「ミルクティー同盟」に見る 若者の政治参加

「ミルクティー同盟」に見る 若者の政治参加
アジア各地でいま、若者が相次いで政治に声を上げています。このうち東南アジアのタイでは、首相の辞任や王制改革を求める大規模デモを去年7月から断続的に開催。中国への警戒感を強める香港や台湾の若者たちとの連携は「ミルクティー同盟」として知られるようになりました。いったい何が、若者たちを突き動かしているのでしょうか。
(アジア総局・松尾恵輔、国際部・伊藤麗)

なぜ、デモに参加するのか?

「独裁者は出て行け!!」
「王室にたくさんの税金を使うのはやめよう!!」

タイの首都バンコクで声を上げる若者たち。

去年7月から、民主的な政治や、国王の政治への関わり方の見直しを求めていて、その数は多いときには5万人に達しました。
「なぜ、デモに参加するのか?」と聞くと、多くの若者が共通して口にするのは「格差への怒り」です。
その1人、ウィラダーさん(30)。

かつてタイ国内の最難関大学で外交官を目指していましたが、教授から「人脈がないなら、諦めなさい」と突き放され、断念したと言います。卒業後は、親戚の屋台を手伝っていますが、売り上げは新型コロナウイルスの影響で3分の2に減少。生活は決して楽ではありません。

タイでは、育った家の豊かさやコネが、就職や人生を大きく左右すると言われます。

富裕層の上位1%が、国の富の50%を握っているという民間の調査結果もあり、「金持ちは悪いことをしても刑務所に行かない。刑務所は貧しい人のためにある」と言う人もいるほどです。
怒りの矛先は、プラユット首相が率いる政権だけでなく、多くのタイ人の尊敬を集めてきた王室にも向かっています。これまでは批判がタブー視されてきた存在です。王室の財産は3兆円以上とも言われ、格差やコネが優先される社会の象徴のように受け止める若者も増えています。

ウィラダーさんは、「みんなが同等に扱ってもらえる社会にしたい。本当の民主主義を手に入れたい」と、ことばに力を込めます。

「ほほえみの国」のもう一つの顔

不満を募らせる若者たちに対し、政権側は圧力を強めています。

デモが始まって3か月がたった去年10月。バンコクの大学で学生たちが主催した、民主化の歴史を学ぶイベントで、学生をスマートフォンで撮影したり、発言を記録したりしている中年の男たちがいました。

「警察官か軍人です」と教えてくれたのは、地元の記者です。「政治的な集会があるときは大学の構内にさえ立ち入って、監視しています。みんな慣れっこです」

政権側の取締まりの切り札とも言われているのが、「不敬罪」です。王室に対する中傷や侮辱を禁じる法律で、有罪となった場合、最長で15年の禁錮刑が科されます。過去には、国王の飼い犬を皮肉ったなどとして摘発されたケースもあり、「政権が恣意的(しいてき)に利用している」として、反対派からは批判の声も上がっています。
捜査当局は、不敬罪の適用も視野にデモの参加者30人以上に出頭命令を出し、締めつけを強めています。

タイは「ほほえみの国」と呼ばれ、世界中から大勢の観光客が訪れてきましたが、若者たちには“もう一つの顔”が見えているようです。

国境を越えた「ミルクティー同盟」とは?

こうした政権の締めつけにもかかわらず、民主化を求める若者たちの勢いは衰えていません。

これを支えてきたのが、「ミルクティー同盟」です。
タイと香港、それに台湾の若者が中心となったSNS上のつながりです。いずれの地域もミルクティーが好きな人が多いことから、名付けられたと言われています。

タイのデモを知った香港の人たちが、SNS上で応援のメッセージを投稿。タイの若者たちも、中国政府が統制を強める香港で声を上げ続ける若者たちに声援を送るなど、互いにエールを送り合っています。

この「ミルクティー同盟」に後押しされて、デモに参加する人もいます。
かつてタイ政府の監視を恐れていたと言う、ゲードカノさん(23)です。

香港で黄之鋒さんや周庭さんなど、同年代の民主活動家が当局の圧力に屈せず、声を上げ続けていることをSNSで知り、衝撃を受けたと言います。
ゲードカノさん
「私たちは、政府が何をしてくるかといつも恐怖を感じてきた。でも、香港の人たちは闘っていた」
勇気づけられたゲードカノさんは、いま、スマートフォンを片手にデモの最前線に立っています。SNSのライブ配信で、デモの様子を世界中に伝えるとともに、国際社会に支持を呼びかけています。

「同盟」は日本にも広がるのか?

「ミルクティー」と言えば、日本にも「抹茶ミルクティー」などがあります。

若者たちの「同盟」は広がるのでしょうか。
「真の民主主義を求めます。私たちの声が多くの人々の耳に届くよう、拡散をお願いします」

去年10月、東京・渋谷駅前。在日タイ人およそ100人が母国の動きに呼応して、集会を開きました。

日本で働く29歳のタイ人の女性は、20代から30代の友人4人とともに、デモについて日本語で伝えるブログを開始。タイ政府に対して求めている、改革の内容などを発信しています。

「いつも助けてもらっているんです」と紹介してくれたのは、香港出身の女性。民主化を求める在日タイ人の活動を、香港に向けて発信しているそうです。
タイ人の女性
「香港の民主活動家たちは逮捕され、いろいろ大変だと思います。一緒に頑張りましょう」
タイ人の女性は、協調を呼びかけました。
ここ日本でも、タイと香港の「ミルクティー同盟」が生まれていたのです。

日本の若者たちは

日本の若者たちは、こうした動きをどう見ているのでしょうか。

若者の声を届けるために活動している「日本若者協議会」の代表理事で、都内大学院に通う室橋祐貴さん(32)に聞きました。
室橋さんの団体には、香港の民主化運動をめぐる署名活動への参加の誘いや香港の学生から「アジア各地で起きている民主化運動について知ってほしい」という声が寄せられたため、連帯の意思を表明するかどうか、議論を重ねました。

この中でメンバーからは、「なんとかしたい気持ちはある」という意見が上がった一方で、「遠い話にも感じられる」とか、「中国政府に目をつけられたり、渡航できなくなったりするのが心配」などという声も多かったということです。

結局、団体として行動を起こすことは、今回は断念しました。

室橋さんは、香港の周庭さんなどがデモだけでなく、議会選挙に立候補して政治を変えようとしたことは意義が大きいと評価し、アジアの若者たちからは学ぶ点が多いと言います。

一方で、日本の若者には「民主主義が失われる」ということが、肌感覚としてあまり感じられていないと分析します。
室橋祐貴さん
「日本でも政治家が説明を尽くさないなど、民主主義の問題はある。それでも、香港やタイと違って、活動しただけで逮捕されるといったことはなく、危機感のレベルが違う。日本の高校生や大学生は、国内の課題でさえ『遠い』と感じている人も多い」
室橋さんの団体はいま、若者の意見を政策に反映させようと活動しています。
投票率の高い中高年の意見を重視する「シルバー・デモクラシー」ではなく、「ユース・デモクラシー」の定着に力を入れています。

環境問題や、性暴力やセクハラを告発する「#MeToo運動」などは、日本の若者たちにとっても身近な問題で、各国の同世代と連帯しやすいと指摘します。
室橋祐貴さん
「環境問題や貧困などの対策資金を確保するための“国際連帯税”の導入や、女性の権利をめぐる課題は日本国内で関心が高い。海外の若者の政治参画は日本とレベルが違うので、刺激も大きい」
民主化を実現しようと、圧力に屈することなく声を上げている、タイや香港の若者たち。その姿はSNSを通して拡散され、世界中でそれぞれの課題と向き合う、同世代の人たちの背中を押しています。
アジア総局

松尾恵輔記者
平成22年入局
静岡局を経て社会部で厚生労働省担当として雇用問題などを取材。令和2年からアジア総局でタイやラオスの取材を担当。
国際部

伊藤麗記者
民放記者から平成27年入局
盛岡局を経て国際部で東南アジアと南アジア、オセアニアの取材を担当。