世界シェア9割の企業が、なぜ四国に?

世界シェア9割の企業が、なぜ四国に?
隙間、いわゆるニッチな分野で高いシェアを誇る中小企業が四国に多くあります。特殊な「くい打ち機」で世界シェア9割の企業や、肉を均一の厚さで薄切りにするスライサーで圧倒的なシェアナンバーワンの企業。人口やGDP=国内総生産では国内シェア3%の四国に、なぜニッチを極めた企業が多くあるのでしょうか。(高知放送局記者 林知宏/松山放送局記者 森裕紀)

打たない「くい」

高知県土佐市の防潮堤。南海トラフ巨大地震の津波に備えた補強工事が進められています。長さ16メートルの「くい」がスムーズに地中に埋め込まれていきます。音はほとんどしません。

この「圧入工法」と呼ばれる技術を世界で初めて実用化したのが高知市の建設機械メーカー「技研製作所」です。
騒音が出ない理由。それは打たないためです。

最大の特徴は先に埋めたくいに機体を固定して次のくいを押し込んでいくことです。押し込まれたくいは地中の圧力で抜けにくくなります。それをつかんで、いわば機体と地球が一体化するため、約100トンもの力で新たなくいを押し込んでも機体が浮き上がらないのです。

開発のきっかけは日本の高度成長期、くい打ちが引き起こした騒音問題でした。高速道路や高層ビルなど全国各地で建設ラッシュに沸く一方、くいをたたきつける甲高い音と振動に悩まされる人が相次ぎ、体調不良を訴える人もいました。

1975年に初号機を完成させ、今も経営に携わっている北村精男会長は当時を振り返ります。
北村会長
「建設は騒音問題を生み、その中でもくい打ちが1番出していたので何とかしたかった」

完全自動化に向けて

従来のくい打ち機よりも一回りも二回りも小型なこの機械は、狭い現場が多い都市部の需要をつかみました。

評判は海外にも届き、ニューヨークの建設現場などで使われ、この工法での世界シェアは9割を超えています。2021年にはオランダ・アムステルダムの運河の護岸工事でも採用が決まっています。
北村会長
「当社の製品は地球をつかんでいるから、機械に重量や大きさはいらない。建設を根底から変える力を持っている。経営理念は自流独創。常に独創的なものを作ろうと試行錯誤すること。ほかの業界を知らないので、狭い考えを大事にして、そこから広げていきたい」
会社は今、建設現場の人手不足に対応するため、機械の完全自動化に向けた開発を進めています。
今は作業員が現場の地盤の状況に合わせて機械を操作していますが、自動化に必要なデータベースを作っていて、数年後の実用化を目指しています。
北村会長
「新しい機械の構想がいっぱいあるので、さらに開発に力を入れる。技術力はメーカーにとって永遠のテーマで、新しい時代を創る先進的な企業であり続けたい」

バブルはとっくにはじけたが

スーパーの精肉コーナーで売られている薄切りの豚肉をよく見ると、パックの中にきれいに2つ折りにされています。

国内のスーパーで販売される薄切り肉のほとんどが松山市の「日本キャリア工業」のスライサーで加工されていて、この分野のシェアは圧倒的ナンバーワンです。
最大の特徴は、ブロック肉を投入するだけで、機械がスライスから折り畳みまでの工程を全自動で行うことです。

画期的なのは肉を切る刃の使い方です。一般的な機械は、回転する円盤形の刃に肉を押し当ててスライスしますが、この機械では帯のように長い刃を使用しています。
機械を開けると、映写機のリールのような円盤があります。ここにフィルムをかけるように刃を巻きつけてスイッチを入れると、刃が滑らかに動き始めます。
ブロック肉を入れる部分から見ると、刃は上部で左から右へ速いスピードで流れていてそこに肉を押し上げることで切り落とされる仕組みです。
ブロック肉を固定する留め金の部分にも秘密があります。よく切れるはさみを思い浮かべてみてください。2枚の刃がわずかに触れて重なっていますが、それと同じように上部の流れる刃と留め金の部分が絶妙に触れるように設計されているのです。

その両者に少しでも隙間があると、刃がぐらぐらしているはさみと同様にうまく切れません。逆に2つが強く接触してしまえば刃が破損し使えなくなります。何度スライサーを動かしても寸分の狂いも出ない技術は簡単にはまねできないといいます。

食肉加工の現場に革新をもたらした

会社の設立は昭和45年で、食品機械メーカーとしては後発でした。スライサーの開発が始まったのはおよそ30年前のバブル時代です。当時の社長が、人手不足が深刻だった食品加工の現場を目の当たりにして、省人化できる肉の折り畳み機の開発に着手しました。

しかし、開発は頓挫します。そもそも肉の厚さが均一でないと機械で折り畳むことは不可能だったのです。

このため、まずはスライサーそのものの開発に着手しました。流れる刃と留め金の構造を生み出すのに3年、さらに折り畳み機能を備えるのに7年、今の形になるまでに通算10年を費やしました。

バブルはとっくにはじけ、時代は平成不況のまっただ中でした。コストは膨らみ、開発の中止を進言する社員もいたそうですが、当時の社長は諦めることなく3人の社員を専属でつけて開発にあたらせたといいます。
完成したスライサーは、食肉加工の現場に革新をもたらしました。

それまで大手スーパーの多くが、店舗のバックヤードで肉をスライスしていたため、多くの人手を必要としましたが、このスライサーの登場で事前に工場で加工を済ませる企業が増えて効率化につながっています。
三谷社長
「何か特別な技術とか他にないものがないと苦戦するのは目に見えている。われわれにはすでに圧倒的に珍しい技術があるので今後も独創的な物を考えて提供していくということに尽きる」

四国に“ニッチのトップ”が多いワケ

経済産業省は去年(2020年)、世界市場のニッチ分野でシェアが高い企業「グローバルニッチトップ企業100選」を発表し、このなかに四国の企業は7社入りました。

なぜ四国にニッチトップ企業が多いのか、元経済産業省の官僚で、中小企業政策などに詳しい京都先端科学大学客員教授の増山壽一さんに聞きました。
増山客員教授
「四国は大都市から離れていて大企業も少なく、下請けではない独立系中小企業が多くあります。これは北陸地方にも言えることですが、自分たちで何とかしようとする独創的なアイデアが生まれやすい土壌があると思います」

「ほんの少し前までの世界はどんどんグローバル化が進み、市場は均一化すると思われてきましたが、コロナで状況は一変しました。米中の対立を見てもわかるように、市場は分断され、細分化しています。現在、企業に求められるのはニッチトップ企業のように市場をみずから作る力です。高知の「くい打ち機」メーカーは騒音という社会問題から全く新しい市場を生み出し、松山の「薄切り肉スライサー」の企業も人手不足の問題に真剣に取り組んだ結果、画期的な製品を開発し社会のニーズを見える化しました。この先、市場の分断が進んだとしても、社会が抱える課題は共通です。ニッチをねらってみずから市場を作り出し、世界を目指す気概を持つことがこれからの企業に求められるのではないでしょうか」
※この記事は、2020年11~12月に四国管内のNHKで放送した特集シリーズ「四国のグレートニッチ企業」を再構成したものです。特集は1月15日に四国管内で放送予定の「四国らしんばん」でも詳しくお伝えします。
高知放送局記者
林 知宏
松山放送局記者
森 裕紀