新型コロナ 高齢患者が急増 容体急変と向き合う医療現場では

新型コロナウイルスの“第3波”と言われる感染拡大で、東京都内の総合病院では、先月から重症化のリスクが高い高齢の患者が急増し、容体が急変する事態の対応に追われています。

東京 港区の東京都済生会中央病院は、新型ウイルス専用の病棟を設け、およそ20床で患者を受け入れていて、専用の病棟と一般の病棟は使用する通路なども分離しているということです。

この病院では、65歳以上の高齢の患者の割合は、4月時点では全体の3割ほどでしたが、“第3波”と言われる感染拡大では、徐々にその割合が上がり、先月は6割を超え、急増したということです。

高齢の患者は、心臓の疾患や糖尿病などの基礎疾患があり、合併症が起きるなどして容体が急変することも少なくないほか、認知機能が低下している人には、手厚いケアが必要なケースもあり、医療現場の負担も増しているということです。

総合診療・感染症内科の伊藤航人医師は「高齢の患者は、さまざまな疾患があることが多いので、不慮の合併症が起きるリスクも含めて急変への管理を行う必要がある。近隣だけでなく遠方からも高齢の患者の搬送が増え、『災害』ともいえる状況の中で、人工呼吸器をつけるかどうかなど、重大な決断を下さないといけない人が爆発的に増えた。高齢者は感染すると入院が長期化してしまうため、同居する若い世代もマスクや消毒、会食を減らし、ウイルスを家庭に持ち込まないように注意してほしい」と話していました。

容体急変 難しい高齢患者への対応

高齢の患者が急増している東京都済生会中央病院では、私たちが院内で取材を行っていた日も、比較的状態が落ち着きつつあった高齢の患者の容体が急変し、医師や看護師があわただしく対応に追われていました。

新型コロナウイルスに感染し、治療を続けていた高齢の患者の病室には、医師や看護師が感染防止のためにガウンや専用のマスクを着用して入室し、対応にあたっていました。

この患者は数週間入院していて、最近は比較的、状態は落ち着きつつありましたが、容体が急変しました。

コロナがきっかけとなって、もともと抱えていた疾患が悪化したとみられ、医師や看護師が必要な機器を持ち込むなど、あわただしく対応にあたっていました。

容体が急変した際に使用する薬剤などを入れたカートは、ウイルスが付着しないよう病室の外に置かれ、ドアの開閉は最小限にとどめながら、廊下から室内にいる看護師に薬剤を渡していました。

急きょ調べた血液検査の結果が記された用紙などを病室の医師に伝える際にも、ドアは開けず、窓ガラスに貼り付けて示していました。

伊藤医師は、重症化するリスクが高い高齢の患者への対応の難しさについて「高齢の患者はさまざまな疾患を抱えていることが多く、管理が大変な状況がある。不慮の合併症も含めて、持病が急に悪化することもあり、コロナの管理と同時に行っていかないといけない」と話していました。

付き添いなく 電話で治療方針の話し合いも

家庭内感染が増える中、家族が感染したり濃厚接触者になったりした場合、高齢の患者が誰にも付き添われず搬送されてくることも少なくないということです。

認知機能が低下している高齢の患者の場合、治療の方針について本人の意思を確認することが難しいうえ、家族も濃厚接触者になると、医師が家族とも面会できないまま、短時間の電話で治療方針について話し合いを進めなければならないこともあるということです。

中には、人工呼吸器や人工心肺装置=ECMOを装着するかどうかなど、生死にかかわる重大な決断を電話のやり取りで下してもらわないといけない状況もあり、医師は現状の厳しさを感じるといいます。

伊藤医師は「家族が濃厚接触者になると病院に来ていただけなくなるので、人工呼吸器をつけるかどうかなどの重大な意思決定も、顔を合わせての話し合いができない。高齢の場合、人工呼吸器をつけて仮に生き延びることができたとしても、寝たきりになるなど、本人や家族が期待した形にならないケースもある。日頃から万が一の際にどうしたいか話すことは多くはないと思うので、短時間で治療方針を決定せざるをえない人たちがコロナで増えてしまっている」と話していました。

治療が終わっても 退院できないケースも

高齢の患者は、新型コロナウイルスの治療が終わって退院できる状態になっても、入院生活で足腰が弱り、すぐに退院ができないケースも多いということです。

東京都済生会中央病院では、新型ウイルスの症状が落ち着き、この病院から退院できる段階になると、医師や看護師、それにリハビリなどを担当する理学療法士が集まって、今後の生活をどうするか、話し合いを進めています。

このうち、80代の男性については、入院生活で足腰が弱り、自宅での生活の介助が必要になっていますが、同居する妻も感染していることがわかり、入院したばかりで、近くに住む娘も濃厚接触者となってしまい、家族の中で介助する人がいないということです。

ほかにも、別の病院でリハビリを行ってもらうため、転院を調整しようとしても新型ウイルスに感染していたことから、PCR検査で陰性の確認を2回行ってほしいと求められ、受け入れ先がなかなか見つからないこともあるということです。

伊藤医師は「高齢の患者の場合、コロナに感染して活動性が落ちているので、もともと歩いて生活していた人でも、車いすや寝たきりになることはあり、自宅にすぐに帰れなくなる。また、リハビリテーション病院などに転院してもらう交渉をしても、陰性の確認などから、1か月以上、受けてもらえないこともあり、悩ましい」と話してます。