全国の大学病院での手術数 前年比15.5%減 コロナ影響

新型コロナウイルスの影響で、ことし8月までの5か月間に全国の大学病院で行われた手術数が去年の同じ時期と比べて15%余り減ったことが大学病院などでつくる団体の調査で分かりました。団体は、手術が先延ばしになることなどで一般の患者の健康に影響が出るのではないかと懸念しています。

全国の国公私立大学の医学部や大学病院などでつくる団体「全国医学部長病院長会議」は、新型コロナウイルスの患者の受け入れによって、病院の診療にどのような影響が出ているか調べるため、全国138の大学病院を対象にアンケート調査を行いました。

それによりますと、ことし8月までの5か月間に行われた手術は、52万8600件で、前の年の同じ時期と比べて9万6640件、率にして15.5%減ったということです。

4月と5月の減少幅は特に大きく、4月は20%、5月は32.5%減りました。

団体は、新型コロナの感染拡大で患者が受診を控えたほか、多くの病院が通常の医療体制を縮小したり、ICU=集中治療室が埋まり、緊急性が低い手術を延期したりしたことなどが原因とみています。

団体の理事を務める東京大学医学部附属病院の瀬戸泰之病院長は「本来、不要な手術はないはずで、先延ばしになることで一般の患者の健康に影響が出るのではないかと懸念している。最大の心配は症状が進行するがん患者の治療の遅れだ。今の第3波でも手術の減少や延期などの影響が出ている可能性がある」と話しています。

大阪大学医学部附属病院では

全国医学部長病院長会議のアンケートに回答した大阪 吹田市の大阪大学医学部附属病院では、ことし4月から8月までの手術数は4162件で去年の同じ時期と比べ404件、率にしておよそ9%減りました。

4月と5月は特に減少幅が大きく、4月は14%、5月は28%減りました。

手術が減った診療科は眼科や消化器外科、心臓血管外科など15の診療科に及んでいます。

手術の内容別でみますと、視力を回復するための手術や、臓器に達しない傷を縫い合わせる手術など、延期をしても、命に関わらないものの減少が多くなっていますが、中には、胃がんや肺がんの腫瘍の切除や人工心肺を取り付ける手術など、治療が遅れると命に関わるような手術も減っています。

病院では特に緊急性が高い手術は、近くの病院に医師とともに患者を移送して手術を行うなどして、患者に影響が出ないように工夫しているということです。

大阪大学医学部附属病院の土岐祐一郎病院長は「大学病院で行うような高度な手術は、術後にICUが必要になる。大阪は新型コロナの重症患者が多く、ICUがひっ迫している状態でなんとか工夫をしながら対応しているが、それにも限界がある。今後、高度な手術ができなくなるような状況になることを懸念している」と危機感を募らせています。

がん患者支援団体「患者への影響が心配」

全国のがん患者の支援活動を行っている団体「CSRプロジェクト」によりますと、末期のがん「ステージ4」の患者の手術でも病床がいっぱいで1週間から2週間遅れたケースなどが報告されているということです。

団体の代表理事で、自身もがんを経験している桜井なおみさんは「新型コロナの感染拡大が長期化する中、治療を先送りすると、その間に次の波が来て、また先送りにするという形が続いてしまっている」と現状を分析しています。

そのうえで「今後も感染拡大が長引くことを考えると、がん患者への影響が心配だ。このままではがん患者の生存率が下がってしまうおそれがある。病院側も本当に大変なのは理解しているが、なんとかがん患者が手術を含む適切な治療を受け続けられるように医療体制を維持してほしい」と訴えています。