バイデン新政権の顔ぶれ 政策や課題は

アメリカの第46代大統領に就任する民主党のジョー・バイデン氏。新型コロナウイルスの感染拡大やアメリカ社会の分断など多くの難しい問題に直面するなか、どのような将来像を示すのかに大きな関心が集まっています。

バイデン新政権の顔ぶれ、政策や課題をまとめました。

多様性を重視した顔ぶれ

※1月20日時点で承認手続き中の人事もあります。
バイデン氏は新政権の閣僚人事について「アメリカ社会を反映したものにする」と強調し、その顔ぶれは多様性を重視したものとなっています。

女性として初めて副大統領にハリス氏や、財務長官にイエレン氏を起用するなど、24の閣僚レベルのポストのうち、半分にあたる12のポストで女性を起用しています。

選挙情報サイト「ファイブ・サーティー・エイト」によりますと、12人全員が議会で承認された場合、閣僚レベルのポストに女性が就いた数としては、クリントン政権とオバマ政権時代の8人を超えて、歴代の政権で最も多くなるということです。

またバイデン氏は国防長官に黒人として初めてオースティン氏を、アメリカ先住民で初めての閣僚として内務長官にハーランド氏を指名しています。

さらに、同性愛者を公表している初めての閣僚として運輸長官にブティジェッジ氏を指名していて、バイデン氏は歴代で最も多様性に富んだ政権だと強調しています。

また、バイデン氏はワシントンでの政治経験も重視しています。

国務長官にはブリンケン元国務副長官、国家情報長官にはヘインズ元CIA副長官、さらに農務長官にはオバマ政権で同じポストを務めたビルサック氏を指名しています。

ホワイトハウスの高官人事でも大統領補佐官にサリバン元副大統領補佐官、気候変動の問題を担当する新設の大統領特使にケリー元国務長官を起用しています。

トランプ大統領が既成政治の打破を掲げ、政権発足時に外交経験が全くなかったティラーソン氏を国務長官に、大手金融機関、ゴールドマン・サックス出身のムニューシン氏を財務長官に指名するなど、政治経験のない人物を積極的に登用したのとは対照的です。

一方で、新政権の閣僚や高官の多くがオバマ政権時代の要職経験者であることや、バイデン氏自身も副大統領を務めていたことから独自色に欠けるとして「オバマ政権の3期目」だとやゆする声もあります。

バイデン新政権の政策や課題

【外交・安全保障】
バイデン氏は外交・安全保障政策ではトランプ大統領のアメリカ第一主義の姿勢から国際協調や同盟関係を重視する方針への転換を掲げ、国際社会で再び主導的な役割を果たすとしています。

▼気候変動
バイデン氏は気候変動を安全保障上の脅威とみなし、その対応を新政権の優先課題に位置づけていて、トランプ政権下で離脱した地球温暖化の国際的な枠組み「パリ協定」に復帰し、取り組みを強化する方針です。

▼中国
影響力の拡大をはかる中国への対応も最重要課題に掲げ、香港やウイグルなどをめぐる人権問題に厳しく対応し、海洋やサイバー、宇宙など軍事、安全保障の分野では日本をはじめ同盟国や友好国との連携を強化する姿勢を示しています。

一方、気候変動など地球規模の課題では中国との協力を模索する考えも示唆しています。

新政権で外交・安全保障を担う高官にはオバマ政権下で要職についていた専門家が多く、中国との関係を重視したオバマ政権との違いを打ち出していくのか、また中国に対抗しながら協力を引き出すことができるのかが、バイデン政権の対中国政策の大きな焦点となります。

▼イラン
対イラン政策ではトランプ政権下で一方的に離脱した核合意に復帰する考えを示しています。

バイデン氏は合意を離脱し制裁を強化したトランプ政権の対応はイランを核・ミサイル開発への道へと逆戻りさせ事態の悪化を招いたと批判しています。

ただバイデン氏は復帰の条件にイランによる合意の順守を挙げているのに対し、イランは今月、合意に反して濃縮度20%のウランの製造を始めたと表明していて、アメリカの復帰は容易ではないという見方も出ています。

▼北朝鮮
対北朝鮮政策ではバイデン氏はトランプ大統領の米朝首脳会談を通じたトップ外交を厳しく批判し、この間に北朝鮮がアメリカに届くICBM=大陸間弾道ミサイルの能力を高めたと指摘しています。

バイデン氏はキム総書記を「悪党」と呼び、新政権ではみずからが直接、交渉することはせずに国務省やホワイトハウスの安全保障チームのもとで北朝鮮の非核化に向けた取り組みを再構築する方針とみられます。

新政権の国務長官に指名されたブリンケン氏は北朝鮮を非核化交渉のテーブルにつかせるため日本など同盟国との連携を強化するとともに、北朝鮮の後ろ盾となっている中国に制裁の確実な実施を強く求めていく考えを示していて、どのように交渉にのぞむかが焦点となります。
【経済・貿易】
バイデン氏がまず、直面する難題が、新型コロナウイルスで傷ついたアメリカ経済の回復です。

去年、夏ごろの経済活動の再開に伴って雇用環境は徐々に回復していましたが、冬を迎えて新型コロナウイルスの感染が再拡大したことにより、先月の雇用統計は農業分野以外の就業者が8か月ぶりに減少に転じました。

失業者はいまも1000万人を超え、とりわけ、サービス産業で働いてきた若者や女性、それに黒人やヒスパニックの人たちは厳しい環境に置かれています。

一方で株価は史上最高値の水準まで上昇し、実体経済とのかい離や、格差拡大への懸念が指摘されています。

バイデン氏はこうした事態に対処するとして、先に発表した200兆円規模の追加の経済対策案を就任後すぐに実現したい考えです。

バイデン新政権は、感染防止策を徹底しながら、国民生活も改善させていくという難しいテーマに取り組むことになります。

▼環境政策
バイデン氏が厳しい雇用状況を改善させるための柱に掲げているのが、気候変動対策の推進です。

任期の4年間で電気自動車や再生可能エネルギーの普及に向けた施策に2兆ドル、日本円で200兆円規模の巨額の投資を行い、新たな雇用を創出するとしています。

ただ、急進的な政策に対しては、石油や天然ガス、それに、自動車産業からは警戒する声も上がっていて、国民の理解を得ながら政策を実行していけるかが課題になります。

▼貿易政策
貿易政策についてバイデン氏は、中国を念頭に日本やヨーロッパ諸国といった民主主義国家で連携していくことや、雇用の保護につながる施策を重視していく方針を示しています。

アメリカ第一主義を掲げた前のトランプ政権下では、雇用創出のために国内製品を優遇するとして、鉄鋼製品をはじめ、海外からの輸入品に高い関税を上乗せしたほか、製造業の空洞化につながったとして、NAFTA=北米自由貿易協定を見直しました。

また、EU=ヨーロッパ連合には、産業補助金をめぐる問題で、特産のワインやチーズの関税を引き上げ、日本との間でも、牛肉などの市場開放を求める日米貿易協定を結びました。

とりわけ、中国には、最大25%の関税上乗せを繰り返し発動し、貿易戦争と言われるまでに対立がエスカレートしたうえ、ファーウェイをはじめとした通信や半導体に関わる中国企業への締めつけも強化するなど強硬姿勢を鮮明にしました。

こうした強硬な関税の引き上げに対し、バイデン氏は「懲罰的な手法はとらない」と言及しています。

ただ、民主党は伝統的には共和党よりも保護主義的な傾向があり、バイデン氏も中国に対して発動している最大25%の制裁関税は「すぐに動かすつもりはない」とも述べています。

また、バイデン氏は雇用を軽視したと批判されたオバマ政権時代の反省を踏まえ、海外で生産された製品に追加の税を課すなどとした「メード・イン・アメリカ税制」の導入も公約に掲げています。

このため、トランプ政権が導入した輸入品に対する関税の大幅な引き上げや、自国優先の貿易協定などの保護主義的な政策をどこまで見直すのか注目されます。
【内政】
バイデン氏は、新型コロナウイルス対策や感染拡大で悪化した経済の立て直し、それに人種問題の解消など、内政面でさまざまな課題に直面することになります。

バイデン氏はとりわけ新型コロナウイルス対策を最優先課題と位置づけて集中的に取り組む方針で、
▼政権発足初日には政府が管理する施設などでのマスクの着用の義務化を大統領の権限で実行に移すための文書に署名するとしているほか、
▼民間企業に協力を求める「国防生産法」を活用してワクチンの製造を加速させ、就任後100日間で1億回分を接種できるようにする方針です。

また、大きな課題となっているのがアメリカ社会の分断です。

バイデン氏は、選挙後の勝利宣言で「分断ではなく、結束を目指す大統領になる」と述べるなど、国民に融和を呼びかけるとともにアメリカ社会の分断を解消すると繰り返し強調しています。

しかし、連邦議会への乱入事件を受けて行われた世論調査でも共和党の支持者でバイデン氏を「選挙の正当な勝者」と考える人が19%にとどまるなど、社会の分断は深刻化しています。

さらに連邦議会でも民主党と共和党との隔たりは大きく、上下両院のいずれも民主党が主導権を握ることになったとはいえ、バイデン氏が公約に掲げる気候変動対策や医療保険制度改革などについて議会で協力を得るのは、容易ではありません。

さらに、身内である民主党内での結束も課題です。

若者を中心に影響力を持つ「プログレッシブ」と呼ばれる党内の左派は、大統領選挙でバイデン氏の勝利に大きく貢献したことから党内での発言力を増していますが、社会保障費の増額や、軍事費の抑制を訴えるなど、中道派の議員との立場の違いも指摘されています。

民主党内での路線対立は、今後、環境政策や通商政策などでも表面化する可能性があります。

バイデン氏が目指す「融和」に向けて課題は多く、バイデン氏は政権発足直後から難しいかじ取りを迫られそうです。