コロナ禍の冬 非正規の雇用で働く人に深刻な影響

「生活は苦しく精神的にもしんどいです」。
「パートの収入は月に10万円ありましたが、今はそれが0になっている」。
新型コロナウイルスの感染拡大が続くことしの冬。
特に非正規の雇用の人たちへの影響が深刻になっています。

23日、東京 豊島区で開かれた配布会にはお米などの食料品や生活用品、およそ150セットが用意されました。

会場では多くの人が順番待ちの列を作り、中には、新型コロナウイルスの影響で失業したり収入が減少したりして生活に困窮する人もいました。

このうち、埼玉県に住む39歳の男性は、イベント関連の仕事についていましたが、感染拡大の影響でことしの春以降、新たな仕事の紹介がなくなったといいます。

就職氷河期の世代で派遣労働者として働いていて契約を打ち切られたこともあったということです。

男性は「やっとやりがいのあるイベント関連の仕事につくことができて頑張ろうと思っていたやさきに、コロナで状況が大きく変わってしまった。去年の年末は仕事でフル稼働していて、ことしはオリンピックの仕事にもたずさわれるかもしれないと希望を抱いていたのでまさかこういった状況になるとは想像もできませんでした。今は日雇いのバイトをしていますが、生活は苦しく精神的にもしんどいです」と話していました。

パート先の会社が倒産し…

また、がんの治療を続けながら仕事をしているという59歳の女性は、パートと家政婦の2つの仕事で収入を得ていましたが、ことし6月には新型ウイルスの影響でパート先の会社が倒産してしまったということです。

女性は「パートの収入は月に10万円ありましたが、今はそれが0になっている。新しく仕事を探そうにも体調の問題や感染への不安もあって思うように就職活動もできていません。この状況がいつまで続くのか先が見えないだけにつらいです」と話していました。

非正規雇用の人たちへの影響は深刻

主催した「東京地方労働組合評議会」の井澤智事務局長は「新型コロナウイルスの影響は想像以上で、数字として表れている以上に多くの人が仕事を失ったり生活に不安を抱えたりしているのが現状です」。
「特に非正規雇用の人たちへの影響は深刻で、先行きの見通しが立たない中、非常に厳しい冬になっている。失業者は年末以降さらに増えるおそれもあり、私たちもできるかぎりの支援をしていきますが、国のさらなる支援も必要だと思います」と話していました。

正社員になったばかりで…

再就職を支援するため、ハローワークでは職業訓練の紹介に力を入れていますが、雇用情勢の悪化で受講を希望しても狭き門になっています。

東京のハローワーク立川に失業給付の手続きで訪れていた27歳の男性は菓子メーカーで正社員として勤めていましたが、7月末に退職を余儀なくされました。

感染拡大の影響で4月末から派遣社員やアルバイトの雇い止めが始まり、6月末には男性を含めた正社員にも退職の働きかけが始まったと言います。

男性は、家庭の事情で大学を中退したあと、アルバイトや契約社員を転々としてきましたが、「安定した生活がしたい」と、ことし4月に正社員として入社したばかりでした。

仕事を失った男性は、失業給付を頼りに生活していましたが、12月10日に振り込まれた8万円あまりが最後の支給となりました。

職業訓練を希望するも狭き門

男性は、不安定な非正規雇用ではなく、正社員として再び働きたいと考えていますが、職歴が短いため条件の合う求人がなかなか見つかりませんでした。

そこで、再就職に有利な専門性をつけるため、「宅建」の資格取得を目指すことのできる国の職業訓練に申し込むことにしました。

職業訓練は、専門学校などに通うための費用が免除されるほか、失業給付を受け取っていない人には月10万円が支給されます。

男性は、職業訓練に申し込む前に希望する学校の見学に行きました。

すると、定員が14人のところにこの日だけで10人以上が見学に来ていたということです。

ハローワーク立川によりますと、今年度は失業者の増加によって管内の職業訓練への申し込みが増えていて、4月から10月までの合格率は前の年の同じ時期より5.6ポイント落ちているということです。

男性は、職業訓練の受講さえも厳しいことを知りましたが、年明けに予定されている面接に向けて準備を進めるしかないと考えています。

男性は、「職業訓練を受けることが決まれば、勉強しながら生活するためのお金も入ってくるので、学校に合格するかどうかに人生がかかっています。もし落ちたら、家に残っているものを少しでも売って生活していくという方法しか思いつきません。見学者が多かったので倍率が高いとは思いますが、何とか合格して、再就職につなげたいです」と話していました。

「雇い止め」そして50件以上応募も「不採用」

求人のミスマッチが課題となる中、家庭の事情や年齢などから未経験の職種で働くことをためらう人は多くいます。

東京のハローワーク立川の職業紹介コーナーで取材に応じてくれた50代の女性は、派遣社員の事務職として、都内の専門学校で働いていました。

感染拡大の影響で授業のオンライン化やペーパーレス化が進んだことなどから、女性は10月末で「雇い止め」になりました。

女性は、10年以上、派遣社員の事務職としてさまざまな企業で働いてきました。

人材派遣会社と企業の間の契約がなくなってもこれまではすぐに別の企業で働くことができたということです。

しかし、今回は、契約が更新されない「雇い止め」になることがわかった9月中旬からこれまでに50件以上の求人に応募しましたが、すべて不採用や連絡が無い状態が続いていると言います。

この日、女性は事務職の経験を生かせる求人を1つ見つけ、ハローワークの担当者に相談しましたが、採用予定が1人のところにすでに11人が応募していると伝えられました。

女性は、悩んでいる暇は無いと考えて応募し、書類選考のうえで面接に進むことができましたが、後日、不採用の通知を受け取ったということです。

介護が必要な母親と

女性は、現在、介護が必要な80代の母親と2人で暮らしています。

母親は、去年の秋に脳出血で倒れ、右半身を思うように動かすことができないため、リハビリの病院に通っている日中以外はそばで見守る必要があります。

再就職の見通しが立たない中、人手不足と言われる介護など、未経験の職業が頭をよぎったことはあると言います。

しかし、母親との生活を考えると、新たに職業訓練を受けたり、働きながら自宅で勉強したりする余裕は無いと考えています。

女性は、「働く場所があれば、どこでも行かなければいけないという覚悟はありますが、今は自分の経験を生かせるところを探そうと思っています。自分の年齢もありますし、守らなければいけない家族がいますので、未経験の仕事を無理に始めて、私が体を壊したらどうにもなりません。できるだけ早く再就職先を決めて、安心して年末年始を迎えられるように、年内は最後の最後まで求職活動をするつもりです」と話していました。

職業訓練受講者 増加

感染拡大の影響で仕事を失う人が増えたことから、就職に有利な資格の取得を目指すことのできる職業訓練の受講を希望する人も増加しています。

失業者を対象とした国の職業訓練は、主なものは2つあります。

このうち、「求職者支援訓練」は、リーマンショックのあとに非正規雇用で働いていた人の再就職を後押ししようと、2011年10月から始まった制度で、雇用保険に入っていなかったり、失業給付の支給が短期間で終了したりした人が対象です。

厚生労働省によりますと、「求職者支援訓練」を受ける人はここ数年、減少傾向にありましたが、ことし7月に1933人と前の年の同じ時期より22%増え、その後も去年と比較した増加率が20%を上回る状況が続いているということです。

求人 幅広い業界で減少 影響少ない業種も

新型コロナウイルスの影響で企業からの求人は幅広い業界で減少し、特に宿泊業や飲食サービス業、それに娯楽業などでは影響が深刻となっています。

厚生労働省によりますと、業種別の新規求人について去年の同じ月と比べると、▽「宿泊業・飲食サービス業」は5月は55.9%の減少となりその後も8月に49.1%、10月に38.2%、11月に34.7%の減少となっています。

また▽「生活関連サービス業・娯楽業」は5月は44.2%、8月は41%、10月は35.4%、11月は32.9%の減少となっています。

一方で影響が比較的少ない業種もあります。

▽「建設業」は4月は15.8%の減少となりましたが、緊急事態宣言の解除後に公共工事が再開した影響などから6月は2.6%、9月は5.9%増加しています。

また、職種別で見ると、事務職や接客の仕事で求人が大きく減っています。

新規求人を去年の同じ月と比べると、▽「一般事務」は、5月は37.8%、8月は32.2%、10月は26.8%、11月は30.2%減少しています。

コロナ禍でテレワークやペーパレス化などの影響を受けたとみられています。

▽「接客・給仕」は、5月は62.3%、8月は53.6%、10月は37.5%、11月は44.7%減少となっています。

専門家「就労支援にかじ切る時期」

非正規雇用の課題や就職支援のあり方などを研究している法政大学の酒井正教授は「非正規労働者の就職支援を含めたセーフティーネットがぜい弱だということは、リーマンショックでも指摘されていたが、いまだに大きく改善されていないことは憂慮すべきだ。今は非正規が増えているため、当時よりも社会への影響は大きい」と指摘しました。

リーマンショックのあと、厚生労働省は、雇用保険に入っていなかったり失業給付の受給が終了したりした人が、給付金を受け取りながら職業訓練ができる制度を設けました。

酒井教授は、▽こうした訓練の内容や定員を増やしたり、▽ひとりひとりの職歴に応じてきめ細かな支援やアドバイスのできる専門的な人材を育成したりして、再就職の支援をさらに拡充していくべきだとしています。

そのうえで、酒井教授は、「雇用維持という政策だけではなく、長期的に労働力をどう移動させるのか、いつ就労支援にかじを切るのかということを考えなければいけない時期にきている」と話していました。

年の瀬のハローワークは

各地のハローワークには、年の瀬の今も感染拡大の影響で仕事を失った人たちが失業給付の手続きや新たな仕事を求めて訪れています。

このうち東京 立川市にあるハローワーク立川では緊急事態宣言が出されていた4月と5月は訪れる人がまばらでしたが、解除されて以降は開庁する前から多くの人が並ぶようになりました。

6月に失業給付を受けることが決まった人は前の年の同じ時期に比べて84.3%増加し、その後も前の年を上回る状況が続いています。

また、7月以降、失業給付を受けている人は4000人余りとほぼ横ばいで新たな仕事が見つからずに失業給付を受給する期間が長くなっているとみられます。

12月上旬に取材したところ、失業給付の手続きのために朝8時半の開庁から昼すぎまでに200人以上が訪れ待合スペースには入りきらず、廊下で立って待っている人もいました。

ハローワーク立川によりますと、失業が長期化している背景の1つとして、仕事を探している人の希望と、求人のミスマッチがあるということです。

ハローワーク立川管内の10月の有効求人倍率を職業別にみると、飲食や宿泊など「サービスの職業」は1.51倍で、前の年の同じ時期に比べて0.51ポイント下がりました。

また「販売の職業」は0.54倍、「事務的職業」は0.13倍と外出の自粛のほか、テレワークやペーパーレス化などの影響を大きく受けたとみられる職業では求人数が少なく、競争率が高くなっています。

一方、「福祉関連の職業」は2.20倍、「建設の職業」は5.60倍、「警備の職業」は8.54倍と感染拡大の前から慢性的な人手不足だった職業は求人が多くあるものの、希望者が少ない状況です。

ハローワーク立川では、求人の多い業界に目を向けてもらうことで再就職を促そうと、「建設」や「警備」、「福祉」などの業界に絞ったセミナーを定期的に開き、採用面接までつなげる取り組みに力を入れています。

しかし、再就職につながるケースは限られていて、4月から10月までの間にハローワーク立川を通じて就職した件数は、前の年の同じ時期に比べて39.6%減っているということです。

ハローワーク立川の大塚一彦職業相談部長は「求職者に『今は厳しい状況です』と言うのは、非常につらいです。ただ、現実的には、1つの求人に対して何十人も応募するという状況なので、そのような現実を知ってもらったうえで別の職業を紹介しています。失業給付の受給が終わり、何とかしなければいけないという人が、これからどんどん増えてくるのではないかと思っています。企業がどれだけ雇用の維持ができるか、持ちこたえられるかということを、今は強く危惧しています」と話していました。