京アニ放火殺人事件 青葉容疑者を殺人などの罪で起訴

「京都アニメーション」のスタジオが放火され、社員36人が死亡した事件で、検察は逮捕された青葉真司容疑者について、殺人などの罪で起訴しました。平成以降の殺人事件として最も多くの犠牲者が出た事件は、今後、裁判員裁判で審理されることになります。

去年7月、京都市伏見区にある「京都アニメーション」の第1スタジオが放火され、社員36人が死亡した事件で、検察はことし5月に逮捕された青葉真司容疑者(42)を16日、殺人や放火などの罪で起訴しました。

また検察は、これまで警察が33人としていたけが人について、32人を認定したと発表しました。

捜査関係者によりますと、青葉被告はこれまでの警察の調べに対し「ガソリンを使えば多くの人を殺せると思った」、「小説を盗用されたから火をつけた」などと供述しているということです。

京都地方検察庁は刑事責任能力を調べるため、ことし6月から半年間にわたって「鑑定留置」を行い、専門家による精神鑑定を行いました。

その結果や、事前に凶器を準備するなど、計画性が認められることから、検察は刑事責任を問えると判断したということです。

平成以降の殺人事件として最も多くの犠牲者が出た事件は、今後、裁判員裁判で審理されることになります。

初公判までにはなお長い時間がかかる見通し

捜査関係者によりますと、青葉真司被告は医師が常駐している大阪拘置所で勾留されていて、現在もほぼ寝たきりの状態になっています。会話はできますが、介助がないと食事などはできず、リハビリを続けているということです。

殺人などの罪で起訴されたことから、事件は裁判員裁判で審理されますが、初公判が開かれるまでには長い時間がかかる見通しです。

裁判員裁判では、初公判から判決までの審理期間を短くするため、検察官と被告の弁護士、それに裁判官が事前に争点や証拠を絞り込む「公判前整理手続き」が行われます。

最高裁判所によりますと、公判前整理手続きの期間は、平成21年は平均2.8か月でしたが、平成30年には平均8.2か月と長期化する傾向があります。

とくに重大事件では、その傾向が顕著で、平成28年に相模原市の知的障害者施設で、46人が殺傷された事件では、被告の起訴から初公判までの期間が3年近くかかったほか、平成29年に神奈川県座間市のアパートで男女9人の遺体が見つかった事件でも2年余りかかりました。

やけど治療にあたった医師「司法の場ですべて語って」

青葉真司被告のやけどの治療にあたった上田敬博医師が取材に応じ「法廷では、犯した罪に対ししっかりと向き合い償ってほしい」と話しました。

青葉被告は事件の際にみずからも重いやけどを負ったため、大阪府内の病院で専門的な治療を受けました。

主治医として治療にあたった上田医師は当時について「全身の9割以上が2度から3度の熱傷で、極めて重篤ですぐに命にかかわる状態でした。警察には絶命する可能性が非常に高い、救命することが難しいと伝えました」と振り返りました。

その後の治療で意識が回復したあとの青葉被告の様子については「声を出すよう促したところ、声が出る自分に驚いて泣いていました。『声が出るとは思わなかった』というのが最初の声でした。死にたいとは思っていなかったんだろうなと感じました」と話しました。

そのうえで「『底の底の自分になんで向きあってくれるんだ』と何度も聞かれました。自分の職務としてやっていて、彼だけが特別なわけではないと話したところ、『世の中にはそんな人もいるんですね』と言っていました」と述べました。

青葉被告は勾留に耐えられるまで容体が回復したとして、ことし5月に警察に逮捕されました。現在もほぼ寝たきりの状態で、大阪拘置所の別の医師が治療にあたっています。

起訴を受けて上田医師は「犠牲者の方、被害者の方、そのご家族に対して、まずおわびし、謝罪のことばを述べてほしい。司法の場では、犯してしまった過ちに対ししっかりと向きあい、償ってほしい。包み隠さず自分のことばですべて語ってほしい」と話していました。

遺族「起訴されても気持ちは変わらない」

京都アニメーションの事件で亡くなった武本康弘さんの両親がNHKの取材に応じ、苦しい胸のうちを語りました。

武本康弘さん(当時47歳)は京都アニメーションを代表する「らき☆すた」や「氷菓」といった作品で監督を務めるなど、アニメ制作の中心的な存在でした。

母親の千惠子さん(72)は「起訴されても、気持ちは変わりません。1人になると思い出してまた泣きたくなります。何年たっても変わらない。もうあの子がいないんだということが悲しいです」と語りました。

父親の保夫さん(77)は「今いちばん気にかかっているのは康宏の子どものことです。まだ幼いですし、事件のことがこれからの人生にも大きく影響していくと思うので、なんとかして癒やしてあげたいです」と話していました。

一周忌のとき、友人が、康弘さんが作って、高校の文化祭で出品したカレンダーを見つけて届けてくれたということで、今でも知らなかった息子の一面に気付くことがあるということです。

康弘さんからアニメや仕事のことについて聞くことはあまりなかったということですが、亡くなってから、作品に2人で触れる機会が多くなったといいます。

保夫さんは千惠子さんとともに裁判を最後まで見届けたいとしたうえで「裁判でどういう話をするか分からないが、何を言ったところで康弘は帰ってこない。どういう判決が出ようと現実は変わりません」と話していました。

また事件で亡くなったアニメーターの石田奈央美さん(当時49)の両親が報道陣の取材に応じ、青葉被告が起訴されたことについて、母親は「よかったと思います。検察からの連絡を受け、娘にはお茶とごはんをあげて起訴されたことを報告しました」と話しました。

また、父親は「裁判では、青葉被告がどういうことをいうか聞きたいです。なぜやったのか、それがいちばん問題だと思います」と話しました。

そして「かつての同僚などからいまもお花が届き、慕われていた娘のことを誇りに思います。世間にはこの事件のことを忘れないでほしいです」と話していました。

事件で亡くなった津田幸恵さん(当時41)の父親の伸一さんは、青葉被告が起訴されたことについて「別になんとも思いません。知りたいのは本人に罪の意識が芽生えるかどうかだけです」と話しました。

そのうえで「いままで1年半ほど悲しんできたのであまり考えないようにしていますが、いろんな時に思い出すことはあります。結局は悲しみにつながります」と話していました。

京都アニメーション 八田社長「心が痛むばかり」

京都アニメーションの八田英明社長は「生命と身体が戻ることはありません。被害にあった社員、近しい方々の無念を思うと心が痛むばかりです。法の定めるところに従い、然るべき対応と判断をいただくほかないと承知しております」とコメントしました。

そのうえで「何日が過ぎようと心が重たい日々です。被害にあわれたご家族の皆様にとっても癒える日はありません。作品を作り続けることが明日へつなぐことと、社員一同その思いでおります。その作品が、支えていただいたファンの皆様、関係者の皆様へのメッセージだと思っています」としています。

京都アニメーションによりますと、事件後に中断していた社員の採用を再開し、現在は、事件前とほぼ変わらないおよそ170人の態勢で複数の新作映画やテレビアニメの制作に取り組んでいるということです。

一方、事件現場となった第1スタジオの跡地はさら地のままになっていて、今後の活用方法については今のところ決まっていないということです。

亡くなったアニメーターの展示会も

京都アニメーションの放火事件で、亡くなったアニメーターの渡邊美希子さん(当時35)の作品を集めた展示会が先月まで三重県桑名市で開かれ、ファンが訪れました。

展示会は、渡邊さんの親戚の女性が遺族や会社の了解を得て開き、会場には風景画や年賀状に書かれたイラストなどおよそ30点が展示されました。

このうち渡邊さんが美術監督をつとめたテレビアニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の背景画は、川の水面に映る緑の木々や日の光に照らされる猫じゃらし1本1本が、緻密に描かれています。

また14歳の時に作った切り絵は、背筋を伸ばし、横目で何かを見つめる黒猫の姿が表現されています。

東京から訪れた20代のファンの女性は「作品を見てしばらくは涙が止まらなくなりました。背景がすごく細かく作り込まれていて妥協しないまじめさを感じました」と話していました。

展示会を開いた渡邊さんの祖母の妹の土田節子さんは「東京や大阪など遠くから多くのファンの方が来ていただいてうれしかったです。作品が心の中に残って、次の世代へとつながってほしい」と話していました。