赤字路線もアイデアで維持?バス会社再生の秘けつとは

赤字路線もアイデアで維持?バス会社再生の秘けつとは
通勤通学や旅行などの移動手段として欠かせない路線バス。人口減少などで地方の路線バス事業の8割が赤字です。そうしたなか苦境に立つ東北や関東のバス会社を買収し、再生に取り組んできたグループがあります。どうやって地方の路線バスの利用を増やそうとしているのか、改革の秘けつに迫りました。(盛岡放送局記者 光成壮)

荷物を運ぶ「貨客混載」

岩手県沿岸の宮古市からおよそ2時間かけて盛岡市に到着したバス。「岩手県北バス」の路線バスです。トランクから取り出された荷物は、近くの洋菓子店に運ばれました。中に入っていたのはケーキ用のイチゴです。
洋菓子店では、宮古市から新鮮なイチゴを路線バスを使って運んでもらいケーキ用に使っています。乗客だけでなく荷物も運ぶこの取り組みは「貨客混載」と呼ばれ、このバス会社では2015年から始めました。現在は宅配便や農産物などの荷物を路線バスで運んでいます。

グループでレベルアップ

背景には、バス会社の厳しい経営環境があります。岩手県北バスは、岩手県の北部を中心に200路線余りを運行しています。実は利用客の減少などにより経営に行き詰まり、2009年に民事再生法の適用を申請しました。再生を請け負ったのは東京に本社がある「みちのりホールディングス」です。地域の公共交通を維持し、その価値を高める目的で設立されました。
傘下には岩手、福島、茨城などのバス会社5社とモノレール会社、旅行会社があります。このグループを率いるのは松本順さんです。かつて産業再生機構の執行役員として九州産業交通などのバス会社の再生に関わってきました。松本さんは地方の複数のバス会社を束ねて経営するねらいを次のように話しています。
松本さん
「グループのバス会社を横串でレベルアップを図ることによって、スピーディーに全体のオペレーションというか事業運営の水準を上げていくことができる」
みちのりHDではこれまで「貨客混載」など新たな手法に効果があれば他の会社でも積極的に取り入れてきました。また、共同でバスや車両の部品を調達してコスト削減するなどして経営改善につなげてきました。

赤字路線をどうする?

しかし、地方の路線バスは、そもそも赤字路線が多く、国や自治体からの補助金がなければ成り立ちません。岩手県で暮らしていると、ほとんど乗客が乗っていないバスも目にします。実際、岩手県北バスでは、高速バスなどを除くと7割ほどが赤字路線です。

旅行商品でバス利用を増やす

そこで少しでもバスの利用客を増やそうと新たな取り組みも始めています。その1つが新しい旅行商品の開発です。
松本さん
「観光で訪れる人が数多くいるということは、観光目的で移動サービスを利用する。バスを利用する機会を増やすことにつながる」
岩手を舞台に今準備を進めているのが外国人向けの被災地ツアーです。ことしは東日本大震災から10年を迎えます。新型コロナウイルスが収束したあとのインバウンド需要を見据えて企画しました。去年秋に試験的に「奇跡の一本松」で知られる陸前高田市でツアーを行い、国内に住む外国人が参加しました。参加者はガイドの説明を受けながら東日本大震災を伝える施設や震災遺構を見て回ったほか三陸の海の幸を味わいました。
参加者
「美しい風景やすばらしい食事と一緒に復興の話を聞くことができる。とても印象深い経験だった」

コロナ禍をチャンスに

さらに松本さんは、コロナ禍で広がった新しい働き方の中にもバスの利用客増加につながるチャンスを見いだそうとしています。注目したのは、休暇を楽しみながら仕事をする「ワーケーション」です。
松本さん
「新型コロナの問題をきっかけとして分散型の社会がやってくると見ている。リモートでも働ける、オンラインでも医療を受けられる、そういうことが分かってきた。そうすると多くの人が地方に分散して暮らすという状況が生まれ、実際そうした状況に至ってきている」
ブナ林が広がる安比高原で行われた体験ツアーには、県内外の企業から人事などの担当者が参加しました。紅葉のなかで参加者どうしで地方でのワーケーションの可能性について意見を交わしました。
通信会社の女性
「ここに来ると自然がすごくて、関係性がフラットになると思った」
観光会社の男性
「いかに地方の人とつながりを作れるかを何よりも大事なテーマに掲げてワーケーションをやろうと思っている」
体験ツアーに参加した企業の中には、岩手でのワーケーションを検討するところも出始め、滞在する人が生まれればバスを利用する機会が増えることにもつながります。
みちのりHDではこうした仕掛けや規模をいかした経営で、再建を手がけるバス会社の路線を維持してきました。最後に、目指すバス会社の姿について聞きました。
松本さん
「路線を安易に廃止したり、減便したりするということではなくて、利用者の利便性を向上させて、利用者数を維持し、そして自治体と連携して路線ネットワークを守り抜いていく。できればさらに利便性を向上させて増やしていく、また、外からも人を呼び込んできて私たちのバスに乗ってもらう、そういうことができるバス会社になっていきたい」

地方路線もアイデア次第で

取材を始めるまでは、地方のバス路線のほとんどが赤字のなか、複数のバス会社を傘下において、どのようにビジネスを成り立たせているのか疑問でした。しかし取材を通じて、アイデア次第でまだまだ地方のバス路線を維持できる可能性もあると感じました。
盛岡放送局記者
光成 壮
平成29年入局
警察担当を経て
経済の取材を担当