「次は自分かも…」 非正規6割以上 ハローワーク相談員の悲哀

「次は自分かも…」 非正規6割以上 ハローワーク相談員の悲哀
「来年には、私もあそこに並んでいるんだろうな…」
“雇用のセーフティーネット”と言われるハローワーク。コロナ禍で仕事を失った人たちが窓口の前に並ぶ様子を「複雑な思いで見つめている」と話すのはほかでもない、ハローワークに勤める相談員です。どんな思いを抱えているのか、取材しました。(社会部記者 間野まりえ)

非正規相談員からの悲鳴

取材に応じてくれたのは、関東地方のハローワークで非正規の非常勤相談員として働く40代の女性です。

女性が勤めるハローワークでも、緊急事態宣言が解除されたあとのことし6月以降、訪れる人が大幅に増えました。

相談の内容も深刻化していて、最近ではうつ状態になって「仕事が見つからないから死にたい」と訴える人もいると言います。最も多い時には失業手当を受給する人たちの長い行列が、部屋の中には収まりきらず廊下まで続いていました。
そうした状況を見て、女性は複雑な心境になりました。
ハローワークで非正規の相談員として働く女性
「次は自分だなと思いました。いつ雇い止めにあって仕事がなくなるか分からないので、私たちもある意味同じ立場なんです。来年には私があそこに並んでいるんだろうなと…」

困っている人を支える“大きなやりがい”

女性は結婚、出産を機に前の仕事を辞めたあと、子育てが一段落してからハローワークで働き始めました。週5日働いて手取りは20万円ほど。1年間の任期を繰り返し更新しながら5年以上働いてきました。

不安定な立場でも仕事を続けてきたのは求職者をサポートする仕事にやりがいや誇りを感じていたからです。

相談に来る人たちの中には仕事が見つからないことで自信を失い、落ち込んでいる人もいますが、じっくりと話を聞き、その人の長所などを伝えると、「もう少しがんばってみよう」と前を向けるようになると言います。
ハローワークで非正規の相談員として働く女性
「落ち込んでいた人が、面談を通じて元気を取り戻し、帰って行く姿を見ると、この仕事をしていてよかったなと感じるんです。そして、就職が決まったときは自分のことのようにうれしく思います」

3年に1度の“公募”と雇い止めの不安

しかし、こうしたやりがいがある一方で、ハローワークで働く非正規の相談員を悩ませているのが、3年に1度の“公募”です。

国家公務員のうちフルタイムで働く非正規の職員は、法律上、「期間業務職員」と呼ばれています。あくまでも臨時的に働く職員であり、任期は原則1年以内です。

人事院の通知で、「公募によらない採用は、同一の者について連続2回を限度とするよう努めるもの」とされています。
このため、少なくとも3年に1回はそれまでの経験や実績に関係なく公募の対象となり、自分のポストが一般に募集されます。

継続して働きたければ、ほかの希望者と同じように選考を受けて合格しなければなりませんが、そこで不合格となれば任期が更新されない「雇い止め」となります。非正規の相談員たちは、いつ「雇い止め」にあうか分からない、不安の中で働いているのだと言います。

さらに、女性が話してくれたのは、「臨時的におかれている」という建て前とは裏腹に、10年以上同じハローワークで非正規のまま働いている人もいるという現実です。

民間企業で働く有期雇用の非正規労働者が5年を超えて働いた場合、無期雇用に切り替えることを企業に義務づける「無期転換ルール」がおととしから始まりましたが、このルールも、公務員には適用されないのです。
ハローワークで非正規の相談員として働く女性
「私たち非正規の相談員は、正規の職員より賃金が低くてもコロナに感染するリスクを背負って、例年より混み合う窓口で、矢面にたって頑張っているんですがやるせない気持ちになります。先日、正規の職員たちが『○○は(非正規相談員の名前)来年更新しないほうがいいんじゃない?』『そうだね』という会話をしているのを聞いてしまいました。年度末が近づくこの時期によく聞く会話です。窓口で求職者の相談に対応しているときにほかの非正規相談員からひぼう中傷などの嫌がらせをされてしまい、業務に集中できないこともありました」

増加続く非正規相談員… コロナ禍では急増も

実はハローワークでは正規職員を減らす一方で、非正規相談員の数を増やしてきました。
正規職員は2008年度から1600人余り減って2018年度に1万367人になりましたが、非正規相談員は5400人余り増えて1万5692人になりました。

厚生労働省のデータからハローワークで働く職員のうち非正規の割合を計算してみると、2008年度は46%となっていましたが、2018年度は60%まで増えたのです。

どうして非正規の相談員が増えているのか。この理由について厚生労働省の担当者は、次のように説明しています。
厚生労働省の担当者
「障害者や生活困窮者、就職氷河期の世代など、丁寧な対応が求められるケースが増えており、1人当たりの対応時間が増加している。しかし、定員を増やしてほしいとお願いしても、国全体で、常勤職員(=正規職員)の定員を削減していく方針があるため、常勤職員の増員は見込めない。このため、増えた行政ニーズに対応するためには非常勤の相談員を増やして窓口での相談にあたってもらう必要があった」
さらに、データを見てみると、2009年度~2011年度、2019年度、2020年度には非正規の相談員が急増しています。これは、リーマンショック(2008)、東日本大震災(2011)で雇用情勢が悪化した際や、統計不正問題(2019)で追加給付の対応が必要となった際に大幅な増員が進められたからです。
今年度も、コロナ禍で、ハローワークに勤める非正規の相談員は急増しました。当初は1万7453人でしたが、5月に+3748人、7月に+8301人と段階的に増え、現在は2万7902人になりました。

格差から人間関係にゆがみ 体調崩す人も…

非正規の相談員が「調整弁」となって入れ代わりが激しくなったために職場の人間関係にひずみが生まれたという声も聞かれます。
関東地方の別のハローワークで働いていた50代の女性は、東日本大震災のあと非正規の相談員が増員された際に、事業主担当の相談員として働き始めました。震災直後は雇用調整助成金、そしてその対応が落ち着くと、非正規から正規雇用への転換などを後押しする、キャリアアップ助成金を担当。困っている企業の経営者が、相談を通じて喜んでくれる姿を見ることがやりがいとなっていました。

しかし、東日本大震災の対応が落ち着くと、当初10人近くいた相談員の枠は、年々減っていったため、女性の働くハローワークでは公募の試験も毎年のように行われました。

「この中から次は誰が消えるのだろうか」

年度末が近づくたびに職場の雰囲気は悪くなっていきました。
50代女性
「自分が任期を更新されても素直に『よかった』とは思えないんですよね。一緒に働いていた仲間と別れるのはつらかったです。相談員の中には、更新してもらうために正規職員に気に入られようとしたり、ほかの相談員の悪口を言ったりする人もいて人間関係はギスギスしていきました」
そして去年、ついに事業主担当の相談員はこの女性1人だけとなってしまいました。

これまで複数人で担当していた仕事を1人でこなさなければならず負担は増えましたが、休む事はできなかったといいます。誰にも相談できず、精神的に追い詰められてしまい、新型コロナウイルスの感染が広がったことし3月、みずから辞める決断をしました。
50代女性
「私たちは結局、第一線で使われる駒のような存在だったんですよね。体調を崩した時も、心配してくれるような職員はいませんでした。非正規の相談員の働き方には誰も関心がないんです。やりがいはあったけど、それ以上にもう疲れてしまいました」

コロナ最前線を支える非正規公務員の実態は…

ハローワークだけでなく、医療機関や虐待、DVの相談を受ける自治体などでも非正規の職員が多く働いている実態があります。コロナ禍で仕事を失ったり生活に困窮したりする人が増えている今、公共サービスの役割はますます大きくなっています。

しかし、雇い止めの不安に悩みながら働いている人や精神的に追い込まれてしまい、退職を余儀なくされる人がいるのも現実です。

公共サービスを最前線で守っている人たちが、安心して働けるようにするために何が必要なのか、サービスの在り方をどうすべきなのか皆さんの声をもとに取材を続けていきたいと思っています。ご意見や情報提供をお待ちしています。
社会部記者
間野まりえ