野菜が安いので…

野菜が安いので…
野菜が平年の半値になるほど安くなっています。天候に恵まれ生育が順調だったのに加え、新型コロナウイルスの影響で飲食店の需要が落ち込んだことが主な要因です。安く買えることは消費者にとってはうれしい話ですが、農家の方は大変。生産者の力になりたいと消費を増やそうという動きも出ています。私たちにできることって?(アナウンサー 塩田慎二 ネットワーク報道部記者 高杉北斗 林田健太)

南極料理人に聞いたら…

取材を進める中である人が頭に浮かびました。
今の状況をどのように受け止めているだろうと電話をかけてみました。
以前、取材でお世話になった通称、南極料理人、渡貫淳子さんです。開口一番、予想外の答えが返ってきました。

「生野菜は最高のぜいたくなんです!」

野菜が安く手に入る今の状況は渡貫さんにはちょっと違って見えるようです。
渡貫さんは2015年からおよそ1年間昭和基地の「南極料理人」として毎日、隊員たちのおなかを満たしてきました。

当たり前ですが、南極では食材を調達できません。だからこそ、野菜、とくに生の野菜は大変貴重なものだといいます。
こんなエピソードを教えてくれました。
渡貫さん
「実は、南極でも野菜を水耕栽培で少しだけ育てているんですが、それでも、生野菜は誰かの誕生日などに1か月に1回食べられる程度なんです。持って行ったキャベツは7か月かけて食べました。また、私が1年間で食べたミニトマトは1個だけです。南極では野菜は最高にぜいたくな食べ物なんです」

野菜の存在感 今こそ

南極で貴重な野菜。
料理の中での野菜の存在感にも改めて気づかされたといいます。
渡貫さん
「例えば、トンカツには千切りキャベツが欠かせませんよね。ステーキも野菜が添えられているほうがおいしく感じられるはず。実は、野菜を使わずに料理を作ろうとすることほど難しいことはないんです」

「野菜が貴重な南極の経験者からすると(価格が安い)いまこそ野菜をたくさん食べてもらいたいと思うんですよね」
では、どうしたらいいのでしょうか?
渡貫さん
「例えば、ふだんは半玉買うキャベツを、今は1玉買ってみるなど、少しだけ多く買ってみてはどうでしょうか。そして、この機会に、漬物や干し野菜など保存食づくりに挑戦するのもいいかもしれませんね」
ちなみに渡貫さんは、大根、ニンジン、キャベツなどいろんな野菜で作る「福神漬」がおすすめだと教えてくれました。

干し野菜のススメ

野菜の保存方法を紹介したり保存食作りの様子をネットで発信したりしている人も多く見られます。
ツイッターより
「野菜がバカ安なので数年前に流行った干し野菜を作るなどした」
「一玉80円だったので白菜を丸ごと買ってきて、干してみた」
その1人、高知県の山岸義浩さんに作り方を聞くことができました。
山岸さんによると高知県は日照時間が長く干した野菜を食べる習慣があり、山岸さんも母親が作った干し野菜を食べていたそうです。

作り方はいたって簡単。
1「野菜を切る」
野菜を洗ったあと、皮はむかずに使う料理に合った好みの大きさに切る。干したあとは野菜が縮むので、少し大きめに切るのがポイントです。水分の多い野菜はきちんと拭き取ってください。

2「野菜を干す」
通気性の良い竹ざるなどに切った野菜を重ならないように載せます。あとは、風通しと日当たりのいいベランダなどの場所に置いて乾燥させるだけ。
山岸さんによると野菜を干す時間は晴れた日の午前10時から午後3時ごろが適していて、空気が乾燥しやすい今の時期は特におすすめだそうです。

水分の少ない野菜は3時間ほど、多い野菜は6時間ほどで完成です。
しっかり乾燥させたい場合は1日から2日かけてもいいそうです。
乾燥具合を見ながら、調整してほしいということです。
乾燥を終えると、野菜はこんなに小さくなりました。
干し野菜は調理前に水またはお湯に浸して20分ほど戻しておくのがいいでしょう。味がしみ込みやすくなり、食感もよくなるそうです。

山岸さんは、パスタや煮物、スープなどに入れて味わっているそうです。
山岸さん
「高知では、広く食べられている方法です。おいしく長く食べられるので、試してみてください」

干すことで風味アップ 注意点も

干し野菜について、食の専門家に話を伺いました。

東京農業大学農学部の谷口亜樹子教授によると、野菜は干すことによって、味が濃縮され、風味も増すということです。また、セロリなどの少し癖のある野菜も苦みが分解されて、食べやすくなるメリットがあるということです。

注意点は密閉した容器に入れ、常温で保存しないこと。冷蔵庫だと1週間、冷凍庫だと1か月がおいしく食べることができる期間の目安だということです。
谷口教授
「例えば、大根を1本買った際にその日の料理に使わない分を干し野菜にすることで、むだなく使い切ることができます。私が実際に試した中では、『きゅうり』が生野菜とは味が異なり、甘みが強く想像以上においしかったです。コロナの影響なのでしょうか、干し野菜に関する問い合わせが増えています」

生産者 収穫のたびに苦渋の選択

「きょうも200キロの大根を捨てることになってしまいました」

野菜の価格が安く厳しい状況をツイッターで発信したのは、千葉県銚子市で大根やトマトなどを栽培する木村宏之さんです。

画像を送ってくれました。
大量の大根をすべて廃棄せざるを得ない苦しい状況を物語る写真。
そして、なぜ廃棄しなければならないのか、理由を教えてくれました。

この大根はスーパーなどで並ぶ大根と味は変わりませんが小さな傷や虫に食べられたあとがあるため、「B品」と呼ばれ安く取り引きされます。
大切な収入源の1つですが、今月上旬、地元の農協からしばらくの間、「B品」の大根は出荷できないと言われたそうです。需要と供給のバランスが崩れ、こん包や発送にかかるコストが大根の価格を上回ってしまい出荷をすればするほど赤字になってしまうのです。

廃棄は苦渋の選択だったそうです。

暖冬の影響で大根の成長は皮肉にも順調で、収穫を先延ばしにすることもできず、木村さんは手塩にかけて育てた大根を収穫のたびに廃棄せざるを得ない状況だということです。

もっと買ってとは言えません

木村さん
「去年は台風の影響でトマトのハウスが被害に遭い、なんとか取り戻そうと育ててきた大根を廃棄することになってやりきれない思いです」
木村さんのような生産者を支えるためにできることはないかを聞くと次のような答えが返ってきました。
木村さん
「コロナ禍の巣ごもり需要で、消費者の皆さんが私たちが作った野菜を食べてくれていることは知っていますし、飲食店の方々も経営が苦しい中で、仕入れをしてくれていることも十分わかっています。だから、大根が余っている状況ですが、皆さんに『もっと買ってください』とも言えないんです」
千葉県では来年の春に収穫する大根の種をまく時期を迎えています。
木村さん
「コロナが終息して、飲食店がいつも通りの営業になるまで、価格が元に戻らないのではという不安はあります。ただ、今、需要が少ないからといって 収穫量を減らすという選択はできません。収入を取り戻すため、例年より、多くの種を植えました」
感染拡大を防ぐ対策と経済を回す難しい局面が続きます。

大切に育てた野菜を捨てるという選択をしなければならない生産者、大勢の客を見込んで仕入れをしたくてもできない飲食店などの人たちの思いを共有しながらこの年末年始を過ごしたいと思いました。