発達障害の子も インクルーシブ公園の可能性

発達障害の子も インクルーシブ公園の可能性
「この子の親、誰?」

発達障害の7歳の息子を持つ40代の母親は「ほかの親御さんのひと言が心にグサッと刺さるんです」と胸の内を明かしました。
遊具でけがをしないかハラハラしたり、ほかの子に迷惑をかけたらついカッとなってどなってしまい、そんな自分が嫌になったり。
障害があっても公園で一緒に遊ばせたい。そんな母親の願いをかなえる可能性を秘めているのがインクルーシブ公園です。(首都圏局記者 戸叶直宏)

公園が大好きな伊織くん

都内に住む7歳の伊織くん。
小さい頃から活発で公園に行くのが大好きでした。
そんな伊織くんが「自閉症スペクトラム障害」と診断されたのは3歳のときでした。

こだわりが強く、対人コミュニケーションが苦手な特性のある発達障害の1つです。

母親の佳世子さんは、公園では一瞬たりとも気が抜けないといいます。
佳世子さん
「3歳くらいの頃は、他の子がブランコをこいでいるところに入ってけがをしたり、滑り台で順番を守らずに入ってくる子に『ダメだよ』と言って引きずり下ろしたりしたこともありました。何かやるんじゃないか、ほかの子の親から叱られるんじゃないかと常にピリピリと神経を集中させています」

公園に行きたい気持ちを起こさせない

けがやトラブルのリスクを抱えて公園を訪れるたびに気持ちが疲れ、佳世子さんは足が遠のくようになったと話します。
佳世子さん
「もちろん理解して温かい目で見守ってくれる方もいます。ただ迷惑をかけた相手の親にちょっと嫌そうな顔をされただけでもグサッと来るんです。どこの公園に行ってもけがをしたりさせたりしてしまいそうな遊具ばかりですし、どうしてもトラブルが起きてしまうので、もうしょうがないかなと。伊織には公園に行きたい気持ちが起きないよう、ほかに楽しいことがあるよと伝えていました」
そして感じたのは、次のようなことでした。
「一緒に自由に遊ばせたいけど、障害のある側が遠慮するのが当然なのかな、しょうがないのかなと諦めの気持ちです」

6割超「障害者と関わる機会ない」

一般社団法人「TOKYO PLAY」の神林俊一さんによりますと、身内に障害者がいない人に聞き取り調査を行ったところ、「障害者と関わる機会がない」と回答した人が6割を超えました。
一方で障害のある子どもの親への聞き取りでは、次のような理由で公園に「行けない」と答えた人が多くいたということです。
「子どもが嫌な目で見られるのでかわいそう」

「地域の目が痛い」

「暴走して迷惑をかけるのでなるべく人のいないところに行く」
神林さんは障害者と関わる機会がないことが、相手のことがわからないという不安につながり、それによって分断が生まれていると話します。
神林さん
「車いすでは入れない車止めがあったり、遊べる遊具がなかったりするハード面、さらに障害者に対する理解がないというソフト面の両面で、見えない大きな壁があります。障害のある側とない側で分断が起きていて、公園が憩いの場になっているとは言い難い状況です」

遊具メーカーの模索~安全性と面白さの両立

障害のある子もない子も一緒に遊べる遊具をつくることで課題解決につなげられないか。

いま各メーカーでは開発が進められています。
このうち東京の遊具メーカーの北村美佳さんが挑戦しているのは、安全性とチャレンジ性の両立です。

10年以上前、身体障害者向けの遊具をつくりましたが、障害のない子にとってはチャレンジ性に乏しく、面白さが足りないという課題が残りました。
北村さん
「車いす用に長いスロープをつけたところ、障害のない子にとっては傾斜がなくてつまらない遊具になってしまい利用してもらえませんでした。どんな子でも安全にかつワクワクしながら遊べるという難しいテーマですが、やりがいを持ってトライしています」

インクルーシブ遊具の試作

北村さんが完成を目指しているのが、障害のあるなしにかかわらず一緒に遊べる遊具=「インクルーシブ遊具」です。

身体障害だけでなく発達障害や知的障害などすべての子どもたちを対象にしています。
上のイラストは「段違いの砂場」です。

車いすの子が座った状態で砂に触れられるだけでなく、高い位置から低い位置に砂を流し込めるようになっていて、上下でコミュニケーションが生まれやすい仕掛けになっています。
こちらの設計図は、滑り台や壁登りなどを楽しめる「複合遊具」です。

車いすの子でもスロープで途中まで上がると音の出る遊具で遊べるほか、滑り台は横幅が広いため複数の子どもが一緒に滑ることができます。

伊織くんが実証実験に参加

そして開発されたインクルーシブ遊具の実証実験が行われました。
複合遊具では、車いすの小学生の女の子がスロープで途中まで上がったあと、車いすを降りて上までのぼり、ほかの子と一緒に何度も滑っていました。
実験には伊織くんと母親の佳世子さんも参加しました。
伊織くんが興味を示したのは回転遊具でした。

最初は遊具の上を駆け回っていましたが、地面に落下してしまいます。ただ高さが低く設計されているため、けがはありません。

心配そうに見守る佳世子さんでしたが、このあと伊織くんの行動に驚かされます。

立ち上がったあと「みんな行くぞ」とみずから音頭を取って、ほかの子と遊具を回し始めたのです。
遊具メーカーの北村さんによりますと、この遊具はゆっくりとした速度でしか回らない構造になっているうえ、外側で遊具を回す子と内側の座席に座る子に役割分担できるため、伊織くんにとって遊びやすかったのではないかとしています。

佳世子さんは目に涙を浮かべて、こう話しました。
佳世子さん
「知らない子に対して『今からこれを動かすぞ』とリーダーシップをとっているのを初めて見たので驚きました。もともと回ることが好きなんですが、けがの心配がなさそうな遊具だとわかったので安心できました」

障害のある子とない子の接点に

インクルーシブ遊具は、東京・世田谷区の「砧公園」や豊島区の「としまキッズパーク」で導入が始まっています。
また神奈川県藤沢市など全国の複数の自治体が導入に向けた検討を始めています。
一般社団法人「TOKYO PLAY」の神林俊一さんはこうした動きを歓迎する一方で、遊具の設置だけでなく利用者の意識が変わることが大切だと指摘します。
TOKYO PLAY 神林さん
「どれだけ豊かな遊具があってもそれを利用する人たちの理解が広がらないと本当の意味でのインクルーシブにはならないと思うんです。障害のある子とない子の親同士の対話の場をつくったり、コーディネーター役を配置したりするなどの工夫が必要になるかもしれません。公園という場がお互いを理解するきっかけになればと期待しています」

問いかけに伊織くんは

成長とともにことばがよく出るようになってきたという伊織くん。

インクルーシブ遊具で遊んだあと、記者の問いかけにこう答えました。

「楽しかった。また来たい、遊びたい」
首都圏局記者
戸叶直宏
平成22年入局 現在は豊島区・板橋区・北区で地域を幅広く取材 2児の父