“入院か自宅か調整つかず” 東京で13倍も療養先使用率は3割

東京都内では、新型コロナウイルスの急速な感染拡大に伴って、感染が確認されたあと医療機関に入院するかホテルや自宅で療養するか調整がついていない人も急増していて、この1か月半余りで13倍余りになっています。その一方で、首都圏では軽症者や無症状者が滞在する宿泊療養先の使用率が3割程度にとどまっていることが、各自治体への取材でわかりました。

1か月半余りで13.4倍と急速増加

東京都は感染が確認された患者の状況について「入院中」「宿泊療養」「自宅療養」「入院・療養等調整中」に分けて毎日、発表しています。

このうち、医療機関に入院するかホテルや自宅で療養するか調整がついていない人を示す「入院・療養等調整中」は、
▽先月1日は577人だったのに対し、
▽今月1日は2447人となり1か月で4.2倍に増加しました。

今月に入っても増加のペースは収まらず、
▽17日はこれまでで最も多い7727人となりました。

今月1日と比べて5280人増えて3.2倍となったほか、先月1日と比べると7150人増えて、この1か月半余りで13.4倍と急速に増加しています。

宿泊療養施設 使用率が3割にとどまっている

その一方で、首都圏では軽症者や無症状者が滞在する宿泊療養先の使用率が3割程度にとどまっていることが各自治体への取材でわかりました。

このうち、東京都では宿泊療養先として11施設、合わせて2630室を確保していますが17日の時点で実際に宿泊療養しているのは831人で、使用率は32%にとどまっています。

フロアの患者全員が退所するのを待って消毒と清掃

大きな要因となっているのが部屋の消毒・清掃で、患者が療養を終えた部屋ごとではなく、1つのフロアの患者全員が退所するのを待って消毒と清掃を行っているということです。

エレベーターや廊下など建物の共用部を療養している人たちが使っているため、リネンの交換を行う業者などから感染への不安の声があるということで、都は「安全面から運用の変更は難しく宿泊療養者をもっと受け入れるためには施設を増やしていくしかない」としています。

宿泊療養は
▽家族に感染させるリスクを減らせるほか、
▽常駐する医療スタッフが感染者の体調を把握できるため自宅療養よりも推奨されていますが、
東京都では自宅療養が9000人余りのほか、入院や療養先を調整中の人も7700人に上っています。

同様の課題は埼玉県や千葉県などでもあり、国際医療福祉大学の松本哲哉教授は「感染が確認された人どうしの入れ替えであれば簡単な清掃だけで問題ないはずだ。自宅で亡くなる人が出ないように限られた部屋を効率的に運用していく方法を考えなければならない」と話しています。

宿泊療養施設 使用率は30%程度

1都3県の17日時点の宿泊療養施設の使用率です。

▽東京都では宿泊療養先として合わせて2630部屋を確保していますが、実際に療養している人は831人と使用率は31.6%となっています。入院先や療養先を調整中の人は7727人にのぼります。

▽神奈川県では1592部屋を確保していますが、実際に療養している人は448人と使用率は28.1%となっています。

▽千葉県では858部屋を確保していますが、実際に療養している人は289人と使用率は33.7%となっています。入院先や療養先を調整中の人は2360人となっています。

▽埼玉県では967部屋を確保していますが、実際に療養している人は270人と使用率は27.9%となっています。入院先や療養先を調整中の人は433人います。

東京都 「入院調整本部」で患者の振り分け

東京都は、新型コロナウイルスに感染した人のうち重症や中等症などの患者で入院先の調整が難しいと保健所が判断した場合に入院先を探す「入院調整本部」を庁舎内に設けています。

感染が広がり始めた去年4月上旬、保健所が個別に入院の調整をするのが難しくなったうえ、1つの病院に別々の保健所から入院の依頼が来るなどしたため、都で一括で対応しようと立ち上げられました。

10人から15人程度の職員が土日、祝日も含めて対応にあたっています。

調整本部では、保健所から送られてくる症状や基礎疾患の有無などの情報をもとに、どの病院でどのような症状の患者を受け入れられるかを見て振り分けを行います。

判断する時には災害派遣医療チーム「東京DMAT」に所属する医師も加わって、患者の重症度に応じて優先度をつけて対応しているということです。

病床ひっ迫… さまざまな理由が

ただ、そもそも病床がひっ迫しているうえ、医師や看護師の態勢によって受け入れることができる患者の数が毎日変わることや、重症度や基礎疾患の有無などによって受け入れることができる医療機関が限られるということです。

都によりますと、保健所から調整本部に来る依頼は今月6日以降、連日、1日当たり400件を超えていて、翌日以降に繰り越したり待機を余儀なくされたりするケースが多数生じているということです。

関係者によりますと、最近は病床に十分な受け皿がなく、特に重症の患者の受け入れは非常に難しくなってきているということです。

優先度つけ病状急変も コロナ特徴が調整難しく

東京都の入院調整本部で実際の調整に携わる東京DMATの医師で東京曳舟病院の副院長三浦邦久医師によりますと、このところ、症状が重く緊急度の高い患者がいわゆる第1波や第2波の時と比べると非常に増えていて、調整を翌日以降に回さざるをえない状況があるということです。
三浦医師は「入院できる医療機関のキャパシティーを超えてしまっている。想像をはるかに超えて依頼件数が増えていて、その日のうちにすべてを調整できないのが現状だ。断腸の思いで翌日以降の調整にさせていただいている」と話しています。

また「調整できなかった患者が重症化してしまうのではないかという懸念を持ちながらやっている。優先度をつけて調整しているが依頼数がすごく多くて調整が難しいのが現状だ。全く症状がない軽症の患者でもいつのまにか症状が進行して重症になっているなど誰しも予見ができない。優先度をつけたとしても急変することもあり見極めることが難しい」と述べ、病状が急に悪化することもある新型コロナウイルスの特徴が入院調整を難しくしている理由の一つにもなっているということです。

さらに、三浦医師はこの事態を打開するためには「現場としては感染者を減らし受け入れていただく病院を増やしてもらわないと難しい」と話しています。

宿泊療養の対象は

厚生労働省は軽症か無症状の人について、宿泊施設が十分に確保できる地域では
▽家庭内感染を防ぎ
▽症状が急変したときに対応できることから、
自宅ではなく宿泊療養を基本として対応するよう各自治体に求めています。

また、東京都では、検査で感染が確認された人について入院を判断するための基準を去年11月にまとめ、この中で入院に該当しない人は原則、宿泊療養とする枠組みとしています。

具体的には入院の対象は
▽発熱やせきなどの症状が重い、
▽糖尿病などの基礎疾患がある、
▽65歳以上である、
▽妊娠している、
▽身の回りのことがひとりでできないといった項目のうち、
いずれか一つでも該当する人です。

しかし、病床がひっ迫し、入院対象を絞るため先月には年齢の項目を70歳以上に引き上げていて療養の対象者はそれに伴って広がっています。

また、都内の保健所によりますと、感染が急拡大する中で入院の基準に該当する人でも病床や宿泊施設の空きがないために自宅での療養をせざるをえないケースが相次いでいるということです。

どの病院もひっ迫している状況

東京曳舟病院の三浦医師が都の入院調整本部に携わった先月31日は、およそ300件ほど来た依頼のうち、120件から130件を翌日以降に調整を持ち越さなければならなかったということです。

一方、三浦医師が所属している病院でも実際に患者を受け入れていますが、8床ある病床は去年の年末からすべて埋まった状態が続いているということです。

それでも17日までの土日は、さらに2人の患者が搬送されてきたため、ほかの病院を探しましたが受け入れ先が見つからず、臨時のベッドを作ったうえで、一般の救急の外来を止めて受け入れたということです。

三浦医師は「現在、どの病院もひっ迫している状況なので、1日2日たっても入院調整が難しい状況が続いている。交通事故や骨折などの一般の救急車を断ったり、遠くの病院に行ってもらったりすることが現に起きている」と話しています。