北海道 クラスター発生病院 “地方では通常医療の提供困難に”

新型コロナウイルスのクラスターが発生し、今月収束した釧路市内の病院の院長がNHKの取材に応じました。人手や物資が手薄な地方の医療機関でクラスターが発生すると、通常の医療の提供が困難な事態に直結する実情を明らかにしました。

釧路市の釧路協立病院は、ベッド数が135床の中規模病院で、先月、クラスターが発生して看護師と患者の合わせて12人が感染しました。

この病院の黒川聰則院長がNHKのインタビューに応じ、クラスターの発生から今月19日に収束するまでの院内の状況を話しました。

それによりますと、発端は、高齢の新型コロナの感染者を受け入れたことでした。

介助にあたった看護師が感染し、無症状だったため一気に周囲に広がったということです。

感染した看護師は9人に達し、人手不足に陥ったうえ、ほかの診療科のスタッフも新型コロナの対応に専念したため、およそ1か月間、外来診療や手術を中止せざるをえませんでした。

さらに現場を厳しくしたのが、この病院に入院していた新型コロナ以外の病気の患者およそ100人への対応でした。

このうち半数の50人余りに感染のおそれがあるとされ、退院や転院をさせることができなくなったのです。

病院では、これ以上感染を広げないため、看護師が新型コロナの感染者だけでなく、一般の入院患者と接する際にも「N95」と呼ばれる高性能のマスクやフェイスガード、医療用ガウンなどをつけることを決めました。

患者ごとに手袋やガウンを取り替えなければならず、現場の負担は極めて大きかったといいます。

黒川院長は「地方都市の医療機関は医師や看護師の数が十分でなく、院内で感染者が出ると、通常医療を継続することが難しくなる。そうなると地域医療はあっという間にひっ迫するおそれがある」と話していました。

「N95マスク」で新たな発生抑えられる

釧路協立病院では、厚生労働省や日本環境感染学会が示したガイドラインに沿って、医師や看護師はサージカルマスクやフェイスシールド、医療用ガウン、キャップ、手袋などを着けて新型コロナウイルスの感染者の対応にあたっていました。

しかし、高齢の感染者を介助する際に顔と顔の距離が近くなるため、感染を防ぐことができませんでした。

そこで、保健所の指導も踏まえ、「N95」と呼ばれるより高性能なマスクに替えたところ、新たな感染者の発生を抑えることができました。

しかし、N95マスクの備蓄はわずかで、すぐに底をついてしまったため、急きょ国から提供してもらったということです。

今のガイドラインではN95マスクを着用するのはたんを吸引したり、気管挿管をしたりするなど、大量に飛まつが生じる場合となっています。

しかし、黒川院長は、介助のような感染者との距離が近くなる場面でもN95マスクを着けたほうが、感染防護に有効だと指摘しています。

黒川院長は「高齢患者は耳が遠かったり、大きな声を出されたりする人もいて、マイクロ飛まつが患者の周辺に漂っているとみられ、サージカルマスクでは、防ぎ切ることができなかったとみている」と話しています。

「コロナ病棟」と「一般病棟」の両立厳しく

今回のクラスターでは、「指定医療機関」以外の病院で新型コロナウイルスの感染者を受け入れる際の課題も浮き彫りになりました。

釧路市の釧路協立病院は感染症の指定医療機関ではありませんが、釧路市内のほかの病院の受け入れ体制がひっ迫したため、ことし10月以降、受け入れに協力しました。

その際、一般病棟の一部を仕切って新型コロナ専用の病棟としましたが、そもそも建物が隔離を想定した構造ではないうえ、人手が足りない中、当初は看護師などが一般病棟と新型コロナ病棟とを行き来し、院内で感染が広がる一因となりました。

このため、クラスターが発生したあと、新型コロナの専用病棟と同じフロアにある一般病棟の患者も感染している可能性があるとしてフロア全体の隔離に踏み切り、人の行き来を制限したということです。

黒川聰則院長は「あっというまに院内に感染が広がりクラスター化してしまうやっかいなウイルスだ。通常の感染対策で防げないということを経験したので、各医療機関とも共有しながら再び感染が広がらないよう備えていきたい」と話しています。