日本再生の“ラストチャンス” 経済同友会 櫻田代表幹事に聞く

日本再生の“ラストチャンス” 経済同友会 櫻田代表幹事に聞く
新型コロナウイルスで、日本経済は製造業・非製造業とも大きな影響を受けました。日本社会のデジタル化の遅れなど数々の課題も浮き彫りになりました。感染拡大が収束しないまま迎えた2021年。経済界は新年をどう展望するのか。「2021年を、イノベーションで社会を再設計する1年にしよう」ーそう呼びかけるのは、経済同友会の代表幹事を務める櫻田謙悟氏。新年は日本が本気で成長するラストチャンスだと語る櫻田氏に、その考えを聞きました。(経済部記者・山田賢太郎)

資本主義の在り方、1から議論を

損害保険大手「SOMPOホールディングス」の社長で、2019年から経済同友会の代表幹事を務める櫻田謙悟氏。日本経済が新型コロナに翻弄されたこの1年、政府の経済対策や消費の動向、米中対立など、さまざまな課題に対して提言や意見を発信してきました。櫻田氏は、2020年をこう振り返ります。
櫻田氏
2020年は、私がよく申し上げるVUCA(ブーカ…世界や経済環境の不確実性・変動性などを意味する)の時代で、ありとあらゆる想像できなかったことが起きた1年でした。特にコロナ、あるいは米中問題、さまざまな地政学的な外交的な問題。そして新型コロナも含めて、日本に投げかけられた課題や問題は、実はまだ全然解決できていないのではないでしょうか。
櫻田氏は、コロナ危機は将来への展望を不安定なものとし、「グローバル資本主義」の課題である格差拡大や社会の分断の深刻さを浮き彫りにしたと指摘しています。企業にとって2021年をどんな年にするべきか。櫻田氏は、これまでの企業の在り方を根本的に見直し、日本らしい新しい経済社会を築くことが必要だと訴えています。

櫻田氏が考える日本の強みは、1億を超える人口規模、GDP世界3位の経済規模、民主主義社会。そして、たとえば国民皆保険に支えられた医療や介護の現場から得られるデータや、ものづくりのIoTの取り組みは、20世紀の経済を支えた原油に匹敵するくらい価値のあるものだといいます。日本企業は、1億人の市場に広がるさまざまなデータを活用して、新たな製品やサービスを生み出せるかが問われているというのです。
櫻田氏
世界経済フォーラム(ダボス会議)が掲げる2021年のテーマは「グレート・リセット」。このことばに象徴されるように、これまでやってきた資本主義の課題を一から議論する年にしたい。

2021年は日本が本気で成長していくラストチャンスです。日本にはすばらしい強みがある。それを生かして「日本みたいになりたい」という新しい経済社会を作れないか、社会を再設計するという志を持ってスタートする1年にするべきではないでしょうか。企業はイノベーションによる社会変革を引き起こす本気の覚悟が必要だと思います。

デジタル化、ダイバーシティ

2020年は、政府の給付金の手続きの混乱に象徴されるように、社会全体のIT化の遅れが露呈した1年でもあります。イノベーション=技術革新を進化させるには、デジタルインフラの整備が不可欠だと櫻田氏は指摘しています。

イノベーションの実現には、性別や国籍、年齢などの多様性を認め合う「ダイバーシティ」も進めなければ、新たな発想は生まれないとも考えています。海外から人材を多く呼び込むための組織や社会の課題を、官民が解決に向けて取り組むべきだとしています。
櫻田氏
DX(デジタルトランスフォーメーション)は何のためにやるのかというと、先進国の中で最低水準にとどまる日本の生産性と、製品・サービスの質を両方同時に上げるためになくてはならない道具、“事業の血液”のようなものだと思うのです。これを使わないことはありえず、日本企業には本当の意味での危機感が必要です。しつこいようですが、今がラストチャンスだと思います。

イノベーションはダイバーシティと同義だと考えています。同じような考えの人たちが集まって過ごす中では、イノベーションは生まれません。アメリカのシリコンバレーも中国やインド、中東など世界中から人材が集まっています。その中には、「日本に行きたい」という人もいるはず。もともと異文化に寛容な日本にとっては、非常にチャンスだと思います。

“未来選択会議”で多様な議論を

多様性を認め合う取り組みの1つとして、経済同友会は2020年、立場や主張が異なる経済界や労働界、研究機関などが同じテーブルについて、社会課題を議論する「未来選択会議」を新たに立ち上げました。2021年からは政治や外交、財政やエネルギーなど、さまざまなテーマの分科会を立ち上げ、議論を重ねて政策の選択肢を示す方針です。
櫻田氏
不安定な時代に、議論を1つにまとめて提言を出すのは難しいことです。政治や外交などの問題は経済団体だけでは答えは出せないし、たとえばエネルギーの問題で提言を出しても、産業界のメリットを優先していると捉えられてしまうかもしれません。政治や外交といった大きなテーマの中では、経済団体もステークホルダー(利害関係者)の1つとなって未来選択会議の議論に参加し、複数の選択肢を示したいと思っています。

ウィズコロナ時代の経済界

感染の再拡大で、飲食や観光などサービス業を中心に苦境が続く日本経済。感染対策をはかりながら、経営者の事業継続や雇用維持の後押しを政府に求めるメッセージの発信も経済界には求められています。先の見えない“ウィズコロナ”の時代に、経済再生に向けた存在感を示すことができるのか。経済界にとっても問われる1年となりそうです。
経済部記者
山田 賢太郎
平成14年入局
自動車や電機業界などの取材を経て
現在は経済3団体など財界を担当