厳戒態勢の中 船出迎えるバイデン新政権 日本経済への影響は

日本時間の21日、アメリカの政権が交代し、民主党のジョー・バイデン氏が第46代大統領に就任します。首都ワシントンで行われる就任式は通常、祝賀ムードに包まれますが、今回は大統領選挙をめぐる混乱や議会への乱入事件で厳戒態勢が敷かれる異様な雰囲気の中で、新政権は船出を迎えます。

アメリカのバイデン次期大統領は20日昼前、日本時間の21日午前2時前から首都ワシントンで行われる就任式に臨み、宣誓を行って第46代大統領に就任します。

就任式のテーマは「アメリカの結束」で、就任演説でバイデン氏は、選挙戦を通じて訴えてきた、分断された社会の融和を訴える見通しです。

ただ、ワシントンには祝賀ムードは広がっておらず、選挙結果に反発して暴徒化したトランプ大統領の支持者らが連邦議会に乱入して死傷者が出た事件を受けて、武装した州兵らが警戒にあたる異様な雰囲気に包まれています。

式典にはオバマ前大統領やブッシュ元大統領など歴代大統領に加えてペンス副大統領が出席する予定ですが、選挙結果に不満を持つトランプ大統領はこれまでの慣例を破る形で出席しない考えを明らかにしています。

前任の大統領が新大統領の就任式に出席しないのは、およそ150年ぶりです。

今回は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、恒例のパレードが中止され、通常は市民で埋め尽くされる連邦議会議事堂前の広場も閉鎖されています。

78歳とアメリカ史上最高齢の大統領となるバイデン氏は、異例づくしの状況の中、新政権をスタートさせることになります。

バイデン次期大統領 涙ぬぐい就任式へ出発

バイデン次期大統領は19日、就任式が行われる首都ワシントンに出発するのに先立って地元デラウェア州にある、亡くなった長男のボー・バイデン氏の名前を冠した州兵の施設であいさつしました。

バイデン氏は「少し感傷的にならざるをえません。ここからワシントンに向かうのは私にとってとても重いことです」と涙をぬぐいながら話しました。

そして、「いまは暗いときですが、常に光はあります。それが私がデラウェアから学んだことです。皆さんの次の大統領になれることをとても名誉に思い、デラウェアの息子であることを誇りに思います」と述べ、地元の人たちに感謝の気持ちを表しました。

さらにバイデン次期大統領は「心残りなのは、ボーがここにいないことです。デラウェアはわれわれが何でもできると教えてくれました。この国には可能性があります」と強調しました。

バイデン氏はワシントンに着いたあと、日本時間の20日午前、新型コロナウイルスで亡くなった人たちを追悼する行事に参加して、演説する予定です。

共和党上院トップ 議会乱入事件でトランプ大統領を批判

共和党の上院トップ、マコネル院内総務は19日、暴徒化したトランプ大統領の支持者らが連邦議会に乱入して死傷者が出た事件について「暴徒たちはうそを聞かされ続けてきた。彼らはトランプ大統領やほかの権力者たちにそそのかされたのだ」と述べ、トランプ大統領の言動が引き起こしたという認識を示しました。

議会上院では今後、トランプ大統領の弾劾裁判が行われる見通しですが、有罪とするためには民主党だけでなく、一部の共和党議員の賛成が必要で、共和党上院のトップが大統領を明確に批判したことが弾劾裁判の行方にどのように影響するのか注目されています。

大規模な景気刺激策 日本経済にプラスもコロナに左右か

バイデン次期大統領の就任によって、日本経済にはどのような影響が考えられるでしょうか。

専門家の間では大規模な景気刺激策がとられるため、日本からの輸出が増えて日本経済にプラスに働くものの、中長期的には新型コロナウイルスの感染状況に左右されるという見方が多くなっています。

バイデン次期大統領は企業や富裕層に対する増税の必要性を訴える一方、大規模な財政出動を掲げています。

感染の拡大が続いていることから、まずは財政出動による景気刺激策を優先するとみられていて、今月14日には、総額1兆9000億ドル、日本円で200兆円規模の追加の経済対策案を発表しました。

記者会見でバイデン次期大統領は「財政赤字を辞さない効果的な財政出動が、かつてなく緊急に求められている。こうした投資は、長期的には経済の悪化を防ぎ、得られる利益はコストをはるかに上回ることになる」と述べています。現地メディアは「成立すれば、アメリカ史上最大規模の経済対策だ」と伝えていて、個人消費を中心にアメリカ経済を下支えする効果が期待されています。

ただ、中長期的にみてアメリカ経済が回復に向かうかどうかは不透明です。

アメリカでは新型コロナウイルスに対応する経済対策としてすでに400兆円近くが投入され、財政状況は急速に悪化しているうえ、金融政策もゼロ金利政策にまで踏み込んでいます。

今後、経済を本格的な回復基調にのせるには、こうした財政や金融の政策だけでなく、感染の拡大をいち早く収束させることが欠かせませんが、開発されたワクチンがどの程度のスピードで普及するかは見通せません。

また、トランプ政権のもとで対立が激化してきた中国との関係の行方も未知数です。

バイデン次期大統領は、中国に対し厳しい姿勢で臨むとみられていて、関係が改善に向かわなければ世界経済にとってのリスクが残ることになります。

日本経済は緊急事態宣言によって内需の下振れが避けられず、当面は輸出頼みの構図になるとみられています。

このため、日本経済の先行きは、第2位の貿易相手国であるアメリカの経済が回復に向かうかどうかに大きく左右されることになりそうです。

日本の金融市場 受け止めは

アメリカの新大統領にバイデン氏が就任することについて、日本の金融市場の受け止めです。

まず、株式市場は、アメリカ経済が新型コロナウイルスの感染拡大による影響を受ける中、積極的な財政出動と大規模な金融緩和が継続されるとして、株価は当面、堅調に推移するという見方が大勢となっています。

ただ、実体経済とのかい離がさらに進んでいると警戒する市場関係者もいて、今後も国内外の感染状況や世界経済の動向をにらみながらの取り引きが続きそうです。

円相場についてはやや見方が分かれています。

アメリカのFRB=連邦準備制度理事会が市場に大量の資金を供給する量的緩和策を長期にわたって続ける方針を明確にしていることで、円などの主要な通貨に対してドル安になりやすい環境が継続するとみる市場関係者も少なくありません。

その一方で、日本円にして200兆円規模の経済対策案など、財政赤字も辞さないバイデン氏のもとで国債が増発され、アメリカの長期金利がさらに上昇するという見方もあります。

一般的に長期金利が上昇すればその国の通貨は高くなる傾向にあるとされ、市場関係者は、「アメリカの長期金利の動向がカギになりそうだ」と話しています。

どう変わる 米の通商・環境政策

バイデン次期大統領が就任すると、アメリカの通商や環境政策はどう変わり、日本には、どのような影響があるのでしょうか。

まず、「通商」分野です。バイデン次期大統領はトランプ政権が行ってきた制裁的な関税の引き上げやWTO=世界貿易機関を軽視する姿勢に否定的です。

ただ、国内の雇用を重視するため、海外で生産された製品に対する追加の税を導入する方針を打ち出しているほか、TPP=環太平洋パートナーシップ協定など自由貿易協定への参加には慎重な姿勢とされています。

保護主義的な政策は変わらないという見方もあり、日本政府としては自由貿易の推進に向けて協力を呼びかけていく方針です。

トランプ政権では、中国の通信機器大手、ファーウェイへの半導体の供給を止めるための規制の影響が日本の企業にもおよびました。

バイデン次期大統領も、中国に対しては不公正な貿易などに対し強硬な姿勢を示しています。

米中の2大経済大国の対立は今後も続くとみられ、日本政府や企業は引き続き難しい対応を迫られることになりそうです。

一方、「環境」の分野では、アメリカの姿勢が大きく変化するとみられています。

バイデン次期大統領は、トランプ大統領が離脱した地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に復帰する方針を示しています。

自動車産業では、充電スタンドを50万か所に設置し、電気自動車の生産や購入を後押しする政策を打ち出すなどグリーン分野への投資を重視する方針で、世界的な「脱炭素」への流れも加速するとみられます。

自動車メーカーをはじめ、日本企業は、技術開発の加速などを迫られることが予想される一方、新たなビジネスチャンスを獲得できる可能性も出てきます。

2050年までに脱炭素社会の実現を掲げる日本政府も、戦略的な連携を目指す方針です。

このほか、バイデン次期大統領は、児童労働や強制労働など人権問題に対し、厳しい姿勢で臨むだろうと指摘されています。

中国が念頭にあるとみられていますが、日本の企業も取り引きの過程で人権上の問題が生じていないか、実態を把握して迅速に対応することがこれまで以上に求められそうです。