「ひとり正月は寂しくないよ」

「ひとり正月は寂しくないよ」
「年末年始は静かにすごして欲しい」
「帰省は慎重に検討を」

年の瀬を迎え、お正月はどうしようかと考え始めた矢先、テレビから流れてきたのは専門家たちのこんな呼び掛けでした。じゃあ、どう過ごしたらいいの…。30代、独身、ひとり暮らしの女性記者が、調べてみました。(ネットワーク報道部 谷井実穂子 杉本宙矢)

ひとり、正月に何しよう?

私は去年まで年末年始は、友人と飲みに行ったり旅行に行ったり、ほとんどが誰かと外出して過ごしてきました。でも、ことしはできません。

じゃあ、実家に帰省しようかと思ったら高齢の両親からは「帰ってくるならできればPCR検査を受けてほしい」とのこと。そこまでして帰らなくてもいいかなと思いつつも、年末年始をひとりで過ごすことを想像すると正直、不安になります。

もちろん年末年始も仕事だという人たちからは、何を言っているのかとお叱りを受けるかもしれません。
今月行われたNHKの世論調査で年末年始に帰省や旅行をするかと聞いたところ「する」はわずか5%。「しない」は81%にのぼり多くの人が外出せず自宅を中心にすごすことがわかりました。

SNS上にもひとり暮らしとみられる人たちから「さすがにひとりで年越しは寂しい」「年末年始の休みひとりで何しよう」といった投稿が目につくようになってきました。

では、私が代表してひとりでも楽しく新年を迎える方法を調べてみよう。

ということで既婚の後輩、男性記者を巻き込んで取材してみたところ、日ごろからひとりの時間を楽しんでいる「ソロの達人」たちがヒントを指南してくれていることがわかりました。

“ソロの達人”たちのお正月は?

まず話を聞いたのは、46歳の独身男性ユーチューバー「やっちゃんねる」さんです。
ひとり暮らしの日常を紹介する動画で人気を集め、チャンネルの登録者数は14万人を超えています。

昔から集団生活になじめず、脱サラして起業したものの失敗。借金を抱え、工場で住み込みで働いていたことしの春から動画配信を始めたという経歴の持ち主で、ひとり暮らし歴は20年になるということです。

年末年始は近くの実家に1泊で帰省する以外は、ひとりで過ごす予定です。

何をして過ごすのか聞いてみると年越しそばの「そば打ち」「雑煮作り」と何とも正月らしい予定が。

年越しそばを打つためにまずは作務衣をネットで探しているという気合いの入れようです。

さらに、アウトドア好きの人にはと「たき火」をおすすめしてくれました。
ホームセンターなどで売っているたき火台とまきさえあればできる手軽さが魅力だそうです。

「冬にひとり、たき火をぼーっとながめるなんて最高ですよ」と、いきいきと語ってくれました。
ただ、空気が乾燥する冬は火事の危険性がどうしても高まるので、安全な場所を慎重に選ぶ必要があります。

なぜ、ひとりの日常を紹介するのか聞いてみると。
「やっちゃんねる」さん
「妻子はいないですし、友達もそんなにいないので、守るものがなかったんです。だから動画で自分の私生活をすべてさらけ出すことができ、多くの人に見てもらえたのだと思います。ひとりは誰に気兼ねすることもなく、自由で楽しいです。『ひとりも悪くない。結構楽しい』ということを伝えられたらと思ってます」

「やりたいことリスト」でひとり時間充実

そば打ちに、たき火かあ…。

おもしろそうだけど私には少しハードル高いなあ、ということで、続いて話を聞いたのは、ライターの朝井麻由美さんです。
朝井さんは私生活での実践をもとに「ソロ活」の楽しみ方に関する記事を数多く執筆しています。

まず、朝井さんが熱く語ってくれたのは「きのこ栽培」の面白さです。
自宅の部屋でしいたけやエリンギ、なめこを育てたそうですが、1番おすすめはしいたけとのこと。

どんどん成長していく姿を観察するのが楽しいのだとか。

さらに、最近では「オリジナル酒造り」にも挑戦しているといいます。
ゆずやコーヒー豆、しいたけをそれぞれ焼酎の一種のホワイトリカーと氷砂糖を一緒に瓶に入れて漬けておくだけでできるそうで「漬け込めば漬け込むほど味がまろやかになっていくので変化も楽しめます」と、魅力を語ってくれました。

これなら私にもできるかもしません。

それにしても多趣味でうらやましい…とつぶやくと「やりたいことリスト」を作るという秘策を教えてくれました。
朝井麻由美さん
「例えば誰かのブログを見て『これいいな』と思ったら、すぐにメモしておくんです。私の場合だとチャイを作りたいとか、梅干しを作りたいとか。リストにしてストックしておいて、年末年始など、時間がたくさんある時にやってみたらいいと思います。『向いてなかったら途中でやめてもいい』といった軽い心持ちでいろいろと試してみて好きなことを見つけていくのが、ひとりの時間を楽しむポイントです」

ひとり正月はもう当たり前?

さらに調べていると新型コロナウイルスの影響で時代は一気に「ひとり正月」に傾いている?そう思わされる現象が起きていることも見えてきました。

それはお正月の象徴「おせち料理」にも。
おせちを販売するサイトの運営会社によると「ひとり用おせち」の売り上げが11月の時点で去年と比べて、およそ10倍になっているというのです。

えび、かずのこ、黒豆に栗きんとん。

おなじみの食材が1人分ずつ小分けにしたおせちで、最近はコンビニでも目にするようになりました。

運営会社の担当者は「感染防止のため取り分けることを避けるために家族が人数分買うケースもありますが、帰省しない人が1人で楽しむというケースも増えているのでは」と話します。
そして、ついつい食べ過ぎてしまうのもお正月の常。

なまった身体をほぐすには運動が欠かせないということで雑誌などで調べてみると、スポーツ施設でもひとり客を当て込んだあれやこれやのサービスが見つかりました。

たとえば「ひとり守備練習」。バッティングセンターで機械から繰り出されるボールをひとりで受け止め、守備の練習ができます。

他の人との接触を避けてひとりでコースを回ることができる「ひとりゴルフ」のサービスを始めたゴルフ場も現れました。

千葉市にあるショッピングモールで楽しめるのは「ひとり卓球」。相手になるのは、専用の卓球マシンです。
ラリーこそできませんが、スピードや曲がり方が異なる100球ほどが次々に打ち出され、換気の行き届いた施設の中で初級者から上級者までたっぷり楽しめるということです。
塩川菜々子店長
「家にこもりがちになったり、年末年始もあまり出かけないという人もからだを動かしに来てほしいです。もちろん、おひとり様でも大歓迎です」

おひとりさまのための…

こうした数々の現象をいち早くつかんで発信している情報誌を見つけました。

その名も『おひとりさま専用Walker2021』。
3年前からおひとり様向けの情報を専門に発信しているこの雑誌。

最新号をめくってみると定番の「ひとりメシ」からいま人気の「ソロキャンプ」、ひとり用の家電製品を使った「ソロパーティー」まで、お正月にも使えるおひとり向けの情報が満載でした。

いったいどんな思いでつくったのか。

「東京ウォーカー編集部」で企画を担当した中村茉依さんに話を聞きました。

自身も「おひとりさま」だという中村さん。
企画&編集担当 中村茉依さん
「当時つくっていた雑誌でクリスマスにカップルで行くディナー、春は家族で行くお花見などを紹介していたのですが、私自身、読むページがないと感じて提案しました」
社内では「そんなの読者がかわいそう」「本屋で手に取りづらい」などと否定的な声もありましたが、出してみれば「私のための雑誌、待ってました」と大きな反響を呼び、3度の重版がかかるほどになりました。

そんな中で起きた新型コロナの感染拡大。

明らかに1人客をターゲットにする店やサービスが増え、思ってもみない形で需要が高まっていることを実感しているといいます。
企画&編集担当 中村茉依さん
「かつては私自身も『1人メシは恥ずかしい』と思っていましたが、『いまなら大丈夫!なんでもできる』と伝えたいです。こんな時だからこそひとりの選択肢を広げてもらえたらと」
お正月はぜひいろんな「ひとり○○」に挑戦してほしいとのこと。

ちなみに中村さん自身は、ひとり向けのスチーマーを使って「ひとり点心祭り」をする予定だそうです。

可視化された“ソロ”

「あまり注目されていなかったのですが、実は“ソロ客”は以前から消費の中心にいたのです。それがコロナ禍でより可視化されたのだと思います」。

こう指摘するのは、広告代理店の博報堂で「おひとり様」の消費動向を分析し、『ソロエコノミーの襲来』などの著作がある荒川和久さんです。
荒川さんによれば「ソロ」は単なる「独身」という属性ではなく、経済的にも行動的にも自立心の強い価値観を持つ消費者だといいます。

まわりに影響されにくく「自分が良い」と思った価値観に基づいて行動する“ソロ客”は「集団でいないと寂しい」という社会的な意識の元では見えにくかったものの、コロナによって人々が密集を避けるようになったことでより顕在化してきたというのです。
博報堂 荒川和久さん
「コロナ禍の経験を通じ、常に誰かと一緒にいるのは思いのほかストレスで、意外にひとりになれる時間が大切だったかもしれないと、気づいた人は多いと思います。たとえ夫婦の間であってもです。ソロとつながりは対立するものではなく、ひとりの時間を大事にすることで、他人とのつながりも強く意識できるのだと思います」

他人がどう過ごそうと私は私でこんなに楽しい

コロナ禍によって図らずもひとりで楽しむ正月を社会全体で受け入れる「ソロ時代」が本格的に到来しているのは間違いないようです。

「ひとり正月」の過ごし方を悩んでいた私に、思いがけない気付きを与えてくれたのは、ライターの朝井さんから聞いたこんな話でした。
ライター 朝井麻由美さん
「『お正月をひとりで過ごすのは寂しい』と感じるのは、『お正月は誰かと一緒に過ごすものだ』という固定観念が満たされないからではないでしょうか」
うーん、確かにそうかも。
ライター 朝井麻由美さん
「『他人がどう過ごそうと自由だけれど、私は私でこんなに楽しい』と思えれば、お正月に限らずいつだって、ひとりだから寂しいということはなくなると思います。それは、誰かと一緒に過ごすことを否定するものでは決してありません。大事なのは誰かといても楽しいし、ひとりでいても楽しいと思える気持ちです。家族がいてもひとりの時間は大切です。家族がいても、いなくても、『何をしたら自分の機嫌をとれるか』を理解して、上手にひとりの時間を楽しみたいですね」。
ひとりで楽しく過ごすからこそ、誰かと過ごす時間も充実するのかもしれません。

達人たちから聞いたヒントを参考にこのお正月、一回、頭を柔らかくして自分のことを見つめ直してみようかなと思いました。