イギリス コロナワクチン接種2週間 効率的で幅広い実施が課題
イギリスでは、アメリカの製薬大手ファイザーなどが開発した新型コロナウイルスのワクチンの接種が始まってから、2週間近くがたちました。現場では、接種を迅速に進めようと、ワクチンの低温での管理やアレルギー反応が起きた場合の備えなど対応に追われています。
イギリスでは、ファイザーとドイツの企業ビオンテックが開発した新型コロナウイルスのワクチンの接種が今月8日から始まりました。
ワクチンはマイナス70度前後という低温で冷凍保存され輸送されますが、接種に向けて2度から8度にすると保存期間は5日間になります。
このためイングランドでは、まずは温度管理が可能な50の大きな病院で、優先接種の対象となっている80歳以上の高齢者や高齢者施設で働く介護職員、それに医療従事者への接種が始まりました。
さらに今月14日からは、地域のクリニックなど100か所以上でも地元の高齢者などに接種ができるようになり、保存期間内にワクチンを使い切れるよう、クリニック側が高齢者に連絡を取り、分刻みのスケジュール調整を行っているということです。
ただ、連絡がなかなか取れなかったり、自力でクリニックまで来ることができなかったりする高齢者もいて、地域のボランティアに頼んで送り迎えをしてもらうケースもあるということです。
さらに優先接種の対象となっている人のうち、高齢者施設に入居している人の多くについては今も接種が始まっていません。
ワクチンを低温で管理しながら期限内に使い切れるようにする態勢作りがまだできていないためです。
一方、ワクチンの接種が始まった初日、イギリスでは、医療機関のスタッフ2人が「アナフィラキシー」と呼ばれる激しいアレルギー反応の症状を示し、規制当局は過去にワクチンや薬、それに食物で同様の症状が出たことがある人には、このワクチンを接種しないよう医療関係者に勧告を出すなど対応に追われました。
イギリスでは優先接種の対象となっている人たちへのワクチン接種を終わらせるだけでも今後数か月がかかるとみられていて、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、いかに効率的に幅広く接種を進めていくかが課題となっています。
アレルギー反応と高齢者施設への対応
このため、規制当局は過去にワクチンや薬、それに食物で同様の症状が出たことがある人は、このワクチンを接種しないよう勧告を出したほか、接種後15分間は接種を受けた人の体調を観察すること、さらにアレルギー反応が出た場合に備え治療薬を常備するなど、すぐに対応できる態勢作りを求める対応をとりました。
一方、優先接種の対象となっている人のうち、高齢者施設の入居者については、接種開始から10日以上がたった今もその多くが接種のめどがたっていません。
ワクチンを低温で管理しながら、期限内に使い切れるようにする態勢作りがまだできていないということです。
ロンドン近郊にある58人が入居する高齢者施設では、近くにある診療所の医師に施設に来てもらい、ワクチン接種をしたいと打ち合わせを進めていますが、具体的な日程はまだ決まっていないといいます。
この施設では、秋に感染が拡大した際に入居者11人と4人のスタッフが感染し、一部のスタッフは感染した入居者の介護を怖がるようになったということです。
施設のマネージャー、ケリー・ハクスタブルさんは「スタッフがとても緊張を強いられる難しい状況だった。接種が具体的にいつになるのかわからないが、なるべく早く受けられるようにしてもらいたい」と話していました。
接種始めた地域の診療所では
クリニックの待合室にはワクチン接種の会場が設けられ、1度に5、6人が呼び込まれます。
そして、スタッフから体調などについて聞かれたあと、次々とワクチンが接種され、1時間に60人ほどが接種を受けていました。
スタッフはワクチンの準備や説明などに追われていて、このクリニックでは今月18日までの4日間で、ワクチン1箱分、およそ1000回分を使い切ったということです。
ワクチンは、およそ1000回分が入った箱が2度から8度の解凍された状態で届けられるということで、こちらのクリニックでは医療用の冷蔵庫に保管しています。
2度から8度でのワクチンの保存期間は5日間ですが、輸送にかかる時間もあるため実際には3日半ほどで使い切らなければならないといいます。
1000人近い人に効率的に接種するため、医療システムに登録してある患者の年齢などをもとに対象者を決め、連絡したうえで、スケジュールを調整します。
高齢者の場合、インターネットを利用していない人も多く、電話や訪問によって接種について説明することもあるほか、自力で接種を受けに来ることが困難な人のために地域のボランティアに送り迎えを頼むこともあるといいます。
多めに予約を入れて計画を立てましたが、キャンセルした人は4日間で3人だったということです。
接種を受けた81歳の男性は「接種を受けられると知らされたときにはうれしかった。接種には何の問題もなかった」と話し、医療機関で働いている女性は「医療機関で働く人にとって、接種は安心材料になる」とほっとした様子でした。
クリニックの医師のジェームス・ケネディさんは「今回の分は期限内に使い切ることができた。接種を受けた高齢者たちは、外出制限などで家に閉じこもっていた影響で身体能力が低下していて、精神面でも人と話すことを怖がったり、自信を失ったりしている人が多くなっているようだ」と述べ、精神面や身体面への長期的な影響に懸念を示していました。
世界の許可状況
一方、モデルナのワクチンは、これまでアメリカで緊急使用の許可が出ているほか、EUの規制当局が来年1月6日に許可の検討を行うことにしています。