河井案里議員に21日判決 公選法違反事件裁判 東京地裁

河井案里参議院議員がおととしの参議院選挙をめぐって公職選挙法違反の買収の罪に問われた裁判で、21日、判決が言い渡されます。案里議員は無罪を主張し、裁判所の判断が注目されます。

参議院議員の河井案里被告(47)は、夫で元法務大臣の克行被告(57)とともに、おととしの参議院選挙で広島の地元議員5人に合わせて170万円を渡したとして、公職選挙法違反の買収の罪に問われ、無罪を主張しています。

裁判は東京地方裁判所で去年8月から29回にわたって開かれ、票の取りまとめを依頼する目的だったかどうかが大きな争点となりました。

案里議員が「当選を目的として現金を渡したことはない」などとして無罪を主張した一方、検察は「案里議員の弁解は不自然・不合理な点が多く、明らかにうそだ」として、懲役1年6か月を求刑していました。

公職選挙法の規定では、選挙の候補者だった案里議員がこの裁判で有罪とされ、判決が確定した場合は、当選が無効となるため、裁判所の判断が注目されます。

起訴内容

河井案里議員が起訴された内容です。

おととしの参議院選挙で、夫の克行元大臣と共謀し、おととし3月から6月までの間に、広島県議会議員など5人に票の取りまとめを依頼し、合わせて170万円を配ったとして、公職選挙法違反の買収の罪に問われています。

現金を渡した相手や時期、金額は次のとおりです。

▽広島県議会 岡崎哲夫議員には、おととし3月30日に30万円。

▽広島県議会 平本徹議員には、おととし4月5日に平本議員の妻を通じて30万円。

▽広島県議会 下原康充議員には、おととし4月7日に50万円。

▽広島県議会 奥原信也議員には、おととし5月25日に50万円。

▽江田島市議会 胡子雅信議員には、おととし6月16日に案里議員の元公設第1秘書を通じて10万円。

以上を渡したとされました。

争点と双方の主張

〈争点1 現金提供は買収目的か>
裁判の最大の争点は、現金を配ったのが票の取りまとめを依頼する買収の目的があったかどうかです。

公職選挙法では、候補者を当選させる目的で票の取りまとめなどを依頼し、現金を渡すことは禁じられていますが、党勢拡大などを目的に政治家の政治団体などに寄付することは認められています。

案里議員の弁護側は「県議会議員4人については県議会議員選挙の陣中見舞いか当選祝いで、買収の意図はなく、残る1人の市議会議員については全く関与していない」と主張しました。

一方、検察は「受け取った議員らは買収目的があったと理解していて、票の取りまとめに対する報酬の趣旨があったことは明らかだ」と主張しました。

<争点2 選挙情勢の認識>
買収目的があったかを判断する重要なポイントの1つが、保守分裂の激しい選挙戦で案里議員が苦境に立たされ、買収が必要な状況に追い込まれていたかどうかです。

検察は「選挙スタッフらがいずれも県連の支援を得られないことから厳しい情勢だったと証言しているほか、実際には元大臣の指示で企業や団体に支援を依頼している」として、買収の背景に厳しい選挙情勢があったと主張しました。

一方、案里議員は「自民党広島県連から仮に応援していただいても、集会での動員など選挙の見栄えをよくしてくれるが、得票にはつながらないと感じていた。戦いやすい選挙だと思っていた」として、選挙情勢が厳しいという認識はなかったと主張しました。

<争点3 克行元大臣との共謀>
また、夫の克行元大臣と共謀していたかも、事件の全体像に関わる重要な争点です。

検察は、克行元大臣のパソコンから見つかった現金の提供先のリストには、案里議員が渡した相手や金額も記載されているとし、共謀していたことは明らかだと主張しました。

弁護側は「元大臣が案里議員にあとで聞き取ってリストに入力しただけで、共謀の裏付けにはならない。案里議員は現金を渡すことについて、元大臣とは相談せず、自分の判断で行った」として、共謀関係にはあたらないと主張しました。

裁判の経緯と案里議員の発言

裁判は去年8月から始まり、審理を迅速に進める「百日裁判」で行われていましたが、克行元大臣が弁護団を解任し、審理が中断したことを受けて、裁判が2つに分離されました。

案里議員は、地元議員5人に合わせて170万円の現金を渡したとして買収の罪に問われ、裁判では、地元議員や陣営スタッフなど20人の証人尋問が行われました。

証人尋問では、地元議員5人のうち4人が票の取りまとめを依頼する趣旨だと思ったと明確に証言しました。

案里議員は初公判と被告人質問の3回、それに最終弁論などで、検察の主張に対して真っ向から反論。

議員バッジを付け、喜怒哀楽、さまざまな表情を見せました。

11月13日に行われた被告人質問の1日目、最大の争点となっている買収目的があったかについて「経験上『票の取りまとめ』は世の中に存在しない。私自身は票をお金で買うという発想自体がない」などと述べ、強く否定しました。

また、自民党広島県連からの支援が受けられなかったことについて「集会での動員など選挙の見栄えをよくしてくれるが、得票にはつながらない。県連の支援がないほうが、私の戦略上、有利に働いた」などと述べ、厳しい選挙戦で買収に及んだとする検察の事件の構図自体を否定しました。

11月17日の被告人質問2日目では、夫の克行元大臣が現金を渡していたと報じられた際のことについて「主人は『あんたは知らないほうがいい』と言い、その口ぶりから、間違ったお金ではないかと思った」と涙を流して答えるなど、夫との共謀も否定しました。

11月20日の被告人質問3日目には、みずからに不利となる証言を続けた元公設第1秘書について「取り調べが長いことを心配すると、秘書は『大丈夫。それより、私の担当検事がイケメンなの』と言ってきた」と明かし、秘書と検察官の関係は不適切で、証言は信用できないと主張しました。

また、検察官から公示前のあいさつ回りは実質的に選挙運動ではないかと尋ねられた際には「事前運動では罪に問われていない。もし検察官がそうお考えなら、また改めて私を逮捕・起訴し、調べていただければ」と怒りをあらわにする場面もありました。

そして先月23日の最終陳述では「どうか皆様には私を信じていただきたい」と潔白を訴えました。

当選無効の条件

<1 案里議員の有罪が確定した場合>
河井案里議員は、裁判で無罪を主張し、議員を辞職していませんが、公職選挙法の規定では、有罪を言い渡され、判決が確定した場合は、おととしの参議院選挙での当選が無効になります。

1審で有罪を言い渡されても案里議員側が控訴すれば判決は確定せず、ただちに案里議員の当選が無効になるわけではありません。
控訴せずに有罪判決が確定した場合は当選が無効になります。

<2 克行元大臣の有罪が確定した場合>
案里議員は無罪を言い渡されても、当選が無効になる可能性が残ります。そのひとつが夫の克行元大臣が有罪となった場合です。

公職選挙法では候補者本人が選挙違反をしていなくても、家族や陣営の関係者が選挙違反の罪で有罪となった場合に、候補者本人にも責任を取らせるため、当選を無効にする「連座制」と呼ばれる制度が設けられています。

克行元大臣の裁判で、元大臣が選挙運動の全体を指揮する「総括主宰者」として罰金刑以上の刑が確定した場合、案里議員は不服を申し立てることができますがこれが退けられれば案里議員の当選が無効になります。

<3 公設秘書の有罪で連座制適用の場合>
また、案里議員の公設第2秘書もいわゆるウグイス嬢に法律の規定を超える報酬を支払ったとして、運動員買収の罪で有罪判決がすでに確定しています。
検察は、公設秘書が「組織的選挙運動管理者」に当たり、連座制が適用されるとして、先月、連座制の適用を求める行政訴訟を広島高等裁判所に起こしました。
検察の訴えが認められれば、案里議員の当選は無効になります。

元裁判官「切迫度が焦点」

判決の見通しについて、元刑事裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授は「自民党広島県連の支援が得られない中、案里議員が現金を配ってまで票を獲得しなければならないという状況にどれだけ追い込まれていたかについて、裁判官がどう判断するかが重要になる」と指摘しています。

最大の争点となっている買収目的があったかどうかについて、水野教授は「現金を受け取った議員の認識はそれほど重要ではなく、現金を受け取った状況からみて『買収』か『当選祝い』のどちらが自然なのかを見ていく必要があり、やはり選挙の切迫度が判断を大きく左右する。切迫度がそれほどでもないと判断されれば、無罪と判断される可能性もある」と指摘します。

また、「並行して進められている夫の克行元大臣の裁判は必ずしも同じ証拠ではなく、同じ結論になるわけではないが、選挙の切迫度の点では共通する部分がある。案里議員の判決が事実上、克行元大臣の裁判にも影響することはありえる」と話しています。