パート従業員のストライキ

パート従業員のストライキ
「これまでも不公平だな、おかしいなと思うことはありましたが飲み込んでやってきました。責任ある仕事を任せてもらえるのはうれしいことでもあったんです。それなのに…」

ことし4月、新型コロナの感染拡大に伴って店が休業すると、パート従業員の彼女には休業手当はほとんど支払われませんでした。社員には全額支払われていたといいます。

「社員はうちに生活の基盤があるから守らないといけない。金をくれと言えばもらえると思うのは甘い」

会社からそう説明された時、彼女の中の何かが変わりました。

「おかしいことはおかしいと言おう。コロナ禍でそう思うようになりました」

繁忙期の年末。休業手当の支払いなどを求めて2回目のストライキをしています。たった1人で。(社会部記者 松田伸子)

抱えていたモヤモヤ

首都圏のベッドタウンに住む主婦のあきさん(35歳・仮名)。
大手外食チェーンのカフェで2年前からパートとして働いています。

職場は店長以外はパートとアルバイトで、商品の管理や発注からクレーム対応まであきさんのような比較的、長期間働いているパートの従業員がこなしています。

店長が休みの日には実質的な店長を任されることもありますが時給は1120円。
ほかのアルバイト1100円とほぼ同じです。
あきさん
「人件費を削減するため、1日にシフトに入るパートの数は減らされています。休憩すら取れないくらい忙しいし、残業することもあります。正社員の店長とほぼ同じ仕事をしているのにおかしいなとは思っていました。でも仕事が好きだったし、店長に嫌われたらシフトに入れなくなるので言えませんでした」

欠かせない生活費なのに…

夫が単身赴任のため、あきさんは未就学の子ども2人の世話を1人でしながら週4日働いています。

収入は月におよそ10万円。

家のローンに加えて世帯が2つに分かれていることで生活費がよけいにかかるため、パートの収入があってようやく家計が成り立っています。

そこに新型コロナの感染拡大が起きました。
店は休業になり、4月は3日しか働くことができませんでした。

店長からは給与の6割が休業の補償として支払われる可能性があると伝えられましたが4月の給与明細をみてみると補償されたのは1万5000円だけ。

働いた日の時給と合わせて給与はわずか3万円しかありませんでした。
あきさん
「どう考えても少なすぎると思いました。なんとか補償してもらえないかと考えるようになりました」
この時、店は5月いっぱい休業することが決まっていました。

5月の給与は?休業した分はどうなるの?それまでは店長の顔色をうかがって聞く勇気がありませんでしたが、背に腹はかえられないと思い切って聞くことにしたそうです。

店長とのショートメッセージのやりとりが残されています。
「5月の補償はゼロですか?」

「5月分はゼロです」

その一文だけでほかに説明はなかったそうです。

「有給を全部使いたいです。よろしくお願いします」

このときは店長に有給の消化をお願いし、収入を確保するのが精一杯でした。

しかし時がたつにつれ会社に対する不信感が増していきました。

なぜ休業の補償がされないのか。

理由をきちんと説明してほしい。

でもパートの自分が説明を求めても相手にされないだろう。

そこで6月、パート仲間と学生アルバイトの4人で個人で加入できる労働組合に入り支払いを求めて会社と交渉することにしたのです。
あきさん
「辞めさせられたりシフトを減らされたりするかもしれない。そもそも会社にたてついていいのか。いろんな気持ちがありましたが、それしか声をあげる手段が考えられなかったんです」

社員は守らないといけない

労働組合に加盟して初めて会社との団体交渉に臨みました。
この時、言われたことばがその後ストライキをするきっかけとなります。

あきさんが働く会社は正社員が約600人、パートやアルバイトが約7800人。
正社員には休業手当が全額支払われていたことを知りました。

店は非正規雇用の従業員で支えられているのになぜ社員だけが100%補償され、私たちにはほとんど支払われないのか。

疑問をぶつけると会社側はこう答えたといいます。
「休業は店が入っている商業施設が閉まってしまったからで会社の都合ではないので手当ての支払い義務はありません。義務ではないのに4月分を支払ったことを評価してほしい」
法律では会社の事情で従業員を休ませた場合に平均賃金の6割以上を「休業手当」として支払わなければならないと定められています。

今回の休業は新型コロナの影響で商業施設が閉まったからで、会社の事情ではないため支払い義務はないと会社側は説明しました。

しかし国は雇用調整助成金という制度を活用して企業に対し休業を余儀なくされた労働者に休業手当を支払うよう促しています。

さらに問いただすと厳しいことばを返されました。
「社員はうち(会社)に生活の基盤があるから守る必要がある。金をくれと言えばもらえると思うのは甘くないですか?言ったらもらえると思っているのは全く理解ができない」
あきさん
「店の中心となって働いてきたという自負がありました。それなのに私たちのことをなんだと思っているのか、結局は使い捨てなのか。こんな会社のために一生懸命働いてきたと思うと悲しくて悔しくて涙が出ました」
9月3日。

あきさんはパート仲間と2人で東京・霞が関にある厚生労働省の記者会見室にいました。
休業手当の支払いを求めてストライキをする。
その発表のためです。

会見を見た会社側が態度を変えてくれるかもしれないという淡い期待もありました。

同じ店で働くほかのパートやアルバイトは家族に反対されたことなどを理由に加わってくれなかったそうです。

夫には内緒にしました。反対されると思ったからです。

この頃には仕事や会社に対する考え方が以前とは違っていました。
あきさん
「まさか自分がストライキや、記者会見をするなんて想像もできませんでした。でも会社がこのまま逃げるのは許せないのでできることはやりたい。私たちの決意をわかってもらいたい。自分のことなので自分で決めてやろう。おかしいことはおかしいと言おうと、コロナ禍で思うようになったんです」

1回目のストライキ

本社に通告してこの日(3日)からストライキが始まりました。
休んだ分、収入はまた減ってしまいます。

それでも会社に分かってほしい。その一心でした。

シフトはストライキとは関係なく組まれていましたが出勤せずにいると、一緒にストをしているもう1人の主婦に店長から電話がかかってきました。

「きょうはお休みですか?」

会社はあきさんたちがストライキをしていることを店の誰にも知らせていなかったのです。

ストの期間中あきさんたち2人は欠員扱いとなり、店は通常どおり営業しました。

会社の態度は変わらないままストライキはあっけなく終わりました。

その後、パート仲間はこれ以上嫌な思いをしたくないとパートを辞めていきました。

これだけの決意をもってやっても会社には全く響かなかった。

報われない気持ちのまま働き続けることはできない。

あきさんも辞める決意をし労働組合にも団体交渉はもうやらないと伝えました。

1人でも続ける

繁忙期の年末まで働いて辞めると決めていた12月初め1本の電話がかかってきました。
同じ会社の大阪の店舗でパートで働く主婦からでした。
「団体交渉はその後どうなっていますか?私は会社にたてつくことはできないけれど応援しているので頑張ってください」
状況は何も変わってはいないけれど、やってよかったと思えました。

あきさんは12月17日から今度はたった1人で2回目のストライキをしています。
そして正社員と非正規社員の待遇の違いが法律に違反しているとして、労働委員会に調停を申し立てました。

会社は取材に対し「弁護士に任せているのでコメントできない」としています。
解決の兆しはまだ見えていませんが、あきさんは今後も会社と交渉を続けていくつもりです。
あきさん
「理想論かもしれないし理解されにくいかもしれませんが、雇う側と雇われる側は本来、対等であるべきです。声を上げることは悪いことでも後ろめたいことでもない。全国にいる非正規雇用の人たちの中にはおかしいと思いながらも、いろんな事情で声をあげられない人がたくさんいる。私が声をあげ続ければ、1人でも2人でも一緒に行動してくれる人が出てくるかもしれないという希望を持って頑張ります」