コロナ対応で医療従事者の精神的不調 早期発見の新評価法開発

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、対応にあたる医療従事者の負担が大きくなっています。東京医科歯科大学のグループが、新型コロナウイルスに対応する医療従事者の精神的な不調を早い段階で見つけ出すことができる、新しい評価法を開発しました。

新型コロナウイルスに対応する医療従事者は、仕事の負担だけでなく、感染への不安や周囲からの偏見や差別など、多くの精神的なストレスにさらされることが問題となっています。

こうした中、東京医科歯科大学附属病院精神科の高橋英彦教授らのグループは、医療従事者の精神的な不調を見つけ出す新たな評価法を開発しました。

新しい評価法は、9つの質問に答える形式で、仕事のせいで周囲の人が自分を避けると感じるかや人間関係が悪化したかなど、新型コロナウイルスに特有の社会的なストレスについても対応できるようになっています。

それぞれ「ときどきある」「よくある」などの答えを選ぶと、点数の形で結果が分かるということです。

グループによりますと、新しい評価法は、従来の評価法に比べて、新型コロナウイルスに対応する医療従事者の精神的な不調や仕事への意欲の低下などを早い段階で見つけ出すことができるということです。

新たなストレス評価法とは

新たに開発された評価法は、「感染に対する懸念」と「社会的ストレス」の2つの尺度を踏まえた9つの質問で構成され、質問の答えの点数でストレスの状況を把握します。

質問項目のうち、5項目は、「新型コロナウイルスにり患するのがこわい」とか、「周囲にうつすのではないかと不安になる」など『感染に対する懸念』について、ほかの4項目は、「自分の仕事のせいで周囲の人が私を避ける」、「家族の人間関係が悪化した」「経済的負担を感じる」など『社会的なストレス』について尋ねます。

いずれの項目も「一度もない」の0点から「とてもよくある」の4点まで点数化していて、合計して14点以上だとうつ状態など精神的に不調である可能性が高いと判断できるとしています。

病院で医療スタッフ260人にこの新しい評価法を使ったところ、精神的に不調な人が数人、見つかったということです。

新しい評価法は新型コロナウイルスに対応する医療従事者の精神的な不調を早い段階で見つけ出すことができるということで、離職などによる医療提供体制のひっ迫を防ぐためにも広く活用してほしいとしています。
高橋英彦教授は「医療者の数が減れば、医療崩壊しかねない状況なのでその兆候を捉えるため、早めに職員の状態を評価するのは大事だと思う。多くの医療機関からも使いたいと問い合わせが来ているのでぜひ活用してもらいたい」と話しています。

医療従事者負担増 感染不安などがストレスに

東京 文京区にある東京医科歯科大学附属病院では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療従事者の負担が増しています。

病院が撮影した映像では、重症患者が入院する病棟で防護服を着た看護師などが慌ただしく対応にあたる様子や、その様子をガラス越しに確認しながら各診療科の医師とオンラインで結んで、治療の状況を共有する様子がうかがえます。

この病院では、重症患者の平均年齢が10月上旬は58.7歳だったのが、今月上旬には68.2歳まで上がり、高齢の患者が増えたことで人手も多く必要になっているということです。

最近は、中等症でもリハビリや介助が必要な高齢の患者が増えていて、医師や看護師たちは仕事の負担だけでなく、感染への不安など精神的なストレスも多く抱えているということです。

野村恭子看護師長は、「高齢の患者が増えたことでケアの時間が多くなった。ふだんならナースコールですぐに対応できるが、そのつど防護服を着なければならない。1時間で交代することにしているが、最近は90分かかってしまうこともある。市中で感染が増えていることで自分が感染して勤務に影響が出ないかや家族や友人に感染しないか不安に感じているスタッフは多い」と話しています。

社会的ストレスで離職の懸念も

病院では、ことし4月から精神科医などでメンタルヘルスケアチームをつくり、カウンセリングにあたるなど1000人以上の職員に対応してきました。

これまでに2回カウンセリングを受けた救急救命士は、「ダイヤモンドプリンセス号で活動していた時がいちばん恐怖心が強かった。飲酒量が増えたり、体重の増減があったりしたが、相談できたのはよかった。いま重症の患者が増えて周りの病院でも感染者が増えている。いつ休みが取れるかわからない感じになっているので、生活リズムを崩さないようにしたい」と話していました。

高橋英彦教授によりますと、カウンセリングを行う中では感染することへの不安だけでなく、差別を受けたり、家族との関係が悪化したりすることによる「社会的ストレス」が見られたということです。

「感染に対する懸念」は精神的な不調から休職や退職につながる一方、「社会的ストレス」は、仕事に対するモチベーションに影響し、自発的な離職につながる可能性があると指摘しています。

高橋教授は、「世のため人のためにやっているのに医療従事者への差別があったらやってられないとか、家族にうつしたらどうしようと考えてストレスになる。うつとか不安でメンタル的にダウンして病気になってしまうことがあるのと同時に、仕事や職場に対するモチベーションが下がってみずからやめてしまう。第3波では慣れているはずの医療従事者も医療体制がひっ迫しているので不安や緊張感が高まっていて、長期化に対するストレスも大きくなっている」と話しています。