて、規模も小さく、医療スタッフの確保や設備の面でも課題を抱える民間の病院もあります。

愛知県北部の大口町にある「さくら総合病院」は中規模の民間病院で、ふだんは390ある病床のうち、およそ4割はリハビリや慢性期の患者の診療にあてていますが、第3波の感染拡大を機に先月から急きょ、病棟の1つを透明のシートで分けるなどして新型コロナ専用に転換して10床用意し、中等症の患者の受け入れを始めました。

その後、患者の急増ですぐに20床に増やさざるをえなくなり、今も県内各地から患者が搬送されて満床の状態が続いています。

新型コロナに対応するのは病院長を含めて医師は2人、看護師も日中3人、夜間2人を確保するのが精いっぱいで、医療スタッフが少ない中でぎりぎりの対応が続いています。

その中で入院中に患者が重症化しても転院先が見つからず、重症患者の対応にあたらざるをえなくなっていますが、病院に集中治療室は4床しかなく、個室になっておらず隔離できないため、集中治療室以外で人工呼吸器を使った治療まで行う状況になっています。

そのうえ、病院では新型コロナ患者の受け入れには経営の面でも不安があるとしていて、国などからの補助金はあるものの、クラスターが発生した場合、外来や救急などほかの診療が続けられなくなり、大きな減収となるおそれがあるなど、規模が大きくない民間の病院で患者を受け入れるのは簡単ではないとしています。

小林豊病院長は「重症者の管理に慣れていない看護師には、集中治療室担当の看護師が教えるなどして、連携をとり、学びながら患者さんを診ている。新型コロナの患者を受け入れることは、風評被害だったりスタッフの疲弊だったり、いろいろな問題が出てくるおそれがあるが、日本中の多くの病院が厳しい状況で頑張っていることを伝え聞いているので、われわれも頑張るしかない」と話しています。