変異ウイルス 静岡「緊急警報」 国内・国外の感染は? 対策は?

イギリスで感染が広がる変異した新型コロナウイルスをめぐり、静岡県で海外の渡航歴がなく感染者との接触も確認されていない男女3人の感染が確認されたことを受けて、静岡県の川勝知事は臨時の会見を行って県独自の「感染拡大緊急警報」を発令し、対策の徹底を強く呼びかけました。
変異したウイルスの国内・国外での感染の広がりや、対策の現状などをまとめました。

静岡県では18日、20代の女性とその濃厚接触者の40代の女性、それに60代の男性の3人が変異ウイルスに感染したことが確認されました。

変異したウイルスをめぐり、海外の渡航歴がなく感染経路が分からないケースは国内で初めてです。

川勝知事は19日午後、臨時の会見を行い、県民にさらなる感染防止対策を求める県独自の「感染拡大緊急警報」を発令しました。

そして「英国の事例では感染力が高いと報告され、日本でも感染が爆発的に増加すると医療提供体制が崩壊し救える命が救えなくなる可能性がある」と強い危機感を示したうえで「これまで以上に県民一人一人に感染防止対策を徹底してもらい、医療提供体制をさらに強化する必要がある」と述べました。

そのうえで具体的な対策として
▽3密を避けるなど基本的な感染防止対策の徹底や、
▽県境を越えた移動を自粛し県内でも不要不急の外出を控えること、
そして、
▽必ずマスクを着用し、家族以外との会食は行わないよう呼びかけました。

一方、変異ウイルスであっても基本的な対策は変わらないとして、飲食店などへの時短要請や特別な行動制限を行う必要はないと説明しました。

さらに1人 変異ウイルス感染か

また、静岡県によりますと変異した新型コロナウイルスへの感染が確認された60代の男性の濃厚接触者について、国立感染症研究所が変異ウイルスに感染しているかどうかPCR検査を行ったところ19日に陽性と判定されたということです。

この濃厚接触者の検体は今後、結果を確定するために遺伝子を解析する検査が行われますが、県はPCR検査の精度は高く変異ウイルスへの感染が確定する可能性が高いとしています。

この濃厚接触者は、すでに感染が確認されている男性以外とは濃厚接触をしていないということです。

また、県は国立感染症研究所に3人の感染が確認された地域から32の検体を提供しPCR検査が行われていますが、この濃厚接触者を除く31の検体の変異ウイルスへの感染はありませんでした。

国内で感染確認は47人

イギリスなどで広がっている変異ウイルスは、表面にある「スパイク」と呼ばれる突起の部分が感染しやすい形に変わっていて感染力が高いとされます。

こうした変異ウイルスへの感染が国内で確認されたのは19日までで47人となっています。
ウイルスのタイプ別に見ると、
▽イギリスで最初に報告されたタイプの変異ウイルスに感染していたのは38人、
▽南アフリカで報告されたタイプの変異ウイルスに感染していたのは5人、
▽そして、これらのものとは異なる変異ウイルスへの感染がブラジルに滞在歴のある4人で確認されています。

また、47人のうち、
▽およそ4分の3にあたる36人は、イギリスや南アフリカ、そしてブラジルなど海外から日本に到着した際に空港検疫で感染が確認されています。

▽8人は、海外に滞在歴がある人やその濃厚接触者です。

▽海外に滞在歴がなく感染者との接触も確認されていない人で変異ウイルスへの感染が確認されたのは、18日に発表された静岡県の男女3人が初めてです。

これについて国立感染症研究所の脇田隆字所長は18日の会見で、変異ウイルスが発見された地域で陽性者の検体の調査を行っているとしたうえで「この地域で流行の主流になっているウイルスが、変異したウイルスに置き換わっている状況ではないと思う」と説明しています。

58の国と地域で確認

新型コロナウイルスは2週間に1度ほどの頻度で変異を繰り返していて、通常は遺伝子の一部が変異してもウイルスの特徴や性質に大きな変化が起きることはありませんが、感染力に関わる部分に変異が起きているため、監視が強められている変異ウイルスは主に3種類あります。

いずれも「N501Y」と呼ばれる変異があり、このうちの1つが今回、静岡県で確認されたのと同じタイプのウイルスです。

このウイルスはイギリスで去年9月に出現し感染力が高いとされていて、WHO=世界保健機関によりますと17日の時点で58の国と地域で確認されているということです。

また、同じ箇所が変異している別のタイプのウイルスが南アフリカで確認されたほか、日本の空港検疫でブラジルから到着した人からも同様のウイルスが確認されています。

データベースに登録増える

世界各地の研究機関で解析したウイルスを登録するデータベース「Nextstrain」には、おととし12月から今月までに登録されたウイルスのうち、およそ3900の遺伝子の情報がまとめて公開されています。

この中では3種類の変異ウイルスの登録は去年秋ごろから増え始め、今月15日の時点では表にまとめられたうちの33%に上っています。

この割合は市中での感染状況を示すものではありませんが、世界中で監視体制が強められる中で変異ウイルスの登録が増えてきています。

WHOはウイルスを解析できる能力を拡大し、情報を国際的に公開することが重要だとしていて、今回見つかっている変異によって感染力や重症度にどういった変化が出るかやワクチンや治療などに与える影響について世界各国で研究が進められています。

感染力や重症化は?【1. 英のタイプ】

イギリスで広がっている変異した新型コロナウイルスについては、これまでの研究で感染しやすくなっている可能性があることが分かっています。

国立感染症研究所によりますと、ECDC=ヨーロッパ疾病予防管理センターなどの報告では、これまでのデータの分析からイギリスの変異ウイルスは1人が何人に感染させるかを示す「再生産数」と呼ばれる数値が0.4以上増加し、感染のしやすさが最大70%程度増加している可能性があるということです。

感染した際の症状の重さについてこれまでより重症化しやすいというデータはないということです。

ただ、イギリスで変異ウイルスに感染した人の多くが重症化のリスクが低い60歳未満だということで、評価には注意が必要だとしています。

感染力や重症化は?【2. 南アなどのタイプ】

南アフリカで確認されているウイルスやブラジルから日本に入国した人から見つかった変異ウイルスは、それぞれイギリスとは違うウイルスです。

ただ、いずれの変異ウイルスも、ウイルスが細胞に感染する際に働く「スパイクたんぱく質」というたんぱく質の遺伝子に「N501Y」と呼ばれる共通の変異が起こっています。

イギリスで見つかったウイルス以外は感染しやすくなっているかどうかなど、まだ分かっていません。

ワクチンの効果は

変異したウイルスに対してワクチンの効果があるかについても詳しいことは分かっていませんが、厚生労働省によりますと、ウイルスが多少変化してもワクチンの効果がなくなるわけではないとしています。

これについて、アメリカの製薬大手、ファイザーなどのグループが実験を行っています。

グループでは、イギリスや南アフリカで見つかった変異ウイルスと同じ変異を持つウイルスを人工的に作り出し、ファイザーのワクチンを接種した人の血液と反応するかを調べました。

その結果、血液の中の抗体が変異ウイルスを攻撃することが確認されたということです。

ファイザーでは、変異したウイルスに対するワクチンの有効性については、引き続き調べる必要があるとしています。

専門家「第3波 より長期化のおそれも」

海外の感染症に詳しい東京医科大学の濱田篤郎教授は「イギリスなどで広がる変異したウイルスは、感染力がこれまでのものより高いとされている。まだ情報が限られていて分かっていないことも多いが、仮に変異ウイルスが国内で広がってしまえば、現在の感染の第3波がより長期にわたってしまうおそれがある」と指摘しました。

そのうえで「水際での対策は、ウイルスの侵入を遅らせたり、入ってくる数を減らしたりする効果を目的にしたもので、ウイルスの流入を完全に防ぐことはできない。国や自治体は、市中で変異ウイルスに感染した人の感染源を詳しく調べるとともに、国内で変異ウイルスの感染がないか調べるモニター調査をより強化する必要がある。私たちが取るべき感染予防策はこれまでと同じだが、感染力の高さを考えればこれまで以上に対策を心がけることが必要で、特に緊急事態宣言の対象の地域では、不要不急の外出などは控えてもらいたい」と話しています。

迅速な検出手法 開発も

イギリスや南アフリカなどで確認されている変異した新型コロナウイルスの監視体制を強化するため、国立感染症研究所などでは従来のPCR検査を活用して変異ウイルスを迅速に検出する手法を開発しています。

変異したウイルスを見つけ出すには、これまで特殊な装置を使ってすべての遺伝情報を詳細に解析する必要がありますが、
▽ウイルスの量が少ないと調べることができないことや、
▽結果が出るまでに時間がかかることが課題となっていました。
国立感染症研究所が新たに開発した手法は、PCR検査の技術を使ってウイルスの遺伝子にいま問題となっている「N501Y」と呼ばれる変異が起こっているかどうかを直接、検出できるものです。

これまでは半日以上かかっていた検査が数時間でできるうえに、通常のPCR検査の機器を活用することができるということです。

この検査ではイギリスで確認された変異ウイルスか南アフリカで確認されたものかなどを詳細に区別することはできないということですが、国立感染症研究所では、大量のサンプルを迅速に調べることができるため実用化されれば監視体制の強化に役立つとしています。

田村厚労相 “専門組織立ち上げ流行防ぐ”

田村厚生労働大臣は専門の組織を立ち上げて健康観察や行動確認を強化し、国内での流行を防ぎたいという考えを強調しました。

政府の水際対策では、原則として外国人の入国を全面的に制限していますが、日本人の帰国者や在留資格のある外国人の再入国などは引き続き認められ、入国時に自宅や宿泊施設での14日間の待機を求めています。

こうした中、田村厚生労働大臣は東京都内で記者団に対し「変異ウイルスが流行している地域から入国する人に対しては、国が直営する『フォローアップセンター』を作り1日1回、無料通信アプリのLINEや電話などで健康確認をすることを考えている」と述べ、変異したウイルスが流行しているイギリスや南アフリカからの入国者について、専門の組織を立ち上げて健康観察や行動確認を強化する考えを示しました。

そのうえで「国内で感染が広がっていくことに対する国民の大変な心配があるので、変異ウイルスの感染流行が見られる場合は対象エリアも随時、広げていきたい」と述べ、変異したウイルスの国内での流行を防ぎたいという考えを強調しました。

加藤官房長官「他地域も監視体制を強化」

加藤官房長官は閣議のあとの記者会見で、変異した新型コロナウイルスの監視体制について「厚生労働省が国立感染症研究所や自治体と連携し、今回、変異株が報告された静岡県の直近の検体を提出するよう協力を要請し優先的に解析を行うなどの強化を図っている」と述べました。

そのうえで「他の地域についても、ゲノム解析能力のキャパシティー、静岡県の解析の結果を踏まえつつ監視体制を強化する方向で国立感染症研究所で検討している」と述べました。