「コロナ、陽性だった」感染への見方に変化?

「コロナ、陽性だった」感染への見方に変化?
「PCR検査で、陽性だった」
新型コロナの感染拡大が続く中、SNS上には、みずからの感染を明らかにする投稿が目立つようになっています。感染者への差別や中傷も問題になりましたが、あえて今、表明する背景にはどんな思いがあるのでしょうか。
(ネットワーク報道部 記者 野田綾・加藤陽平)

「陽性だった」

「まだ立ちくらみと軽い頭痛が時々あって、咳も出てます」

「初期よりはだいぶマシですが、倦怠感と関節痛も少しある感じ」
1月3日に新型コロナの陽性判定を受け、その後、ホテルで療養しているという女性のツイートです。今、こうした「自分が陽性判定を受けた」という投稿がSNS上に見られるようになっています。

ツイッターの投稿を検索できるヤフーの「リアルタイム検索」というサービスを使って検索すると、「陽性だった」というワードを含むツイートが年明け以降、急増していました。

この件数が、陽性判定を受けた人自身のツイートとはかぎりませんが、感染したことに関する情報を発信する人が、以前よりも増えているのではないかと、取材を進めました。

“感染”発信の思いとは

その中で、発信を続ける1人、PR会社の社長、次原悦子さんに話を聞きました。
療養している都内のホテルから、体調が落ち着いている時にオンラインで答えてもらいました。
次原さんが異変を感じたのは年末のことでした。食べ物の味が感じにくくなりました。
そして1月2日、PCR検査の結果が伝えられました。
【1月2日】
「陽性。28日以降私と接触した方が濃厚接触者」
この日から感染状況を日記のように発信し始めます。
【1月3日】
「自宅隔離の今、同居家族にうつさないかが心配」
「(自宅内の)洗面所に行くにも通った場所は消毒。想像以上に大変」
知人からマスクなどが届けられました。
【1月3日】
「落ち込んでたが、こういう人の優しさに触れると泣けてくるなぁ」
【1月4日】
「今までやはり他人事だった。自分の身体も心配だけど、人に感染させてたらどうしようと不安でたまらない」
【1月6日】
「ホテルが空いたから迎えの車が来ると。今からホテル隔離になります」
「ホテル隔離初めての食事。すれ違う人は皆目を合わせず話はしない」
【1月7日】
「昨日まで味覚嗅覚だけだったのに、今日は初めて発熱。侮れない」
次原悦子さん
「危機管理をしてきたつもりだったので、まさか自分がという気持ちで、ショックでした。やはり今まではどこかひと事だったと思います」
「公表したことで、知人などから『実は、私も…』という連絡が寄せられました。陽性になっても周りに言えない人はたくさんいるはずです。言えないことで、リアルな情報が表に出なくなるのは避けたいと思い、発信を続けています」
感染者への差別や偏見も問題になりましたが、発信することで、減らしていきたいと考えています。
次原悦子さん
「感染した人に対して『何となく嫌だな』と感じる人もいるかもしれませんが、リアルな情報に触れることで、『あすはわが身だ』と感じてもらい、感染した人への偏見が減ることにもつながればと思っています」

感染の表明が多くの人の利益に

みずから感染を明らかにしたり、経験を他者と共有したりする動きの背景には何があるのか。
差別や偏見について研究している社会心理学者で近畿大学国際学部の村山綾准教授は、その理由として、まずは「感染者が増えるにつれて、次は自分かもしれないと感じられるようになったこと」があると指摘します。
村山綾准教授
「感染者が少ないときは、平穏な日常を守りたいという意識が働き、行いが悪かったために感染したと感染者の責任にしていたところがあったと考えられます。それが、今は、自分も含めていつ誰が感染してもおかしくないという意識に変わってきたことで、感染者を責める意識や責められるというおそれが薄らいだのだと考えられます」
また、自分が感染するかもしれないという意識が広まったことで、感染者の情報が多くの人の知りたい情報になっているのではないかと話します。
村山綾准教授
「感染者が、感染したらどう行動すればいいかや、症状が出たらどうなるのかといった情報をくれる貴重な存在になってきているのだと思います。また、感染者自身もそれに貢献したいという思いを持っているのではないでしょうか。こうした変化は好ましいことですし、今後も続いていくと考えられます」

感染受け止める雰囲気作りも

感染しても責めないし、責められないという意識への変化。その変化を促す取り組みも行われてきました。
効果を実感する出来事が記者(野田)の身近でありました。記者の子どもが通う都内の小学校でも12月、子どもに陽性者が出ました。
「ついに出たか」。保護者たちの間には、緊張感が走りました。そんな時にその緊張を解いてくれたのが、学校から届いた1通のお便りでした。
学校からのお便り
「本日、それぞれのクラスで、担任の先生から次の3つのことを子どもたちに伝えました。
▼感染した人が悪いということではないこと。
▼感染した人への思いやりの気持ちを持ってほしいこと。
▼感染した人が早く元気になって、学校に戻ってこられるように、温かい気持ちで迎えてほしいということです」
次のような続きもありました。
学校からのお便り
「子どもたちからは『感染した友だちがみんなにいじめられるようなことにならないようにしたい』といった声が聞かれました。先生たちが『私たちも同じ思いだよ。みんなに楽しく元気に登校してほしいと思っているよ』などと伝えると子どもたちは大きくうなずいて聞いてくれました」
どうしてこのようなお便りを出すことにしたのか、校長に話を聞きました。
小学校の校長
「子どもにも保護者にも不安が広がると考えて出しました。こうしたことを理解することで、友だちが感染したときに応援できるし、もし自分が感染しても嫌な思いをしないで戻ってこられるのではないかと思います」

差別やめようの動き さらに広がる

感染者や、医療従事者への差別や中傷をやめようという取り組みもここに来てさらに広がりを見せています。
去年4月、愛媛県の有志から始まった「シトラスリボンプロジェクト」です。
愛媛県特産のかんきつ類にちなんだ「シトラス色」のリボンを地域や職場の人が身につけることで、感染確認された人や医療従事者などを差別することはないと意思を表明する運動です。
発起人の1人、愛媛大学の前田眞教授によると、全国各地の企業や行政、学校からの問い合わせが増えているといいます。
前田眞教授
「共感が広がっていると感じています。感染者が回復したときに、『ただいま』『おかえり』と言いあえる社会であってほしいと思っています」

コロナへの対応経験生かして

感染者への見方が寛容になってきたといえる一方で、1都3県に再び「緊急事態宣言」が出され、感染の状況はかつてないほど厳しくなっています。
改めて、コロナとどう向き合っていけばいいのか。
長野県にある諏訪赤十字病院の臨床心理士で、感染症による差別や偏見の克服に取り組んできた森光玲雄さんに聞きました。
森光玲雄さん
「感染者に寛容になったとしても医療がひっ迫する状況があり、感染を防ぐ必要があるのは変わりません。フラストレーションがたまる状況は続くので、対策を行わない人や移動をした人への批判など、いがみ合いが生まれる場面は今後も出てくるおそれがあります」
森光さんは、制約の多い生活が続く中で、対象を変えた差別や偏見が続く可能性を指摘します。そのうえで、どう乗り越えていくのか、次のように話します。
森光玲雄さん
「ウイルスの変異など予測ができないことも多く、先の見通しが立たない状況に耐えていく必要があります。ただ、この1年近く私たちは感染対策をどう行うかやどんな場面で差別や偏見が起きるのかなど多くのことを学んできました。その積み重ねの中で、しなやかに対応する力が身についたと信じて進んでいくことが大事だと思います」
自分を、そして社会を守るために感染しない努力を続ける。
そのうえで、コロナ禍で学んだことを生かし、知恵を出し合っていくことが求められているのだと感じます。

最後に改めて…

最後に改めて感染予防に必要な基本的な対策と、新型コロナの代表的な初期症状について振り返ります。

【日常生活で気をつけること】
・せっけんやアルコール消毒液などを使った手洗い
・せきやくしゃみをする際のエチケットを守ること
・持病がある人や高齢者はできるかぎり人混みを避けること
・発熱などかぜの症状が見られる時は学校や会社を休むこと

【初期症状】
厚生労働省は少なくとも次のような症状に該当する場合には、「帰国者・接触者相談センター」にすぐに相談するよう呼びかけています。
・息苦しさ(呼吸困難)
・強いだるさ(けん怠感)
・高熱・高齢者や基礎疾患がある重症化しやすい人の場合は、発熱や咳などの比較的軽いかぜの症状。