密着・コロナ重症者病棟 “現実に心が追いつかない”

急増する新型コロナの感染者と重症者。首都圏にある病院のコロナ重症者病棟では、この1か月、異例の事態が続いています。
相次ぐ重症者の死、最期に立ち会えない家族の心情に心を痛める看護師。
ベッドが次々と埋まり、医療崩壊を食い止めるため、ギリギリの選択を迫られる医師。
先の見えない状況に医療従事者たちは心身共に極限状態となっています。最前線の実態です。
(クローズアップ現代+「コロナ重症者病棟 パンデミック下の年末年始」取材班)

相次ぐコロナ重症者の死

主に重症患者の治療にあたっている川崎市の聖マリアンナ医科大学病院。12月。重症患者が連日、運び込まれ、亡くなる人も相次いでいました。

12月17日。1人の高齢の患者が危篤となっていました。看護師はテレビ電話で家族とつなぎます。せめて画面越しでも家族の姿を見せてあげたいと病棟の看護師が提案した心遣いです。
画面を通して家族が最期の別れを告げます。

家族
「家族はなんとかここまできました。たいしたもんだよ父さんも」

この会話の2時間後、患者は息を引き取りました。
12月28日。重症患者が相次いで亡くなるという異例の事態も起きました。80代の男性は、家に帰ることをずっとのぞんでいました。

男性の妻
「苦しかったろうねえ。帰りたいって言ってたのに。お父さーん」

懸命な治療が続けられていた30代の若い女性。意識を一度も取り戻すことなく、息を引き取りました。

遺体をビニール袋に入れ納棺 看護師たちの抱える葛藤

患者が亡くなった後、看護師たちが防護服を着て感染を防ぐためにビニール袋を二重にして遺体を納棺します。今まで、看護師は行ってこなかったことです。
(納棺用のビニールを準備する看護スタッフ)

看護師副長の長屋さん。相次ぐ患者の死に向き合う中で、葛藤を抱えながらこの納棺の仕事を行っています。
長屋さん
「ビニールに包み、物のように扱うことに心が追いついていかない。人間の命の尊さとかっていうのは、どこにいっちゃってるんだろう」

“直接、家族に見送ってもらいたい”

家族は、大切な人が亡くなった後、納棺にも立ち会えず、遺骨を受け取るしかないコロナの死。この状況を改善できないか。

長屋さんは、家族に防護服を着用してもらい、納棺の際に手袋越しでも肌に触れることがでるようにしたいと、病棟の責任者、藤谷茂樹センター長に提案しました。
最大の懸念は面会した家族が感染することです。病院では、どういう対策をすれば、長屋さんの提案をかなえることができるのか、議論を重ねています。
藤谷茂樹センター長
「自分の子どもだったら絶対抱きしめてあげたいと思うよね。なるべく早く直接の看取りができるように知恵を絞ってやっていきたい」

迫り来る医療崩壊の危機

患者の死亡が相次ぐ一方、藤谷センター長は、医療崩壊をどう食い止めるかに頭を悩ませていました。

そもそも12月は心筋梗塞など一般の急病患者も多く、例年、医療態勢はひっ迫する傾向にあります。

藤谷茂樹センター長
「かなり僕たちも戦々恐々として、毎日を過ごしている状況です」
12月30日。17床あるコロナ重症者病棟はすでに13床が埋まっていました。

正午過ぎ、1本の電話。神奈川県内の病院からコロナの重症患者を受け入れて欲しいという緊急の要請でした。

150キロを超える40代の男性の容体が急変、一気に重症化したと言います。

患者を迎えに行く看護師はカメラを肩に装着、搬送の間も、病院の医師から的確な指示を受けるためです。意識がもうろうとしていて、暴れだしていた男性患者。

搬送時、人工呼吸器が外れないように指示が飛びます。

藤谷茂樹センター長
「筋弛緩剤で動かないようにして」

時間の猶予がない中で、医師と看護師が連携し、無事、病院に搬送しました。

人工心肺装置ECMO装着をめぐる葛藤

12月31日。藤谷センター長は、厳しい決断を迫られます。

前日、搬送されてきた男性は、コロナ治療の最後の砦と言われる人工心肺装置ECMO(エクモ)を装着する必要がありました。

エクモは装着時、この病院では最大10人ほどの人手がかかります。病床が満床に近づく中、多くの人手を取られることは、他の病気の救急患者を診る余裕がなくなることにつながります。
医師たちの間で、使用すべきかどうかで議論が起きました。

医師A
「状態を改善させるには今、エクモを使うべきだと思います」
医師B
「年末年始でバタバタな中、人手がさかれるから使わない方がいい。夜間も人がいない」

最終的な判断は藤谷センター長が下すことになりました。

藤谷茂樹センター長
「エクモを使用しないといけないのはわかっているが難しい。他にも患者がどんどん搬送されてくるぎりぎりの状態。他の患者の命も救わなければならない」
結局、藤谷センター長は、エクモの装着を見送る決断をしました。

その代わり、肺にたまった血を巡らせる腹臥位(ふくがい)とよばれる対症療法を選択、仰向け状態からうつ伏せにする方法を試みました。これだとエクモより少ない人数で治療にあたれます。

数日後、男性の容体は改善しました。

藤谷茂樹センター長
「あのときの判断が良かったのかどうか。本当にギリギリの選択だった」

医療崩壊と隣り合わせの日々

1月1日。ついに17の病床すべてが埋まりました。去年2月にコロナ患者を受け入れて以来、初めての事態でした。そして今も、空けては埋まるという、綱渡りの状態が続いています。

藤谷センター長は、この状況が続けば、地域全体の医療崩壊につながりかねないと懸念しています。
藤谷茂樹センター長
「他の病院にも依頼をして、今までコロナの患者さんを診ていない病院にも応援要請をしないといけないという状況。今までコロナ患者を診ていない病院で診始めるということは、病院がクラスターを発生させる危険性が非常に高い。これが医療崩壊の本当の始まりになってくるんじゃないかと、非常に危機感を抱いてます」