芥川賞は宇佐見りんさん・直木賞は西條奈加さん

芥川賞と直木賞の選考会が開かれ、芥川賞に宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」が、直木賞に西條奈加さんの「心淋し川」(うらさびしがわ)が、それぞれ選ばれました。

芥川賞 宇佐見りんさん「推し、燃ゆ」

第164回芥川賞と直木賞の選考会は、20日午後、東京で開かれ、このうち芥川賞には宇佐見りんさん(21)の「推し、燃ゆ」が選ばれました。

宇佐見さんは、神奈川県在住の大学2年生で、高校生の頃から小説の執筆を始め、大学では国文学を専攻しています。

おととし、母と娘の愛憎を描いた小説「かか」で文藝賞を受賞して、大学1年で作家デビューし、翌年、この作品で三島由紀夫賞を史上最年少で受賞して話題となりました。

芥川賞は今回、デビュー作に続く2作目で初めて候補となり、受賞を決めました。
受賞作の「推し、燃ゆ」は、学校にも家庭にもなじめずに生きづらさを抱えながら、「推し」と呼んでいる男性アイドルを応援することを心の支えにしている女子高校生が主人公の物語です。

「推し」が、ファンを殴ったという炎上事件をきっかけに心の均衡が次第に崩れ、「推し」を失う痛みに直面して、もがき続けるさまを繊細な心理描写でつづっています。

宇佐美さん「ひたすら目指すものを書くのが 賞への恩返しに」

宇佐見さんは、記者会見で「まだ胸がいっぱいで、頭が追いついていない感じ。とてもうれしいです」と受賞が決まった喜びを語りました。

21歳での受賞については「すごい早さで信じられない気持ちだが、まだ自分の中では至らないと強く思うところがある。賞はありがたいと受け止めつつ、それに振り回されずに、ただひたすら自分の目指すものを書いていくのが、賞に対する恩返しになるのではないかと思う」と語りました。

また、自身の作品については「感想をSNSなどで見るが、やっぱり声が届いたんだなということをすごく強く感じることがあり『うれしい』ということばでしか言い表せないのが苦しいぐらいうれしい」と語りました。

そして今後について「本作では主人公が『推す』という行為を背骨と表現しているが、私にとっては小説が背骨であり、これがあるからやっていけるんだという感覚が前からあった。これからも変わらず全力で書いていきたい」と抱負を述べました。

直木賞 西條奈加さん「心淋し川」

一方、直木賞には西條奈加さん(56)の「心淋し川」が選ばれました。

西條さんは北海道池田町出身で、専門学校を卒業したあと企業に勤め、平成17年に「金春屋ゴメス」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビューしました。

時代小説を中心に多くの作品を発表し、直木賞は今回、初めての候補での受賞となりました。
受賞作の「心淋し川」は、今の東京・千駄木周辺にあたる江戸の片隅で、どこか心にわだかまりを抱えながら暮らす人たちを主人公にした6つの短編からなる連作の時代小説です。

登場人物が貧しい日々の生活の中で感じる喜びや悲しみ、そして人との出会いを通して前向きに生きていこうとする姿などが、趣のある静かな文章で描かれています。

西條さん「うれしいし光栄だが 戸惑いや不安が大きい」

西條さんは、記者会見で「直木賞は、当たったらいいなという夢のある感じが宝くじに似た、それくらい私にとって遠いものでした。うれしいし光栄ですが、それよりも戸惑いや不安のほうが大きいです」と今の心境について語りました。

選考会で高い評価を受け「欠点がないことが欠点」という意見も出たことについて「小説はとがっていたほうがいいと思うので、長所でもあり短所でもある。欠点がないというのは非常に納得がいきます」と述べたうえで「フィクションや滑稽な作品も書くのですが、もがきながら生きている人を書いた、今回の少しシリアスで地味な作品が評価されたことは、驚きもありますがうれしいです」と話しました。

また、今後については「毎作何らかの形で違った一面が見せられるよう挑戦ができたらいいなと思っています」と抱負を述べました。

そして、新型コロナウイルスの影響が続く現状を踏まえて「大変な状況になって、読者の存在をより身近に意識して書くようになり、作品は読者に読んでもらって初めて完成するものだという意識が強くなりました。読者の皆様にお礼を言いたいです」と感謝のことばを述べ、会見を締めくくりました。

芥川賞選評 島田雅彦さん「鮮やかで吟味されたことば」

芥川賞の選考過程について、選考委員の1人、島田雅彦さんは「約半数がZoomで参加するという異例の選考だったが、議論自体に支障はなく、それぞれの思うところを論じあった白熱の議論の結果だ。2回目の投票で歴然とした差が付き、宇佐見さんがダントツだった」と説明しました。

宇佐見さんの作品については「ヒロインの知識を描く際のことばが非常に鮮やかで、一見思いつきで刹那的に見えるが、かなり吟味された中で繰り出されている。意識の発生の現場報告というか、無意識から発語したときに生まれる独特のぞわぞわした感じが巧みに捉えられている」と評価しました。

また、21歳という若さでの受賞については「非常に文学的偏差値が高いというのはポジティブな意味とネガティブな意味があるが、そういう若い才能を後押ししようという雰囲気が支配的だった。何年かにいっぺん、大きなジェネレーションの交代があると、文学の世界の新陳代謝が行われていることになる」と説明していました。

直木賞選評 北方謙三さん「完成度が非常に高い」

直木賞の選考過程について、選考委員の1人の北方謙三さんは「最初の投票で残った4つの作品について詳しく議論され、決選投票の結果、西條さんの作品が圧倒的な票を集めた」と説明しました。

そのうえで西條さんの作品について「マイナス評価はあまりなく、非常に手慣れていて、欠点がないことが欠点という意見もあったくらいだ。長屋を舞台に一つの世界を作り上げており、短編連作として完成度が非常に高く、時代考証もしっかりしていてエンターテインメント性のある時代小説のおもしろい書き手だと思った」と評価しました。

また、芸能活動のかたわら作品を発表し、今回初めてノミネートされた加藤シゲアキさんの『オルタネート』について「個人的に推した作品で、青春小説としてよく書けており、物語に破綻がどこにもない。一方で冷たさを感じるという意見もあり、もう一作待ってみようという結論となった。非常に惜しかった」と説明していました。