日本はもっと自信を持っていい 「両利きの経営」を読み解く

日本はもっと自信を持っていい 「両利きの経営」を読み解く
新型コロナウイルスの感染拡大で事業や商売を今後、どうしていけばいいのか悩んでいる方も多いかと思いますが、ヒントになるかもしれない本があります。最近、話題となっているビジネス書の「両利きの経営」です。著者でアメリカのスタンフォード大学のチャールズ・A・オライリー教授にその意味や考え方を聞きました。(おはBizキャスター 岸正浩)

両利きの経営とは

両利きとは、企業を人に例えれば、右手で本業、左手で新規事業を同時に行うようなものです。ただ、話はそんなに単純ではありません。
オライリー教授によると、まずしっかりとした本業があって、そのベースにある技術や資産などを最大限に生かして新規事業を立ち上げていくことだといいます。

新規事業というとよく耳にするのが“多角化”です。しかし、かつてバブル期に日本企業がもうかりそうな事業にやみくもに手を出していた多角化とは全く違うと説明します。
オライリー教授
「両利きの経営」の秘けつは、本業の中から新規事業にうまく応用できる技術や能力を見極めることです。“ターゲットを絞った多角化”とも言えます。自前の技術を生かさずにほかの事業に投資したり、買収したりするのは生産的ではありません。それはバブル期に多くの日本企業が陥った状況です。

日本企業にヒントあり!

オライリー教授は、実は、今の日本企業の中に、両利きの経営を以前から実践しているところがあると指摘しています。
オライリー教授
最近、AGC(旧旭硝子)について論文を書きました。建築用ガラスや自動車ガラスなどの完成品メーカーですが、素材メーカーへの転換を進めつつあります。また、富士フイルムはフィルムで培った界面化学とコラーゲンの分野に深い専門知識があり、その技術を応用して化粧品事業に乗り出しました。
両社は、長い歴史を持つ本業があるものの、産業構造の変化やライバル企業との激しい競争などで頭打ちになる中、本業で培った技術をうまく生かして新たな事業を生み出し、収益を上げています。オライリー教授は2社だけでなく、日本企業には両利きの経営を実践できる土壌があるとも指摘しています。
オライリー教授
日本が得意なバイオテクノロジーや化学などの分野は、研究開発により時間がかかりイノベーションが難しいです。長期的な視野をもつ日本企業は有利だと思います。
日本が褒められているようで少しうれしくなったのですが、一般的に日本企業は、縦割りの組織やリスクを取ろうとしない気質などで、アメリカに比べてイノベーションが起きにくいという指摘もよく聞かれます。こうした見方をあえてぶつけてみました。

するとオライリー教授はやや笑みを浮かべながら「日本人は身内に厳しすぎると思います」と話していました。

日本は自分たちが考える以上に高い潜在能力があり、もっと自信を持ったほうがいいというのです。

リーダーシップの重要性

オライリー教授は、両利きの経営を実践する上で最も重要なのは、経営者のリーダーシップだと考えています。
オライリー教授
指導者はまず、実用的で深い専門知識を持って組織をもっともっとよくしようとする姿勢が求められる。さらに、より長期的な視点を持って水平線の先まで見通し、リスクをいとわないことも必要です。この2つが同時にできるかが重要です。そのうえで本業と新規事業という全く違うものを同時に走らせることに伴う“葛藤”に耐えられる指導者が必要です。カリスマ的な華やかさがある人はいりません。会社を活性化させ、社員の心や思いをひきつけられるリーダーが必要なのです。
本業の人材や技術などを活用して新たな事業を興そうとすると、本業の中に長くいた幹部や社員の中から「どうなるのかわからないような事業に貴重な人材や資金を使うのか」といった反発が出ることもあります。葛藤とはそうしたあつれきのことですが、これに忍耐強く立ち向かえる指導者が必要だというのです。

両利きの経営をどう生かす

さらに今のようなコロナ禍の時だからこそ両利きの経営の考え方が重要だといいます。
オライリー教授
新型コロナウイルスは多くの企業に影響を与えていて、発想を変えたり、より革新的になったりするよう求められています。コロナ時代に『両利きの経営』はより必要になると思います。
オライリー教授は経営学が専門で、リーダーシップや組織文化、それに人事マネージメントなどに精通しています。日本企業もよく研究していて、その知識と分析力には驚かされました。
インタビューを通じて感じたのは、コロナ禍で閉塞感が一段と高まっている中、深い思考を行ったうえで果敢に挑戦していくことの大切さです。まずは自分の会社の本当の強みは何なのか、しっかりと見極める。そのうえで従業員を巻き込みながら新たな事業を積極的に行っていく。

実はこの考え方は経営にとどまらず個人一人一人の生き方にもつながる話ではないでしょうか。自分の特徴はどのようなものなのか、簡単ではないかもしれませんが、考えることから始めてみてはいかがでしょうか。
おはBizキャスター
岸 正浩
平成4年入局
経済記者の経験をもとに
おはよう日本の経済コーナーを担当