「いま、できることをしよう」ボン・ジョヴィからのメッセージ

「いま、できることをしよう」ボン・ジョヴィからのメッセージ
仕事、学校、旅行、楽しみにしていた行事…ことしは多くの人にとって、これまで「当たり前」だと思っていたことができない1年になっているのではないでしょうか。そんな中、ことし10月。アメリカのロックバンド『ボン・ジョヴィ』は、4年ぶりとなるアルバムを発表しました。その名も『2020』。いま音楽を通じて、私たちに何を伝えたいのか。ボーカルのジョン・ボン・ジョヴィさんへの、単独インタビューが実現しました。(国際部記者 佐藤真莉子)

人気ボーカルの意外な一面

「テクノロジーさ!」
オンラインでのインタビューの冒頭。カメラを少し上向きにしてほしいとお願いすると、ジョンさんはパソコンの下に置く台として、どこかから持ってきた段ボールの空き箱を見せながら、こう言っていたずらっぽく笑いました。

人気ロックバンドのボーカルというイメージからは想像もつかなかった、気さくなふるまいのおかげで、私たちの緊張は一気にほぐれました。
『ボン・ジョヴィ』は、特に1980年代から90年代にかけて絶大な人気を誇りました。

私は当時、まだロックを聴く年齢ではありませんでしたが、上司に聞くと『Livin’ on a Prayer』や『Keep The Faith』をカセットテープで聴いていたとのこと。

そうしたファンに支えられ、バンドの人気が出たのはアメリカより日本のほうが先でした。そして、最近は環境問題を題材にしたり、東日本大震災のときには日本のために曲を作ったりと、社会的なメッセージも発信してきました。

発売延期で生まれた2つの曲

ジョンさんが拠点とするニューヨークは、アメリカでも新型コロナウイルスが特に猛威を振るった都市の1つです。ジョンさんの息子や、ほかのメンバーも感染しました。
アルバム『2020』もことし5月の発売予定が延期されましたが、その間にジョンさんは、アルバムに加えるため2つの曲を書き上げました。

その1つが『Do What You Can(いま、できることをしよう)』
新型コロナウイルスとの向き合い方を歌っています。なぜ、この曲を追加したのでしょうか。
ボン・ジョヴィさん
「曲を書き始めてから、ここアメリカでは実に多くのことが起きました。私は、これは時代を象徴するアルバムになると思いました。『Do What You Can』は感染が拡大しているときに書き上げました。『仕事に行けないなら、マスクをするなど、せめて自分にできることをしよう』という世界中の人たちへのメッセージなのです」

ファンとの合作『Do What You Can』

この曲、実はファンとの「共同作業」で作ったと言います。
ボン・ジョヴィさん
「私たちは特別な事態の中にいると感じていました。日本の人も、アメリカ・ニュージャージー州の人も、みんな一緒に同じ経験をしていると。そこで、はじめの1小節と歌詞をネットに掲載して、こう呼びかけました。『歌詞を書いてください、あなたのストーリーを書いてください。それを私が歌います』と。曲はすでに完成し、収録できる状態でしたが、ファンが送ってくれたストーリーは私が書いていたのと同じようなものでした。そのとき、これは特別な曲なんだということに気付いたのです」
このコロナ禍で多くの人が感じている、苦しみ、悲しみ、怒り、不安。

『Do What You Can』は、そうしたやりきれない思いを共有しつつ、それでも一人一人が前を向いてできることをしようと、私たちを鼓舞します。

気付いた「本当に大切なもの」

この曲には、次のような1節があります。
『Do What You Can』より
ソーシャル・ディスタンスは保つけど
世界が必要としているのはハグ(抱擁)だ
ワクチンが見つかるまで愛の代わりはない
自分と家族を愛そう
隣人と友達を愛そう
そろそろ見知らぬ人を愛する時じゃないか
彼らは、まだ巡り会う前の友人たちなんだ
「愛の代わりはない(There’s no substitute for love)」という印象的な歌詞には、どのような思いを込めたのでしょうか。
ボン・ジョヴィさん
「私たちはみな限界まで追いやられています。このウイルスの前では、私たちは平等なのです。日本人でもアメリカ人でも、共和党員でも民主党員でも関係ないのです。コロナは相手を選びません。このような状態に追い詰められたことで、私たちは最も大切なのは健康、家族、友人だと気付かされました。それに代わる存在はないと認識すべきです。仕事、レコード制作、旅行、それに忙しく駆け回ることより大切なのだと。それは本当に、人を謙虚にさせる出来事でした」
大きな制約のある生活を送っているからこそ、本当に大切なものに気付くことができた、気付かなければならないのではないか。ジョンさんはそう訴えています。

「いま、できることをしよう」

この曲が生まれるきっかけとなったのが、ジョンさんが運営しているレストラン「JBJ ソウル・キッチン」での出来事でした。

店は所得の低い人たちを支援するため15年前に始め、メニューには値段がありません。食事をして、できる人はお金を寄付する。その余裕がない人はボランティアをする、という仕組みです。

しかし、感染が急拡大したことし3月から夏場までの間、外出制限などによってボランティアが足りなくなり、ジョンさんが毎日みずからキッチンで洗い物をしていたと言います。
ボン・ジョヴィさん
「皿洗いをしていたとき、妻のドロシアが私の写真を撮り、ソーシャルメディアに投稿しました。助けが必要な人たちに、店の存在を知ってもらうためです。そのとき付けたことばが『If you can’t do what you do,do what you can.(いつもどおりのことができないなら、いまできることをしよう)』だったのです」

「店では、助けが必要な人たちと、助けたい人たちとの間に交流が生まれました。よいことをするほど、喜びを感じるのだと気付きました。それはステージでシャウトしているときと同じくらい、いい気分です。一人一人の人生に大きな違いを生みだしている、そう考えると魔法のようです」

「私にとってステージに立つのはすばらしいことで、好きだし、得意です。でもステージが私を作っているわけではなく、私の仕事だというだけです。この支援活動は、私が私らしくあるために必要なことなのです」

歴史の証人として『American Reckoning』

アルバムの発売延期によって、もう1つ、追加された曲が『American Reckoning(アメリカの報い)』
テーマは、人種差別の問題です。
『American Reckoning』より
アメリカが燃えている
路上では抗議活動
国の良心は略奪され
その魂は包囲された
歴史は繰り返され
また1人、母親が泣く
“息ができない”
ことし5月、中西部ミネソタ州で、黒人のジョージ・フロイドさんが白人の警察官に首を押さえつけられ、その後、死亡する事件が起きました。これをきっかけに、人種差別への抗議デモ「ブラック・ライブズ・マター運動」が世界中に広がりました。

日本では、アーティストやスポーツ選手が、政治や、賛否の分かれる社会問題について意見を表明するのは簡単なことではありません。ときには、自分の考えを言ったことで、非難されることもあります。

しかし、ジョンさんは「この曲を書かずにはいられなかった」と、この問題に真っ正面から向き合いました。人種、世代、地域間などの分断が浮き彫りになる中、大統領選挙が行われる2020年に、この曲を発表することにためらいはなかったのでしょうか。
ボン・ジョヴィさん
「あってはならないと思います。アーティストとして、人として妥協したら、そして自分にうそをついたら、私は今頃、自分が代表しているつもりの人々や物事に真の価値を見いだせなくなってしまっています」

「はっきりさせておきたいのは、私は決してどちらか片方に味方したわけではないことです。自分の目で見て、体験し、読んだことを、歴史の証人として、曲に書きました。起きたことを誇張したり、陰謀説を唱えたり、私は民主党側であなたは共和党側だと言ったりもしていません。私は記者のように『こういう出来事があった』と事実を述べただけです。そのために誰かが私のアルバムを聴かないと言うのなら、しかたありません。実を言えば、この曲をかけるのを拒絶したラジオ局もありました」
そう語るジョンさんのまなざしからは「いまという時代を生きる責任感」を強く感じました。

日本のファンに…あの歌のタイトル

11月の大統領選挙が終わっても、深く分断されたままのアメリカ。ジョンさんは、そうした状況だからこそ、音楽が果たせる役割は大きいと力を込めます。
ボン・ジョヴィさん
「音楽は、バランスを保つのに優れた手段です。ベルリンの壁がまだあった時代に、私たちが当時のソビエトに招かれたことを考えても分かるでしょう。私たちは独裁者が支配していた国々でもツアーをしました。言語、政治、文化、それに世代の違いがあっても、音楽は人々を1つにするのです。光のように広がり、輝きます」
最後に、縁の深い日本のファンへのメッセージも、ジョンさんは快諾してくれました。
ボン・ジョヴィさん
「日本の皆さんが無事であることをせつに願っています。来年にも行きたい。そして、いつか言ったように『Keep The Faith(希望を持ち続けよう)』」
国際部記者
佐藤真莉子
平成23年入局
福島局、社会部を経て平成27年から国際部
アメリカ、ヨーロッパを担当