過去最大 国の来年度予算案を閣議決定 「ワニの口」はどうなる

政府は、21日の閣議で一般会計の総額が過去最大の106兆6097億円となる来年度・令和3年度予算案を決定しました。この財源を賄うために新たに発行する国債は、当初予算どうしの比較で11年ぶりに前の年度を上回り、厳しい財政運営が続きます。「ワニの口」とも呼ばれる国の財政状況を示すグラフでは、今後の新型コロナウイルスの感染状況や景気動向によっては、歳出が膨らんだり税収が落ち込んだりして、ワニの口がさらに開くことも懸念されます。

21日閣議決定された国の来年度予算案は、一般会計の総額が106兆6097億円と、今年度の当初予算を3兆9517億円上回って過去最大となり、3年連続で100兆円を上回ります。
歳出が大幅に膨らんだ背景には、高齢化に伴って「社会保障費」が今年度より1507億円増えて過去最大の35兆8421億円となったことや「防衛費」が今年度より610億円増えてやはり過去最大の5兆3235億円に上ったこと、それに新型コロナウイルスへの対応として、国会の承認を得ずに機動的に使いみちを決められる「予備費」として5兆円を計上したことなどがあります。
一方歳入では、税収が新型コロナの影響による企業業績の悪化などを見込んで今年度の当初予算より6兆650億円少ない57兆4480億円としています。

また新規の国債の発行額は、歳入不足を補うための赤字国債が37兆2560億円、建設国債が6兆3410億円の合わせて43兆5970億円に上り、今年度の当初予算の段階から11兆408億円増えています。

当初予算どうしの比較で、新規の国債発行額が前の年度を上回るのは11年ぶりで、歳入全体に占める国債の割合は40.9%となります。

政府は、この来年度予算案を今月15日に決定した今年度の第3次補正予算案と合わせて年明けの通常国会に提出することにしています。

「ワニの口」財政状況 厳しさ増す

これは「ワニの口」とも呼ばれる国の財政状況を示すグラフです。

上側の折れ線は「歳出」、下側の折れ線は「税収」で、2本の線の間隔が開くほど財政状況が厳しいことを示します。

1990年ごろまでは2本の線が平行する形で増加していました。

しかし、90年代以降「歳出」は増加して高止まりする一方、「税収」は低迷した結果、2本の線の間隔はワニの口のように開いていきました。

さらに、今年度は新型コロナウイルスへの対応で3度にわたる補正予算案を編成した結果、歳出は175兆円余りに膨らむ見通しになり、線の間隔が一気に開いてしまいました。

来年度は21日に決定された当初予算案の時点で歳出は過去最大の106兆円余りに上り、今年度ほどではないものの、ワニの口は大きく開いています。

今後の新型コロナウイルスの感染状況や景気動向によっては、歳出が膨らんだり税収が落ち込んだりして、ワニの口がさらに開くことも懸念されます。

財政健全化への道 さらに険しく

来年度予算案では、新たな借金にあたる新規の国債発行額が当初予算どうしの比較で11年ぶりに増加し、国の財政は一段と悪化することになります。

財政の健全性を示す代表的な指標で、政策に必要な費用を借金に頼らず、税収などでどれだけ賄えているかを示す「基礎的財政収支」は、一般会計で20兆3617億円の赤字で、赤字額は今年度の当初予算段階の9兆6264億円から2倍以上に拡大しています。

政府は、国と地方をあわせた「基礎的財政収支」を2025年度に黒字化する目標を掲げていますが、達成はますます困難な状況になっています。

内閣府はことし7月の時点で、高い経済成長を実現できたと仮定しても、2025年度の「基礎的財政収支」を7兆3000億円の赤字と試算しています。

目標の達成には、抜本的な歳出改革のほか、経済成長や増税によって歳入を大幅に増やすなどより強力な取り組みが必要になります。

国の財政状況は「国債の発行残高」で見ても深刻さを増しています。

今年度は、3度にわたる補正予算の編成もあって、新規の国債発行額が112兆5000億円余りに上ります。

さらに来年度分も加わることで、来年度末には国債の発行残高は、990兆3000億円まで積み上がる見通しだとしています。これは、5年前にあたる2016年度末と比べて19%の増加となります。

また、新型コロナウイルスの今後の感染状況によっては、財政事情はさらに厳しくなるおそれもあります。

政府は来年度の経済成長率について、物価の変動を除いた実質で4.0%程度という高めの見通しを前提に、来年度予算案の税収を計算していますが、経済の回復が遅れれば、税収が大きく下振れするリスクがあるからです。

一方で、再来年の2022年には、いわゆる「団塊の世代」が75歳以上になり始め、社会保障費が大きく膨らむことが予想され、財政健全化は喫緊の課題です。

新型コロナウイルスへの対応を進めながら、財政健全化への道筋をどう描くのかという難題に直面しています。

新規国債発行額 11年ぶりに前年度上回る

新たな借金にあたる新規の国債発行額は、43兆5970億円と、今年度の当初予算の段階より11兆408億円増加しています。

当初予算の段階で、新規の国債発行額が前の年度を上回るのは11年ぶりのことで、借金に依存する苦しい財政運営を反映しています。

このうち、
▼公共事業などに使いみちが限られている「建設国債」は、6兆3410億円で、今年度の当初より7690億円減る一方、
▼歳入不足を補うための「赤字国債」は37兆2560億円で11兆8098億円増える計画です。

この結果、歳入全体に占める国債の割合は40.9%と、今年度の当初予算の31.7%から、一気に9ポイント増加しています。

また、過去に発行し、満期を迎えた国債の償還費用を調達するための「借換債」は147兆1929億円で、今年度の当初予算より39兆2111億円増加しています。

これは今年度、新型コロナウイルスへの対応のために、短期国債を増発し、その償還の時期を迎えるためです。

これらを合計した来年度の国債発行総額は236兆82億円となり、当初計画としては今年度を82兆5461億円上回って過去最大となります。

普通国債の残高は来年度末の時点で990兆3000億円と過去最高を更新する見通しで、膨張の一途をたどっています。

一方、「赤字国債」の発行は、財政法で禁じられていて、発行するには特例法が必要ですが、平成28年に成立した現在の特例法は今年度末で期限を迎えます。
このため、政府は来年度から令和7年度までさらに5年間赤字国債を発行できるようにするための法案を年明けの通常国会に提出する方針です。

“来年度は税収増加の見込み”も新型コロナで不透明

来年度の国の税収は、57兆4480億円と見込んでいます。

これは、今年度の当初予算で見積もった63兆5130億円と比べて6兆円余り減っています。

ただ、今年度の税収は、新型コロナウイルスの感染拡大による企業業績の悪化で法人税の税収が大幅に減ることなどを反映して当初の見積もりを下方修正し、55兆1250億円と見込んでいます。

これと比較すると、来年度の税収は、政府の経済対策によって景気が回復することなどを見込んで2兆3000億円余り増える見積もりとなっています。

今年度の最新の見通しと比較してみると、
▼消費税は1兆110億円、
▼法人税は9560億円、
▼所得税は1710億円、それぞれ増加することを見込んでいます。

このうち、最も税収が多いのは消費税で20兆2840億円を見込んでいます。

ただ、新型コロナウイルスの収束の見通しが立たない中、企業業績や個人消費、それに伴う税収がどこまで回復するかは不透明さも残っています。

歳出の主な内訳「財政の硬直化」続く

歳出の主な内訳です。

▼全体の3分の1を占める「社会保障費」は、今年度の当初予算より1507億円増えて過去最大の35兆8421億円となりました。

▼「防衛費」は、今年度より610億円増えて過去最大の5兆3235億円となりました。

▼「公共事業費」は、今年度より26億円増えて6兆695億円、
▼「文化、教育、科学技術関連予算」は、今年度より57億円増えて5兆3969億円となりました。

▼地方自治体に配分する「地方交付税」は、今年度より1396億円増えて15兆9489億円、
▼過去に発行した国債の償還や利払いに充てる「国債費」は、4072億円増えて過去最大の23兆7588億円となっています。

加えて、
▼新型コロナウイルスへの対応のため、国会の承認を得ずに機動的に使いみちを決められる「予備費」として5兆円が盛り込まれています。

この結果、「社会保障費」と「地方交付税」それに「国債費」の3つの経費で歳出全体のおよそ70%を占めることになり、このほかの政策に自由に使える余地が小さい「財政の硬直化」と呼ばれる状況が続いています。

「財政投融資」当初予算の段階では過去最大

大規模な民間の事業などに国が資金を供給する「財政投融資」は、新型コロナウイルスの影響で経営が悪化した中小企業の資金繰りの支援などに総額40兆9056億円を投じる計画で、当初予算の段階としては過去最大となります。

財政投融資は、国が「財投債」と呼ばれる債券を発行して市場から資金を調達し、政府系の金融機関などを通して民間の大規模な事業に低金利で貸し出す仕組みです。

来年度は
▼新型コロナウイルスの影響で経営が悪化した中小企業の資金繰り支援や、業態転換やデジタル化で生産性の向上に取り組む中小企業などへの支援に合わせて26兆6466億円を投じます。

また、
▼新型コロナの影響で休業や事業の縮小を余儀なくされた医療機関や福祉事業者への資金繰りの支援に1兆6898億円を投じます。

▼大学の国際競争力を強化するため、世界トップレベルの研究開発環境を整備するための基金の創設に4兆円を投じます。

また、
▼高速道路の4車線化や整備新幹線の建設、空港の防災対策など、回収に長い期間が必要なインフラ整備には合わせて9228億円を投じます。

このほか、
▼日本企業の海外展開などを支援するため、国際協力銀行や国際協力機構などに合わせて2兆411億円を投じる計画です。

麻生副総理・財務相「バランス取るのが難しかった」

麻生副総理兼財務大臣は、一般会計の総額が過去最大となる来年度予算案について、記者会見で「今回の予算編成は新型コロナウイルスの感染拡大が見られる中で『感染拡大防止』『経済再生』『財政健全化』のバランスを取らなくてはならなかった点が最も難しかった」と述べました。

そのうえで「感染拡大に万全を期しつつ、デジタル改革、グリーン社会の実現など中長期的な課題もしっかり対応していかなければならない」と述べました。

一方、当初予算の比較で、新たに発行する国債が11年ぶりに前の年度を上回り、歳入全体に占める国債の割合が40.9%に上っていることを踏まえ、麻生副総理は「財政が厳しい状況であることは事実。公債への依存度を減らすということがコロナの影響ですっかり崩れたのが、少々残念だ。今回決定した予算案を着実に実行しながら経済再生と財政健全化を進めていきたい」と述べ、歳出と歳入の両面で改革を進めていく考えを改めて強調しました。

加藤官房長官「経済社会情勢の対応に必要な予算措置」

加藤官房長官は、閣議のあとの記者会見で「今年度の第3次補正予算案と一体のいわゆる15か月予算として、感染拡大の防止に万全の対応を行うとともに、次の成長の原動力となるグリーン社会の実現やデジタル化を着実に推進するため、現下の経済社会情勢の対応に必要な予算措置を講じている」と述べました。

そのうえで「足元の財政が厳しい状況にあるが、予算案の早期成立を図り着実に実行していくことで内需主導の経済成長を実現し、財政健全化に向けた取り組みを続けることで経済再生と財政健全化の両立を実現していきたい」と述べました。