1日1食、もう慣れました

1日1食、もう慣れました
「1日1食、もう慣れました」

その学生は、さらっと話してくれました。
見た目は、ごく“普通”の今どきの学生。
しかし、思いもよらない苦境に立たされていました。
私たちの身近にいる、たとえば、街なかですれ違う学生も、実は同じ状況なのかもしれない。そう感じさせられました。(ネットワーク報道部 馬渕安代 仙台放送局 大森貴史)

「自分と同じような学生 食べ物にも困っている」

年の瀬を迎え、新型コロナの影響を受けている人への支援の動きが広がっています。

仙台放送局に勤める私(大森)は、取材を通じて知り合った支援団体の代表を通じて、仙台市内で学生に食糧を配る活動が行われていることを知り、話を聞いてみることにしました。

紹介されたのは、支援活動に加わっていた仙台市内の男子大学生。

彼はまだ数人の大学生としか話をしていない、と断りながらも、気になることを言いました。
「一見すると、自分たちと同じように見える学生が、日々の食べ物にも困っているんです」
新型コロナの影響が再び深刻化する中、学生たちの置かれている状況はどうなっているのか。

きちんと調べなければならないと思いました。

実際に話を聞いてみると…

首都圏でも状況は同じなのか。

週末の19日、川崎市で学生たちを対象にした支援活動が行われるということを知り、記者(馬渕)が現地に足を運びました。
会場は、市内の大きな会議室。入ってすぐに目に入ったのは、お米やインスタント食品など1週間分の食料が詰め込まれた大きなバッグでした。バッグの中身とは別に、パンや缶詰めなど、好きなものを選んで持ち帰れるようになっていました。
会場には、チラシやインターネットなどを通じて知ったという市内の大学生や留学生、専門学校生が次々と訪れ、キャリーバッグに詰め込んでいきました。
会場の一角には相談コーナーも設けられていました。
支援活動を企画した川崎市の社会福祉協議会は、深刻なケースは行政の窓口につなぐとともに、働き口がなくて困っている人向けに、地元の社会福祉法人や企業から寄せられたアルバイト情報も紹介していました。

「削るのは食費 全く食べない日も」

開場から間もなく、私は相談コーナーで1人の女子大学生が熱心に話を聞いているのに気がつきました。

紫に染めた長い髪が印象的な、音楽大学の3年生。親元を離れ、1人暮らしをしているといいます。

家賃や光熱費は奨学金でまかない、親からの月に3~4万円の仕送りを生活費にあてているそうです。
生活費の不足分や授業で使う楽譜などは、これまでうどん店のアルバイトを週に4~5回入れてまかなっていたそうです。しかし、新型コロナの感染が拡大した3月ごろからアルバイトは減り続け、今ではほぼ行っていないといいます。

「支出のうち削るのは食費」というこの学生は、うどん店のアルバイトに入っていたときは、不自由を感じなかったそうですが、今は1日に1食のみ。全く食べられない日もあるというのです。
洋服や娯楽などにも今はお金は使っていないといいます。

「仕送り増やして」なんてとても…

思わず、親を頼ることはできないのか聞いてみましたが、彼女は笑って否定しました。
女子大学生
「親をこれ以上頼ろうという気持ちはありませんし、『仕送りを増やして』なんて、とても言えません。音大は学費がすごく高いので、これ以上出してもらうのは申し訳ないんです。きょう話を聞いた福祉分野のアルバイトは、これまで考えたことがなかったのですが、資格を持っていなくてもできる仕事があるようなので、学業を続けるためにも本気で探してみようと思います」
打楽器を専攻し、来年は4年生。

今後のことを聞くと…
「そもそも就職できるかわからないので、生きていけるのかな、という不安はあります」

一見すると、明るくおしゃれな女子大学生が、食事すら満足に食べられていない状態にあるということに、心底驚きました。

しかし、彼女だけが特別、という訳ではなさそうでした。

会場に訪れた学生に声をかけていくと、皆、同じようなことを話すのです。

「アルバイト以外、ずっと家」

午後に会場を訪れた大学2年の男子学生2人組も、アルバイト代を生活費にあてていましたが、シフトが激減し、ほかのアルバイト先を調べるため、相談コーナーを訪れていました。
2人は同じ学部に通う友達どうしでいずれも1人暮らし。弟もいて、“これ以上親の仕送りを頼れない、頼りたくない”、という状況も似ていました。
さらには、2人とも食費を削った結果、1年前に比べて5キロほど痩せたそうです。
男子学生Aさん
「食事はだいたい1食。最初はきつかったように思いますが、家から出ないので、もう慣れてしまいました。自分の周囲にいる1人暮らしの人は、結構同じような感じです。体重が落ちて、痩せ細っている人もいます」
男子学生Bさん
「奨学金も借りているので、負担を増やしたくない。理系なので実験があり、学費は高いのですが、ことしは1回も実験していません。授業がオンラインになって人と話す機会がなくなり、家からも出ていません。アルバイト以外はずっと家に引きこもっている状況なんです。こういう生活が続いたら精神的にしんどいんじゃないかと思います」

今は支えるので 学業続けて

この日、会場には学生や留学生など合わせて75人が訪れました。

主催した川崎市社会福祉協議会の平林秀敏さんは、支援を今後も続ける必要性を痛感しているといいます。
平林主任
「10月以降、大学関係者から『生活に困っている学生が増えている』という情報が相次いで寄せられ、孤立しがちな年末年始に向けて支援活動を行うことにしました。実際に『帰省もできず、コロナで苦しくなっている実家にも手助けを求められない』という学生からの声も寄せられていて、支援が不可欠だと思っています。今は自分たちが支えるので、学業を続けて社会に貢献できるようになってほしいという思いで、たくさんの人が協力してくれました。継続的な支援が必要だと思っています」

“仕送り減った”という声も

食事や暮らしへの影響が深刻化している実態は、山梨県内のNPO法人が行ったアンケートでも明らかです。

「フードバンク山梨」は、10月と11月に食糧を支援した2つの大学の学生、109人を対象にアンケートを行い、79人から回答を得ました。
●1人暮らしの学生のうち
▽仕送りなし…57%
▽仕送りあり…43%

●仕送りある学生のうち
▽新型コロナの影響で仕送り減った…69%
▽影響なし…31%

●食生活の変化(複数回答)
▽食事は十分食べている…45%
▽1回の食事量を減らしている…24%
▽インスタント食品が増えた…24%
▽1日の食事回数を減らしている…17%
▽炭水化物だけの食事が増えた…17%
アンケートを行ったNPO法人は「第3波によって、影響がさらに拡大している印象を受ける。年末年始で学生が孤立を深めないよう、支援を続けたい」と危機感を強めています。

国や大学の支援は?

政府や大学、専門学校なども、もちろん支援を続けています。

国が春以降、支給したのが「緊急給付金」。困窮する学生などを対象に1人10万円から20万円を支給しました。

影響の長期化を受けて文部科学省は、学校の手続きミスなどで、本来対象になるのに、給付を受けられなかった学生などに改めて手続きを促すほか、低所得の家庭向けに授業料を減免する制度の活用も呼びかけています。また、アルバイト収入が大幅に減った学生などに無利子の奨学金を再募集する方針も明らかにしました。

大学や専門学校も支援をしています。11月に文部科学省が行った調査では、全国の大学や短大のうち回答した学校の71.8%で、経済的に困窮する学生に授業料などの減免を独自に実施していました。
また、専門学校でも、後期の授業料の納付猶予を実施したのは、94%にのぼりました。

困窮が“普通”のことに

学生の困窮問題に詳しい中京大学の大内裕和教授は、今の学生たちを取り巻く環境について、次のように指摘しています。
中京大学 大内教授
「学生たちを取り巻く環境はもともと厳しく、学費が高騰している一方で、親の所得の減少に伴い、仕送りが減少し続けていた。アルバイトがないと大学生活が続けられない学生が多数だったところ、コロナ禍で命綱だったアルバイトができなくなった。ぎりぎりに追い込まれている学生は少数派とはいえない状況だ。困窮がある意味“普通”のことになってきている」
そのうえで、国や大学の支援について一定の効果はあったとしつつも、まだ十分ではないとしています。
中京大学 大内教授
「一部の学生には届いているのかもしれないが、制度には様々な条件がつけられていて、支援が必要な多くの学生が、対象からこぼれ落ちている可能性がある。困窮している学生の範囲は支援する側が思っている以上に広く、認識のずれがあると感じる。特定の少数の学生を対象にするのではなく、支援の対象を広げていくべきだ」

「大学生ってもっとキラキラしているイメージだった」

学生たちの困窮の度合いは想像以上でした。
しかし、経済状況よりもむしろ深刻だと思ったのは、将来に対する希望や期待を感じさせるようなことばが、全くといっていいほど聞かれなかったことです。
「いまは全部我慢して、食費や生活費のことだけを考えて生活している」

「大学生ってもっとキラキラしているのをイメージしてきたけれど、思っていたのと全然違う」

「知識がついた気がしない。大学生という実感がない」
屈託のない笑顔をみせながらも、言葉の端々には無念さがにじんでいました。

私も感じました。

「本当はこんなはずじゃなかったのに」

この思いを伝え、少しでも支援につなげられるように、取材を続けていきたいと強く思いました。