パナソニックはどこに向かうか?

パナソニックはどこに向かうか?
大手電機メーカー、パナソニックが揺れている。創業103年目、グループ全体で26万人が働く、日本を代表するものづくり企業だ。しかし、ここ数年、事業売却や撤退の表明が相次いでいる。会社は来年4月に経営トップが9年ぶりに交代する。そして2022年4月には持ち株会社へと移行するという。巨大メーカーは一体どこに向かうのか、取材を進めると根深い課題が横たわっていることが見えてきた。(大阪放送局記者 甲木智和・谷川浩太朗)

あの勢いはどこに?

格闘家のボブ・サップ氏が金色に輝く巨大なボールを会場に投げ入れ、野太い声で「ディーガ!」と絶叫する。ブルーレイ・DVDの録画再生機の新商品発表会の1シーンだ。会場は明るく、勢いが感じられた。しかし、これは残念ながら最近開かれたものではない。2004年3月、電機業界が“デジタル家電景気”に沸いていたころ、旧松下電器産業が行った記者発表会だ。
かつて薄型テレビやビデオカメラ、冷蔵庫からドライヤーに至るまで、私たちの生活を便利で豊かにしてくれる革新的な家電製品について、インパクトのある記者発表会を開き、製品を世に送り出してきた現パナソニック。最近では、派手な記者会見はめったに開かれず、送られてくるプレスリリースは事業撤退に関するものが目につく。
ことし10月29日に発表した2020年4月から9月までの中間決算では最終利益が前年同期比で51%減少し488億円。年間の営業利益率は2%の見通し。会社の価値をあらわす株式の時価総額は2兆9100億円余りで、ライバル、ソニーの時価総額(13兆1200億円)の4分の1以下だ。同じメーカーでも、ダイキン工業(6兆4700億円)、村田製作所(6兆300億円)、日立製作所(4兆400億円)などに大きく差をつけられている(いずれも12月21日時点)。新型コロナの影響を受けたとはいえ、精彩を欠いていると言わざるをえない。

大企業病からの脱却

パナソニックの現状をどう理解すればいいのか。その本質を捉えるには、時計の針を戻さなければならない。時は2000年。旧松下電器産業は当時、創業者、松下幸之助氏が確立した「事業部制」の弊害に苦しんでいた。
事業部制とは、テレビや冷蔵庫、洗濯機などの製品ごとに、開発から生産、そして営業までを一元的に管理する仕組みのこと。事業部ごとに競い合うことで数々のヒット商品が生まれ、旧松下電器は日本のエレクトロニクス産業を代表する存在となった。

しかし、会社の成長とともに、事業部は増え、別々の事業部が同じような商品を開発する、非効率的な状況が目立つようになってしまった。

当時の社風を表す、こんなエピソードを聞いたことがある。ある顧客の家にテレビ事業部の担当者がテレビを納入しにいった。客はVHSデッキもだいぶ古くなったのでそろそろ交換しようかと相談したら、「それはビデオ事業部ですからそちらに相談ください」とテレビ事業部の担当者は答えたというものだ。
「自分の部署の業績さえよければそれでよし」という「大企業病」を打破しようとしたのが第6代の社長を務めた中村邦夫氏だ。2000年に社長に就任するや「破壊と創造」をスローガンに掲げ、伝統の事業部制を廃止。業務内容ごとに横串を通すように組織を再編したのだ。大規模な早期退職の募集など、痛みを伴う改革も次々と進め、結果、会社はV字回復を果たした。

プラズマテレビというくびき

その中村氏がこだわり続けたのがプラズマテレビの事業だ。電機メーカーにとって、テレビは「リビングの主役」であり「家電の王様」という意味合いが当時は今以上に強かった。薄型テレビの覇権を握ろうと中村氏はプラズマに巨額投資を行って製品開発にエネルギーを注いだ。動画応答性がよく、暗い映像の表現力に優れるなど、画質の良さには定評があった。

しかし、主に韓国のメーカーが、低価格の液晶テレビを売り始めたことで、テレビの市場価格全体が下がり、プラズマは劣勢に立たされた。巨額の投資が尾を引き、次の代の社長、大坪文雄氏は撤退の決断ができず赤字が積み上がり、業績悪化に拍車がかかってしまった。

撤退を決断したのは、今の津賀一宏社長だ。

津賀改革とは

2012年に社長に就任した津賀氏。カンパニー制を導入し、実質的に事業部制を復活しつつ、各事業の柔軟な連携をしやすい形を目指した。
就任のよくとし、2013年1月、ラスベガスで開かれた世界最大の家電ショーCESで「大きな成長が期待できるBtoB事業を徹底的に拡大していく」と発言した。BtoBとはBusiness to Business、企業向けのビジネスという意味だ。

これまでの消費者向けのBtoCから企業向けビジネスに大きくかじを切る。これが津賀社長の改革の大きな柱だ。

一般的に消費者向けのBtoCビジネスはニーズの変化が激しく、価格競争も厳しい。世界でブランド力を保ちながら利幅を確保するというのは並大抵の努力ではできない。それよりは一般消費者からは遠いが企業向けのBtoBビジネスで利益をあげていこうというものだ。この戦略のもと、アメリカの電気自動車メーカー、テスラと提携し、車載用電池の事業で大規模投資を行ったほか、トヨタ自動車とも車載電池で提携を結んだ。

また、ことし5月にはアメリカのソフトウェア会社に860億円を出資すると発表。この企業は、工場や倉庫と、店舗の売り場を、効率的につなぐシステムの開発を手がけていて世界中に3300社を超える企業を顧客に持つ。顔認証技術やセンサーなどパナソニックが得意とする製品を活用し、売り上げの拡大をねらっている。
津賀社長は中村元社長が打ち出した破壊と創造について、NHKの取材にこう述べた。
「中村元社長は重くて遅い社員の精神構造を破壊した。私はさらに軽くて柔軟にした。さらに社外との協業も盛んになり、外部から幹部も呼んだ。これは創造にあたるのではないか」
「改革者」と呼ばれてきた津賀氏だが8年以上陣頭指揮をとったものの、会社を大きく変えることは難しかった。それはなぜなのか。

実行者がいない?

多くの社内外の関係者を取材して聞こえてくるのは「津賀改革の理念やビジョンは正しかったが実行に問題があった」というものだ。

経営者が崇高な理念を打ち立てても、それを支える人、実行に移す幹部が社内にいなくては社長といえども目標を達成するのは難しい。ソニーや日立製作所にはトップのビジョンを実行する人材が必ずいたが、パナソニックには津賀社長を支える人材が不足していたのではないかという指摘だ。

“大松下主義”

そして、もう1つ、パナソニックの改革を阻んだものに、「大松下主義」がある。パナソニックの社員は大きく分けて2つのタイプに分かれると社員たちは言う。「外の血を入れてでも変革しなくては」というタイプと、「大松下なんだから、今の事業を変えなくていい」というタイプの2つだ。後者の“大松下主義”の社員が実際には多数派を占めていて、会社を変えることに抵抗しがちだという。

ある中堅社員は今のパナソニックの社内状況を次のように語った。
「それぞれの組織が仕事を奪われたくないという発想になってしまい、効率化が進まない。売れるものが何かを見極める人材がパナにはいないんや」

吉と出るか?持ち株会社移行

今回、トップ人事とともに発表されたのは、2022年4月に持ち株会社に移行するという組織改革だ。持ち株会社「パナソニックホールディングス」の傘下に8つの事業会社をぶら下げ、それぞれ責任と権限を明確にして意思決定を早めるねらいがあるという。

記者会見で次期社長になる楠見雄規常務は「核となる事業に他社が簡単には追いつけない強みを持たせていく一方、競争環境から、どう考えてもそういう状態になりえない事業は、冷徹かつ迅速な判断でポートフォリオから外す」と述べている。つまり不採算部門は、事業売却などで切り離すと明言しているわけだ。

一方で、こんな懸念を抱く関係者もいる。持ち株会社傘下とはいえ、事業会社は1つの会社だ。現在のカンパニー制より1社ごとの独立性は強まる。事業会社のトップが「利益そこそこだしてんねんからとやかく口出さんといて」と言って、持ち株会社のコントロールが効きにくくなるおそれもあるという指摘だ。

新しい経営体制には、トップの理念を実行に移す強力な「右腕」が必要になるし、変化に柔軟に対応するよう社員の意識改革も求められることになるだろう。

技術力を会社の成長に

耐久性が高く電池のもちがいいノートパソコンや、旧三洋電機から受け継がれた電池のノウハウに、世界最高水準とも言われる顔認証技術。パナソニックには世界トップレベルの技術力がたくさんある。これらの技術をどう会社の成長にむすびつけていくのか。新型コロナウイルスの感染拡大で、今は世界経済に急ブレーキがかかった状態だが、収束後、経済が加速を始めたときに、グローバル競争に挑むことができる体制づくりと、経営の実行力が問われている。
大阪放送局 記者
甲木 智和
平成19年入局
大津局、経済部を経て大阪局で経済担当
大阪放送局 記者
谷川 浩太朗
平成25年入局
沖縄局を経て地元・大阪で経済取材を担当