長いトンネル 出口はどこに…

長いトンネル 出口はどこに…
非正規という働き方を選んできたのはわたし自身です。だから、この10か月どうにかして生活を立て直そうと頑張ってきました。でもわたしには今、1か月後の自分の未来さえ見えません。(社会部記者 大西由夏 間野まりえ)

思い知らされた「格差」

東京都内でひとり暮らしをしている40代の男性です。

12月中旬、求職活動の合間にお話を聞かせてもらいました。
男性は、10年前から都内のホテルで、宴会場の設営や配膳を担当するアルバイトとして働いていました。

週に5日、1日13時間ほど働き、手取りは月25万円ほど。

しかし、感染拡大の影響でホテルでの大規模な宴会やイベントは軒並み中止に。

男性のシフトは徐々に減っていき、ことし3月からは全く無くなりました。

4月下旬、男性は職場の同僚から「正社員や一部の契約社員には休業手当が支払われている」と聞きました。

そこでホテル側に確認すると、次のような答えが返ってきたと言います。
「働く日が決まっていたわけでは無いので、休業手当の対象ではありません。感染状況が落ち着けば宴会やイベントも再開すると思います。そのときには、またお願いします」
電話を切ったあと、男性は初めて「格差」を思い知らされたと言います。
男性
「何もない時には、自分の働き方のほうが自由で身軽ですし、同じくらいの給料がもらえるなら非正規のほうがいいと思っていたくらいです。でも、こんなことになって、初めて『あ、会社からしたら違ったんだな』って、痛感しました」

7月「もうダメかなって」

休業手当が出ず、3月から事実上の失業状態となった男性の残高はみるみる減っていきました。

男性に銀行口座の通帳を見せてもらいました。
6月9日に国の特別給付金で10万円が振り込まれて残高は「13万5024円」になりました。

しかし、次の仕事が見つからないために残高は再び減り、7月27日には「2万7001円」に。

切り詰めても食費や光熱費、求職活動に必要なスマートフォンの通信代など、どんどん手元からお金は消えていきます。

底をつくかと思った7月29日、国の貸し付けの1つ、「総合支援資金」の審査が通り、15万円が振り込まれたということです。
男性は、この当時の心境を次のように話していました。
男性
「もうダメかなって、思った時に、貸し付け金が振り込まれて、生き延びることができました。この時は、このお金を受け取れている間に、感染状況が落ち着いてくれたら、また宴会サービスの仕事が見つかるって。今思えば、甘かったかもしれないですけど」

休業支援金「大企業は対象外」

新たな仕事が見つからない中、男性が国の貸し付け金のほかに頼ろうと考えたのが「休業支援金」でした。

「休業支援金」は、企業の指示で休業をしたにもかかわらず、休業手当が受け取れずに困っている労働者が国に直接、申請できる制度です。

国が緊急的な支援策として、7月に設けました。

この制度では、シフト制で働く非正規雇用の人も、過去の給与明細や労働条件が記された書類などがあれば、休業前の賃金のおよそ8割が支給されます。
男性は、わらにもすがる思いで手続きの方法を調べたと言います。

しかし、申し込み書類をよくみると、対象外だということがわかりました。

阻んだのは「大企業」という壁です。

国は、「大企業は助成金を活用するための事務処理能力や資金繰りの余裕がある」などとして、大企業の従業員を休業支援金の対象から外しているのです。
大企業でも休業手当が支払われないケースは相次いでいます。
男性は、勤め先の規模でだけ線引きをされたことに、今でも納得がいかないと言います。
男性
「国からしたら『大企業』なんだから休業手当を出す余裕があるでしょうということなのかもしれませんけど、アルバイトに対しても会社が『大企業』としての振る舞いをしてくれるわけじゃない。ひとりひとりの事情をわかってほしかったです」

「どう生きていけば」

雇用保険に入っていなかった男性に失業給付は無く、「総合支援資金」と家賃の補助となる「住居確保給付金」が、この半年間の生活を支えてきました。

しかし、6月に申請した「総合支援資金」は延長をしたものの、12月が最後の振り込みでした。
男性は、少しでも収入を増やすため、10月から週3日、1日3時間ほど有料老人ホームで清掃のアルバイトを始めました。

ほかにも単発のアルバイトが見つかれば働き、12月の収入は合わせて15万円を超えました。

しかし、これによって「住居確保給付金」の収入の要件を満たさなくなり、1月末にはこの給付金も打ち切りになる見通しです。

一時的に収入は増えたものの、男性に安定して続けていける仕事は見つかっていません。

年明けからは清掃の仕事から得られる月4万円で生活せねばならず、どう生きていけばいいのか、まだ先行きは見えていないと言います。
男性
「春にはアパートの更新があり、追加で8万円支払わないといけないんですけど、このままだと無理なので。いまさら田舎にいる高齢の親を頼って実家に帰るわけにもいきませんし、家が無くなったら地方の宿泊施設で住み込みの仕事を探すか、…ほんと、この状況、いつ終わるんですかね」

非正規雇用で長引くコロナの影響

NHKでは、新型コロナウイルスの影響で仕事を失った多くの人に取材を続けてきました。

その中で、圧倒的に多かったのはアルバイトや派遣など、非正規で働く人たちです。

国の調査でも、その影響は大きく表れています。
総務省の労働力調査では、ことし、正規雇用で働く人の数は前の年に比べて大きく減少しなかった一方で、非正規雇用で働く人の数はことし3月から8か月連続で大幅に減少しました。

その減少幅は緊急事態宣言のあとに拡大し、7月には前の年の同じ時期に比べて131万人も減少。

その後、徐々に減り幅は緩やかになりましたが、それでも10月は依然として前の年の同じ時期より85万人も少なくなっています。

非正規雇用で働いていた人たちの雇用は、長期間にわたって失われたままなのです。
また、休業者数についても、非正規雇用で働く人に大きな影響が出ました。

最も休業者が多かった4月には、前の年の同じ時期に比べて240万人増加。休業者の増加人数は、正規雇用で働く人の2倍以上となりました。

緊急事態宣言が解除されて以降は減少したものの、10月にも非正規雇用の休業者は前の年に比べて12万人増。

正規雇用(同2万人増)の休業者と比べて影響が大きくなっています。

こうした状況について、厚生労働省は次のように話しています。
「新型コロナウイルスの影響が非正規労働者や女性など、立場の弱い人に大きく生じている。業種によっては求人が戻っておらず、10月の労働力調査でも、非正規労働者の減少が大きく、それだけ仕事が見つからないという状況が伺える。このため、今後は、これまでの業種とは異なる分野へのキャリアチェンジも含めて、再就職に向けた支援を拡充していきたい」

悩みながらも未経験の業界へ

感染拡大の影響で奪われた仕事を、どうすれば取り戻せるのか。

私たちがこれまでに取材した人の中には、未経験の業界に飛び込み、再就職したという人もいます。
11月下旬、連絡をくれたのは神奈川県内でひとり暮らしをしている60代の女性です。
「とりあえず、介護の仕事に就き、初任者研修も受けてます!頑張ります!」

女性は、バス会社のパート従業員として、学校前の停留所で学生の定期券を確認するなどの業務を担当していました。

しかし、感染拡大の影響で3月から学校が長期間、休校になり、女性は休業状態に。

休業手当は「シフトが決まっていなかったから」という理由で支払われず、7月には退職を余儀なくされました。

国の「休業支援金」も、さきほどの男性と同様、「大企業」の壁に阻まれて申請できませんでした。
話を聞かせてもらった8月下旬は求職活動中でしたが、8月の神奈川県内の有効求人倍率は0.75倍と、全国で2番目の低さでした。

一方、介護業界の求人は多く、女性は年齢や体力から続けられるかどうか悩みながらも、次のように話していました。
女性
「自分の親の介護はしましたけど、仕事としては全くの未経験なので悩んではいます。でも、残りの貯金を考えると、再就職が決まらないまま頑張れるのはあと1か月、2か月かな。その先を考えると、厳しいです」

再就職も「別のトンネルに入った」

その後、女性に改めて話を聞きました。

9月下旬からグループホームで週5日、1日8時間のパートとして働き始めたということでした。

同時に介護職員初任者研修の受講を始め、12月、無事に終了したと言います。
今は国家資格の介護福祉士を目指して、次の研修に進んでいると話してくれた女性。

収入は月15万円ほどで、これまでの生活を取り戻しつつあると言います。

しかし、女性は介護の仕事にやりがいを感じながらも、この先に、まだ希望を持ててはいないと話していました。
女性
「食べていかないといけないので、介護はこの先、絶対、食いぶちに困らないだろうと思って飛び込みましたが、利用者に寄り添いながらの力仕事で、やりがいはありますが心も体も本当に疲れます。死ぬまで働くつもりでいますが、年齢もあるので、もしここで体を壊して働けなくなったら、どうなるんだろうと。真っ暗のトンネルの中に光が見えたところに、また別のトンネルに入った感じかな」

「しかたがない」のか?

長引く休業からの、失業。

そして新たな仕事を見つけたとしても安定した生活とは言えない。

新型ウイルスの影響は、薄れるどころか日を追うごとに深刻なものになっています。
ホテルの宴会場で働いていた男性は、取材中、何度も「しかたがない」と言いました。

その意味を聞くと。
男性
「アルバイトは自分で選んだ働き方ですし、自分が好きでやっていた職業なので、コロナでこうなってしまったのも、全部自分のせいだと思って。だから『しかたがない』と思っています」
非正規という働き方は、企業や社会の求めに応じて増えていきました。

それが、新型ウイルスの感染拡大という誰もが予想していなかった事態の中で、もともと抱えていた「不安定さ」があらわになりました。

これを、「自分で選んだ働き方なのだからしかたがない」と、個人の責任だと考える人が多くいると感じます。

このことがコロナ禍で生活に困窮しても声をあげづらい人を増やし、実態を見えづらくしていると思います。

すべてを個人の責任にしていいのでしょうか。

私たちは皆さんの声をもとに、これからも取材を続けていきます。

ご意見や情報提供をお待ちしています。
年末年始の相談窓口(厚労省まとめ 12月21日現在)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000708298.pdf
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